第309話 互角の戦い

 ☆奈々美視点☆


 準決勝第2試合、東京の都姫女子との試合は開幕早々に私と宮下さんのエースのぶつかり合い。

 現在は1ー2でサーブは都姫女子。


「足立ちゃんナイサー!」


 MBの子かしら? 中々鋭いジャンプサーブを打つみたいだけど、うちのリベロには物足りないわね。


「はいっ!」

「ナイスレシーブ!」

「んじゃまあ、お返しって事で」


 私はレフト側からライトの方へ走る。

 奈央は、それを見てバックトスを上げる。

 さすが、わかってんじゃないの。

 先程、宮下さんにやられたブロードをそっくりそのまま返してやるわ。

 私は勢いよく跳び上がる。

 ブロックが2枚、ストレートを閉めてきたけど、私は宮下さんが打ったのと同じ、インナースパイクを叩き込んだ。


 ピッ!


「ナイス奈々ちゃん! さすがだねぇ」

「まあ、宮下さんには負けてらないっていうか?」

「わかるわかる。 今日は大暴れしてね、私達のエースさん」


 亜美が背中をポンッと叩いてエールを送ってくれる。

 言われなくてもそのつもりだっての。


「私達にも打たせなさいよー?」

「奈央に言いなさいよ。 セッターの奈央に」


 ボールをどこに上げるかは、奈央に任せている。

 私に言われても困るわけ。


「今日は、奈々美の調子が良いから奈々美に集めるわよ。 まあ、他の人にも上げるは上げるけど。 黒川さんもそのつもりでね」

「は、はいっ!」


 まだ固いわね、黒川さん。 高さはあるしスパイクも打てる良いプレーヤーなんだけど、まだまだ経験不足ってとこね。


「黒ちゃん入れてこー」


 ローテーションして希望は一旦ベンチへ。 代わりに渚が入ってくる。

 黒川さんのサーブ。 この子はフローターサーブ使い。

 これがまた中々の曲者で、そこから色んな変化球を打つ。

 今回はちょっと横回転のかかったカーブサーブだ。

 相手リベロの手前で僅かに軌道が変化し、レシーブを乱す。 技ありのサーブだわ。


「やるじゃん! その子!」

「なっ?!」


 完全に油断してた。 乱れたレシーブに対して、宮下さんが跳んでいたのだ。 まさかここからツーで打ってくるの?


「ええい、間に合え!」


 私は慌ててブロックに跳ぶ。 1枚でも無いよりは全然ましでしょう。

 そう思ったけど、咄嗟に跳んだのは私だけじゃなく紗希もだったようだ。

 これで2枚。 奇襲策敗れたり。


「おーおー、フォロー早いねー、さっすが! でも、残念!」


 宮下さんはそこからスパイク──ではなく、逆サイドにトスを上げた。


「トスゥ?!」

「きゃはは、やられたねー」


 逆サイドでは、もう1人のOHの子が跳んでいた。 まんまと誘いに乗ってしまった私と紗希を尻目に、クイックを打つ。 渚が1人でブロックに跳ぶも、1枚では止めることは出来ずに得点を許してしまう。


「やってくれたわねぇー」

「何もスパイク決めるだけがエースじゃあないってねぇ」


 バチバチ……


 宮下さん……亜美や弥生に隠れてわかり辛いけど、やっぱこの子も上手いわ。

 

「さすが、高校女子バレーのOHで5本指に入ると言われるだけあるわ」

「いやいや、あんたもその5本指でしょ」


 横から紗希にツッコミを入れられる。 あれ、そうだったかしら?

 全然そんなつもりはなかったんだけど……。


「まぁまぁ、今日は目一杯楽しみましょ。 んで、勝つのは私達、都姫ね」

「ふふん。 言わせておいてあげるわ。 試合が終わった後に吠え面かいてるのを見るのが楽しみだわ」

「はいはい美智香、ローテーションしないと反則取られるわよー」

「あー押すなー」


 もう1人のOHに押されながらローテーションしていく宮下さん。

 何というか面白い子よね。 亜美も言ってたけど、たしかにどことなくうちの麻美にも似てるわね。


「美智香ーナーイスサー!」


 ここで宮下さんはサーバーになるため後衛に下がっている。 とはいえ、彼女はバックアタックも侮れない。

 宮下さんが助走を開始してボールをトスし、ジャンプサーブを打ってきた。 亜美ほどではないにしろ、抜群のサーブコントロールを持つ宮下さんのジャンプサーブが、黒川さんを襲う。

 レセプションが上手いかどうか、それを探りに来たのだろうか。

 でも、残念ね。 うちの鍛え方はそんな温くないわよ。 あーキャプテンは温いけど。


「ひゃいっ」


 情けない声を上げながらも、しっかりとレシーブしてみせる黒川さん。

 ボールも良い方向に上げているし、合格点ね。 奈央がセットアップして私と紗希と渚が、それぞれのテンポでポジションに移動する。

 奈央は、クイックを要求した紗希にボールを上げた。 私にブロックが2枚来たのも見て取ったのだろう。 エースは時に、強力な囮にもなるのよね。


「キタキター! うりゃっ!」

「うわ、たっか!?」


 紗希の高い高い速攻が、鋭角に叩きつけられる。 世界新を出した亜美には及ばないものの、身長の高さを活かした高いジャンプが紗希の武器。

 大会前の測定では314cmをマークしていた。


「ナイスナイスー!」

「奈々美にばっか良いとこ持ってかれるわけにはいかないもんねー。 うぇーい」


 皆とハイタッチを交わす紗希。  奈央にだけは屈んでハイタッチしていたけど。

 私達月学は、全員が点を取れるプレーヤーだ。

 私はエースだなんて言われてるけど、うちのチームは皆がエースだと思ってるわ。

 紗希もそうだし、亜美や渚、それに黒川ちゃんや奈央だって。


「中々ブレイクできないねぇ」

「そうね。 やっぱ強いわ、あちらさんも」


 試合はまだまだ最序盤だけど、3-3のシーソーゲーム。

 どこかでブレイクしときたいところだけど、中々都姫の攻撃を阻止できないでいる。

 攻撃力が高いチームではあるけど、何とかしないといけないわね。 その為にはやっぱりブロックポイント取らないと。

 とりあえずローテーション。 っと、次は私のサーブね。 この試合もワンミスが命取りになりそうだし、サーブミスだけは避けないと。

 でも、今はまだ序盤……堅に回るのは早いってね。

 私は勢いよく助走し、ジャンプサーブを打ち込む。 亜美や宮下さんみたいな繊細なコントロールはできない分、パワーで相手のレシーブを崩すのが私のサーブ。

 相手はリベロがいない陣形ながら、代わりに入ったOHが体勢を崩しながらもレセプションする。


「あまり崩せないか……」

「渚ー、止めるわよー」

「ラジャです」


 紗希と渚がブロックを形成する、トスは……アタックラインより後ろに上がっている。

 ということは、宮下さんのバックアタック。


「っ!」


 パァンッ!


 矢のようなバックアタックが黒川さんを襲う。 狙ってきてるわね、うちの1年生ちゃんを。

 黒川さんはなんとかディグを試みるも、勢いを殺せずに後ろに逸らしてしまう。

 かなり強烈なバックアタックだったわね。


「す、すいませんっ!」

「いやいや、今のは仕方ないわよ。 気にしない気にしない」

「は、はい」


 あそこからでも的確に黒川さんを狙い打てるか。 もともと打ち分けるコントロールはあったけど、世界選手権以降磨きがかかってるわね。 黛姉妹といい弥生といいどいつもこいつも……。


「底が知れないわね皆」


 試合はまだまだシーソーゲーム。 どこでこの句膠着状態が崩れるだろうか?

 気の抜けない試合ね……。

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