第306話 世界レベル
☆亜美視点☆
翌日──
今日は準決勝だ。
準決勝第1試合は京都立華と大阪銀光の2校で争われる。
私達は早めに体育館へ来て、その試合を観戦することに。
「亜美。 どっちが勝つと思う?」
「わかんないねぇ……差はないと思うけど、総合力なら立華だと思う」
「私達としても、どっちが勝っても辛いわよねー」
その前に私達も準決勝を勝たないといけないんだけどね。
さてこの試合の見どころは、大阪の攻撃を京都がどう凌いでいくのかという点だ。 去年私達と試合した時は、あえてブロックに跳ばないという斬新な作戦を用いて対策してきた京都立華。
今年は新たに何か考えてるんだろうか?
「どんな試合になるか楽しみだなー」
「そうねー」
皆、この1戦に大注目である。 何といっても、どちらの学校にも世界選手権で活躍したプレーヤーがいるのだ。 私達だけじゃなくて、バレーボールファンの誰もが注目するカードである。
世界レベルの試合が今始まる。
「サーブは大阪からね」
「うん」
黛妹さんがサーブを打つと、リベロの上野さんがボールを拾う。 上野さんもリベロとして世界選手権に出場して活躍していた選手だ。
上がったボールを眞鍋さんがトス。 眞鍋さんはバレー部に残ったんだね。 進路決まってるんだろうか。
トスされたボールを、弥生ちゃんが力一杯にスパイクすると、ブロッカーの手をはじいてブロックアウトにする。
「相変わらずパワーあるわね」
「奈々ちゃん程じゃないよ」
「お姉ちゃん……強うなっとる……」
「あれも世界戦を経験してるから」
奈央ちゃんは顎に手を当てながら試合を見ている。
麻美ちゃんも、何か癖や弱点が無いかをじーっと見ている。 彼女の観察力にも何度も助けられているよ。
さて、次は立華サーブ。 サーバーは眞鍋さんだ。 眞鍋さんは入れにいくサーブを打った。 それを拾うのはリベロの選手。
そして早速出たよ、姉妹の高速連携。
跳び上がった姉に妹がドンピシャのトスを合わせると、降り抜いた腕でボールをジャストミート。
誰も追いつけない高速のクイックとなって、京都立華コートに突き刺さる。
「……」
「相変わらずねーアレ」
紗希ちゃんは、苦笑いしながらそう言う。
本家本元の超高速連携である。
私達はサインプレーで奈央ちゃんから指示されて同時連携をやっているわけだけど、あの姉妹はノーサインでやっている。 姉妹だからこそだね。
「やっぱ、大阪とはやりたくないなぁ……ブロッカーとしては」
「そうだねー。 あの連携の相手は正直したくないかなー」
と、ブロッカー2人の意見である。 インターハイでも散々苦しめられたからね。 麻美ちゃんの機転を利かせたプレーが無ければ、勝てなかったかもしれない。
それぐらい強力かつ厄介な連携なのだ。
試合は大阪ペースで進んでいく。 やっぱり立華もあの連携には苦戦させられているようだ。 後出しじゃんけんがあるとはわかっていても、黛姉さんのジャンプをそのまま放置しておくのは得策ではない。 だから最低1人は常に姉さんのブロックにつきたいところ。 今、そのブロックを担っているのはキャミィさんである。
「高いブロックよねぇ、あれも」
「世界レベルだねぇ」
高さだけならアメリカ代表だったオリヴィアさんにも匹敵するかもしれない。 技術ではまだまだだけどね。
「さすがに、あのブロック相手には姉さんの方を使いづらいみたいねー。 他の選手にトスを上げる場面が増えてきてる」
「そうだなー」
紗希ちゃんの言う通り、キャミィさんがブロックにつくようになってからは、あからさまに他の選手へのトスが増えている。 キャミィさんの高さが、高速連携封じに一役買っているようだ。
他の選手へのトスが増えてくるとなると、それだけ読みやすくなるという事。 だから……。
パンッ!
「捕まったねぇ」
「やるなー、京都ー」
麻美ちゃんも感心している。 変な搦め手ではなく、純粋に高さと戦略で大阪の連携を上手く支配している。
こうなってくると辛いのは大阪銀光側だ。 キャミィさんに臆せず、お姉さんも使っていかないといけなくなった。 銀光側はここでテクニカルタイムアウトを取って流れを変える作戦のようだ。
「まだ銀光リードとはいえ、この序盤で対策されたのは痛手ね」
奈々ちゃんの言う通りだ。 これが終盤なら力押しで何とか逃げ切ることも可能だっただろうけど、試合はまだ1セット目も序盤を過ぎたところ。 大阪銀光の武器はこの序盤で早くも威力半減。
「さぁ、どうするのかしらね」
「んー、あの姉妹、焦りが見えないんだよねー。 何か隠してるよあれ」
麻美ちゃんは相変わらずの観察力と洞察力を発揮している。 まだ隠し玉があるかもしれないってことだろう。 だとしたら一体どんな隠し玉を用意してるんだろうか。
試合再開。 立華側のサーブを、妹さんが拾わされる。 これも高速連携封じには上策といえる。 妹さんがトスを上げられなければ、高速連携は成り立たないのだ。
成り立たないはずだったんだけど……。
「……え?」
「あらま……」
「やってくれるねー、あの姉妹」
成立しないはずだった高速連携が成立した。 妹さんがレシーブした時点で、妹さんはトスを上げることは出来なくなる。 妹さんから姉さんへのクイック気味のトスが無ければ高速連携にはならないのだけど……。
「まさか、姉の方がトスを上げるとは思いませんでしたわ」
「だね」
そうなのだ。 今トスを上げたのはOHであるお姉さんの方だったのだ。 それも、妹さんに負けず劣らずのドンピシャトスを。
「逆パターンを編み出してたってことですかね?」
「そうだね……」
またまたこれは……。
「見るたびに厄介度が増してきますわねーあの姉妹」
「本当にもうやりたくないー!」
麻美ちゃんが発狂するぐらいの厄介さという事である。
立華側もこの攻撃には唖然としている。 トスを上げるのがどちらかを見極めてからブロックにつかなければならない。
そして、姉妹の隠し玉はこれだけではなかった。
2人が同じことをできるようになったことで、とんでもない連携を編み出してきていた。
「うわわ……何あれ」
「うへー」
「わけわかんないわよあれー」
「えぐい連携だねーあれは。 読めないうえにガード不能だよー」
たった今、姉妹が見せた連携の全容はこうだ。
姉妹以外のプレーヤーが上げたレシーブに対して、姉妹が交差するように同時に走り出す。
交差する直前で、2人が同時にジャンプして、片方がバックトスを、もう片方が腕を振って高速連携の動作を行う。
ギリギリまでどちらがトスを上げて、どちらが打ってくるかわからない高速連携である。
「こりゃ、弥生達厳しいわね」
「うん……即興であの連携に対策するのは不可能だよ……」
「むむーっ……」
麻美ちゃんも既に大阪が勝つと予想して、あの連携に対しての対策を考えようとしている。
世界選手権以降、ここまで進化してるとは正直思ってなかったよ。 それは京都立華の方も同じで、かなり焦っているのが見て取れる。
「弥生ちゃん……」
「お姉ちゃんは負けへん……」
「渚……」
渚ちゃんが、お姉さんである弥生ちゃん贔屓のようだ。 私としても、ライバルが私以外に負けるところはあまり見たくないね。
黛姉妹だけが進化したわけじゃないってところを見せてほしいところだよ。
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