第220話 月ノ木学園VS都姫女子

 ☆奈々美視点☆

 

 今日からは決勝トーナメント。

 私達は東京代表の都姫みやび女子と対戦が組まれているわ。

 都姫と言えば、春の強化合宿で同じく日本ユースメンバーに選ばれた宮下美智香さんがいる学校ね。

 去年の大会では対戦する機会無かったけど、強豪であることには違いない。

 気を引き締めてかかるわよ。


 私達レギュラーは、現在ロッカールームで着替え中。


「私達、昨日は試合出てなくてもうウズウズしてるのよねー」

「そうね」


 昨日は1年生中心に、亜美、塩谷先輩、遥ぐらいしか試合に出ていない。

 本日は今大会初スタメンよ。


「大丈夫? 体鈍ってない?」

「別に1日試合出なくたって、鈍ったりしないってば。 ウォームアップすれば余裕よ」

「さっすが奈々ちゃん」

「先輩方、頑張ってください」


 小川ちゃんが、握り拳を作って声援を送ってくれる。

 今日は私達2年生中心のスタメンの為、1、3年生はベンチスタート。

 とは言っても。


「あんた達も出番あるかもしれないんだし、気を抜かない様に」

「は、はい」


 一同着替え終わったのを確認して、ベンチへと移動する。

 ベンチに集合すると、すぐに宮下さんが挨拶にやってくる。

 余裕あるわね。


「やっほ」

「あ、宮下さん久しぶり」


 亜美が元気に挨拶を返す。


「敵情視察にやってまいりました」

「自らスパイを名乗るとは中々余裕ね」

「無い無い。 胸を借りるつもりでいくわよ」


 なんて言っているが、目は「ぶっ倒してやる」と語っている。

 おっかないわねぇまったく。


「んじゃ、お手柔らかにー」


 と、冗談っぽく良いながら、都姫ベンチへと戻っていった。

 軽い感じに見えるけど、バレーボールプレーヤーとしては一流。

 今大会5指には入るOHアウトサイドヒッターね。

 私達はベンチ前に集まり、作戦会議を始める。


「今日はどうする?」

「まず、皆さんの調子を見させてもらって、そこからは私が組み立てますわ。 サイン見逃さないでくださいね」

「了解」


 2年生メンバーの司令塔、奈央の作戦に乗る。

 この子に任せておけば間違いないということは、私達が一番よく知っている。

 私達はコートに入り、軽く体を動かした後で試合開始の合図を待つ。


「あと、今日はアレを試したいので覚えておいてくださいね」

「アレもうやるの?」

「実戦で感覚を掴んでおきたいんですのよ」


 アレとはここ最近練習している、ある連携だ。

 ほぼ完成しているけれど、実戦では初めて使う。

 これが上手くいけば火力が大幅に上がるわ。


「わかったよ」


 私と亜美は頷いて応えた。


 ということで試合開始。


 フォーメーションはいつも取りで


 私  亜美 遥

 紗希 希望 奈央


 となっているわ。

 私達サーブから開始よ。

 小さな体からパワフルなジャンプサーブを放つのは、我らが司令塔の奈央。


「はいっ」


 パワフルサーブはあっさり拾われてしまう。

 ここは攻撃が返ってくるわね。

 宮下さんも助走に入っている。

 私には、麻美のようなブロックの才能は無いので素直にリードブロック。

 センターの亜美はコミットブロックに跳んだようだけど読みは外れたらしい。

 遥が私の隣に走り込んできた。


「せーの!」


 2人でブロックを形成する。


「藍沢さん! 勝負!!」

「来なさい!!」


 宮下さんが声を上げながら思いっきり腕を振り抜いた。

 宮下さんは、パワーもそこそこありバックアタックが得意な選手だけど、本当に目を見張るのは空中での視野の広さとそのテクニック。


「ぅぁっ!」


 パァン!


 私の左手に当てる様にして放たれたスパイクは、コートの外へと弾き出される。


「(やっぱ上手いわ)」

「よしっ!」


 先制を許してしまう私達。

 サーブ交替で、私達がレシーバーとなる。

 ブレイクだけは避けたいところね。

 お相手さんのサーブが飛んでくるのを、希望が冷静に処理する。

 奈央のサインを確認して、それぞれのタイミングで助走を開始。

 私は早めの助走でクイックを担当、亜美と紗希が同時に走りバックアタックとオープン攻撃を担当する。


「はいっ!」


 高く上がったボールは、私の少し右後ろ側で紗希の方へ飛んで行く。

 私のジャンプに食い付いた宮下さんだったけど残念ね。


「てぇい!」


 高身長と思い切り良く腕振り抜いた、弾丸のようなバックアタックはクロス方向へ飛んで行き見事にコートに突き刺さった。


「よし!」

「ナイス紗希ちゃーん」

「いぇい」


 これで1-1。

 まずまずの滑り出しってところね。

 ローテーションで亜美のサーブ。


「清水さんのサーブ、臭い所は全部拾ってください! ライン上にコントロールしてきます!」

「OK!」


 亜美の得意技はどうやらバレているようだ。 合宿で見せてたものね、宮下さんにはバレバレか。

 でも、亜美にはまだ見せていない隠し玉があるのよね。

 そろそろ見せてもいいんじゃないかしら。

 亜美はボールを2回ほど突いてから、助走に入る。

 ボールをトスしてのジャンプサーブを打つ。

 そのボールは珍しくコントロールミスしたかのように、コートサイドの方へと飛んで行く。

 さすがの相手チームも、これはアウトと判断して拾いに行かない。

 しかし、これこそが亜美の隠し玉。

 強烈な横回転を掛けられたサーブは、アウトだと思われたコースから急激に曲がってライン上に接地する。


 ピッ!


「えっ、入った?!」


 さすがにこれには驚愕の顔を見せる宮下さん。


「て、訂正! 清水さんのサーブは全部拾ってください!」

「お、OK」


 それが正解なのよねぇ。

 この子がミスってサーブを外すなんて事はまずないのよ。

 次は至って普通のサーブを打ち、相手の攻撃で1点を返される。

 とはいえ、サービスエースでブレイクしているので問題無し。


 今度はお相手さんのサーブを受けて、再び先程のパターンで助走に入る。

 お次も高いトスが上がり、私はクイックに跳ぶ。

 今回は宮下さんも釣れなくて、ブロックを剥がすことは出来なかった。

 だーけーどー。


「げっ、清水さん」


 今度は亜美のオープン攻撃よ。

 相変わらずの高いジャンプから、ブロックの上を叩く一撃。

 今日も調子良さそうね、この子。


「くぅー……止まんないかー」

「もっと高く跳ばないと、私は止まらないよぉ」

「ぐぬー」


 宮下さん、めっちゃ悔しそうにしている。

 わかるわー、その気持ち。


「亜美ちゃんも調子良さそうですわね」

「うんっ」


 後は私ね、さっさと私にボール寄越しなさいよ。

 今度は私のサーブよ。

 私は、とにかくパワーとスピードに重きを置いたジャンプサーブを放った。


 パァン!


 私の弾丸サーブを相手Lが拾うが、威力に負けて大きくボールが逸れてしまう。

 相手コートがバタバタとして結局オーバハンドで返すに留まる。

 チャンスボールが返って来たわね。

 今度は紗希が最初に走りだし、私と亜美、そして希望の代わりに入った塩谷先輩が助走に。


「はいっ!」

「よし来たわね!」


 ようやく回ってきた私の攻撃。


「どりゃ!」


 思いっきり叩きつけたバックアタックは、相手Lも止められずに大きく後逸してしまいワンタッチアウト。


「よしよし」


 ここでリードを広げる。

 都姫との試合もいい感じだ。 まだアレも出してないし、このままこのセットを取るわよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る