第219話 予選開始

 ☆亜美視点☆


 私達月ノ木学園バレーボール部は、インターハイの開会式中。

 試合は明日から始まる。

 1回戦は北海道代表の試合。

 ここでは1年生達をメインに戦ってもらう。

 もちろん、危なそうなら私達が入るわけだけど、多分大丈夫だろう。

 開会式を終えるとホテルに戻り、2日目のミーティング。

 昨日は長旅で疲れていたので、軽いミーティングのみで終えていた。

 今日は本格的な物だ。


「さて、明日から試合が始まるわけだけど。 1戦目の北海道代表、北雪は今大会初出場校。 とはいえ、北海道大会を抜けてきたチームだから間違いなく強豪よ」


 キャプテンの話が進む。


「で、その初戦は昨日も言ったけど1年生を使っていくわ。 明日のスタメンはOHに清水さん、月島さん、塩谷さん。 MBは藍沢麻美さん。 S小川さんでLが夏木さん。 リベロの交代要員に蒼井さん。 とりあえず1セット目はこれで様子見るわ。 これで大丈夫そうなら1回戦はこのメンバーで戦ってもらいます」

「はいっ」


 私も1回戦のスタメンに入っているようだ。 ユーティリティプレーヤーだからだろうか。

 攻撃は塩谷先輩と渚ちゃんに任せても良さそうかな?


「で、そこ勝った場合の以降の試合だけど……Cグループを勝ち上がってくるチームね……東京の都姫女子が相手になる可能性が高いわ」


 東京の都姫女子……私達と一緒に、日本ユースのレギュラーになった宮下さんがいる学校だ。

 東京の強豪校だし油断できないね。


「ここには宮下さんがいるわ。 強敵ね。 さすがに2年生中心のベストメンバーで行くわ。 でも、出せそうなら1年も3年も出すから気を抜かない事」

「はいっ」


 その先の決勝トーナメントはまだどうなるかわからないけど、順調に勝ち上がってくれば決勝トーナメント2回戦で大阪銀光と当たる。

 高速連携の黛姉妹がいる学校だよ。


「今年も楽には勝たせてもらえなさそうだよ……」



 ◆◇◆◇◆◇



 ということで、1戦目の北海道北雪高校戦開始だよ。

 私のポジションはライトの前衛。 いつもはセンターから始まるから新鮮だ。

 大体なんで私がセンターなんだろう? 普通は遥ちゃんなのに。


「じゃあ、予選1回戦きばっていくわよー」


 3年の塩谷先輩が声を出してくれる。


「おー!」


 コートにばらけてポジションに着く。


「よろしくお願いします」

「予選からとんでもない所と当たってしまったべ……」

「あはは……でも北海道予選抜けてきた強豪だし、手は抜かないですよ」

「こりゃゆるくないべや……」


 試合開始──


「小川さんナイサー」


 1年生セッター小川さんのサーブから。

 あまりビッグサーバーって感じじゃないけど、丁寧なサーブを打つ選手だ。

 小川さんのサーブが相手陣地の深い場所に飛んで行く。

 Lが余裕を持って拾ってきた。


「……」


 相手の攻撃の流れを良く見てみる。

 うわわ、皆走ってる?

 全員攻撃かぁ。


「はいっ」


 ボールの行方を見てみる。

 うわわ、速攻だこれ。

 リードブロックでは間に合わ……。


「うぇーい!」


 パンッ!


 その速攻を読んでいたのかはわからないけど、麻美ちゃんがコミットブロックに跳んでいた。


「ナ、ナイスブロックー麻美ちゃん。 読んでたの?」

「臭ったー」


 に、臭ったって……相変わらず麻美ちゃんの嗅覚はどうなってるんだろう?

 と、とにかく1ブレイク。

 それにしても珍しい攻撃してくるなぁ。 全員で走るとかブロックフォローは捨ててる攻撃全振りチームって事だろうか。


「もう1本!」


 小川さんが続けてサーブを放つ。 今度は浅い所に落ちたボールを相手セッターに拾わせる。

 よしよし、上手いよ。


「って、うわわ……」


 レセプションしたSの人も走ってるよぉ。

 攻撃に参加できる人は、とにかく全員参加って事?

 完全に攻撃偏重のチームだ。


「うぇーい!」

「え?!」


 パンッ!


 ツ……ツーアタック。

 しかも麻美ちゃんはそれを読んで跳んだ?

 どうなってるのこの読み合い?


「に、臭った?」

「ぷんぷんと」


 わ、わからない感覚だよ。

 凄いブロッカーになったものだ。

 とにかく2ブレイク。

 その次のサーブは相手に攻撃を通されてサーブチェンジ。

 でも2ブレイクは大きいね。


「1本で切るよぉ」

「はいっ」


 お相手のサーブを、Lの夏木さんが拾う。

 私は1テンポ遅らせて助走を始める。

 他に麻美ちゃんと、塩谷先輩も助走中。

 まず最初に塩谷さんが速攻のタイミングで跳んだが、それは囮で本命は渚ちゃんのバックアタック。


「うりゃ!!」


 パンッ!


 奈々美ちゃんに負けず劣らずのパワフルなバックアタックが相手ブロックを突き付けてブロックアウトを取る。

 パワーで押していくねぇ。

 とにかく3点目ゲット。

 1年生達も緊張で硬くなるかと思ったけど、コートに入るといつも通りだし良い感じだね。

 私はサポートに回ってるだけで良さそうだよ。


「清水ナイサー!」


 って、私のサーブだね。

 じゃあまずはいつものライン上サーブから見せますか。


「っぁ!」


 パァン!


 ジャンピングからのサーブで、アウトギリギリのところを狙っていく。

 相手チーム、これは迷ったようだが見送る。


 ピッ!


 ラインズマンの判定はイン。 こちらの得点だよ。


「うへぇ……なまらやわかサーブ……」


 よし今日も好調だよ。

 次はと……。


 今度はフローターサーブ。

 私のはそんなに上手くないけど、それでも相手を崩すことはできる。

 相手Lが、戸惑いながらなんとか拾って繋いでくる。


「うぇーい!!」


 パァン!


 って、また変なブロックしてるよこの子は。

 しかもしっかり止めてるのが怖い。 ブロック率高いねぇ。


「あんた、どないなってんの?」

「何が?」

「いや、ええわ……」


 渚ちゃんもこれにはお手上げ。 テレビ解説とかでも色々言われてそうだ。

 その後も、特に私が攻撃に参加せずとも着実に得点していく新生月ノ木学園。

 北雪高校の全員攻撃に、何故か対応している麻美ちゃん。

 パワーで押せ押せの渚ちゃんに、しっかりと合わせる小川さん。

 1年生もレベル高いね。

 2セット目もこのメンバーで戦い──。


「こりゃ、わたしがたじゃあっぱぐさいっしょや」


 あっぱぐさいって相手にならないとかって意味だっけ?

 スコアを見てみるとセットカウント1-0で22-14となっている。

 とはいえやっぱり全国まで来るだけあって、地力はある。

 こんな攻撃もあるんだと、参考になる。


「はいっ」

「でやぁ!」


 渚ちゃんが気合十分のスパイクを放ち、予選グループ1戦目を勝ちで終えていち早く勝ち抜けを決める。


「お疲れ様でした!」


 挨拶を交わしてコートを出る。

 ベンチへ戻って速報を聞くと、別会場でやっている都姫、銀光、立華も順当に勝ち上がって来たらしい。

 次の相手は宮下さんのいる都姫女子に決定。


「いきなりぶつかるのねー」

「優勝するならどこにも負けられないし、遅かれ早かれだよ」


 今年の決勝トーナメントは、茨の道だよ。

 強豪校を連破していかなければいけないのだから。

 気を引き締めてかかるよ。

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