第211話 七夕の夜

 ☆亜美視点☆


 カリカリ……カリカリ……


 現在私達は期末試験の真っ最中。

 問題用紙と睨めっこしながら、解答用紙を埋めていく。


 とはいえ、既に私はほとんど終わっていて、残り数問を残すのみ。


 スラスラ……


「(出来たー)」


 解答を埋め終わったので、ズレや間違いが無いかを見直す。

 これも大丈夫、これも合ってる──。

 という風に、2回程見直して間違いない事を確認した。

 もうやる事も無いので、机に突っ伏して寝る。


「(そういえば今日は七夕かぁ……天気は曇り。 天の川は見れるだろうか?)」


 キーンコーン──


 チャイムが鳴り響き、今日の試験は無事に終了。

 試験期間中は部活も無いので、そのまま帰る事になる。


「夕ちゃん、希望ちゃん、紗希ちゃん、帰ろ」

「おう」

「はーい」

「帰るー」


 私達仲良しグループは、そそくさと教室を後にする。

 正門前でA組メンバーを待ち、集合したら今日はファストフード店へ向かう。


「亜美ちゃん、試験の出来はどんな感じですの?」


 奈央ちゃんが、ライバルである私の動向を探りに来た。


「いつも通りだよ」

「はぁ……つまり完璧って事ですわね……」


 勉強だけは負けてあげるつもりは無いよ。


 いつものメンバーで、ファストフード店へとやって来た私達。

 駄弁りながら昼食タイムだ。


「そだそだ、柏原君は手応えどんな感じだって?」


 今回の期末試験最大の焦点は、柏原君の試験結果である。

 柏原君の成績が落ちてしまうと、紗希ちゃんと柏原君は別れさせられてしまうのだ。

 何としても阻止しないとね。

 紗希ちゃんは、ハンバーガーを頬張りながら。


「今のところ順調みたい。 亜美ちゃんの教えたとこが出題されまくってるってびっくりしてたわよ」

「相変わらず亜美ちゃんはすげぇな」


 私の家庭教師を受けた事のある宏ちゃんが、少し呆れたように言う。

 そんな凄いかな。


「亜美ちゃんは何で虹高に行かなかったんだい?」


 遥ちゃんに訊かれる。


「だって、皆は月学行くって言うから……。 バレーボール皆とやりたかったもん」


 嘘偽りない本音である。


「亜美ってば、そんなに私達が好きなの?」


 奈々ちゃんは、頬杖を突きながら私に訊いてくる。

 そんなことは考えるまでもないね。


「皆大好きだよー」


 楽しい高校生活が送れているのは、間違いなく皆のおかげだ。

 これには本当に感謝。

 

「恥ずかしい事をまあ自信満々に……」


 奈々ちゃんは呆れたように言うものの、顔は嬉しそうに微笑んでいた。


「そうだ、宏ちゃんは今回どう?」

「あぁ、大丈夫そうだぞ」

「佐々木、あんたどうしちまったんだ……」


 と、意外そうな声を上げるのは遥ちゃん。

 最近の宏ちゃんは、よく頑張っていて成績も上がっている。

 留年問題が効いたのだろう。


「ふんっ、俺はやりゃ出来るんだよ。 蒼井、お前も精々留年しないように頑張るんだな」

「うぐぐ、佐々木のくせに!」

「きゃははは! でも遥だって気を抜いたら赤点取っちゃうぐらいギリギリじゃん? 佐々木君の言う通り、気を付けてねー」

「わ、わかってるよ!」

「なんなら、私が勉強教えてあげるよ?」


 この際だから、皆まとめて成績アップさせてあげよう。

 遥ちゃんは「ま、また今度お願い」と、遠慮がちに言うのだった。

 大丈夫かなー?


「遥、勉強もだけどさ、あっちはどうなのよ?」


 奈々ちゃんはコーラを飲みながら、遥ちゃんに話題を振る。


「あっち?」


 首を傾げる遥ちゃんに、希望が畳み掛ける。


「噂の彼に彼女がいるか訊いたの?」

「?!」

「えー、何それ? 遥、私達に相談も無く?」


 奈央ちゃんはとても不満そうだ。

 遥ちゃんに信用されてないって思ったのかもしれない。


「奈央と紗希は、すぐ面白がって変な方向に走り出すだろー?」

「ひどーい。 遥は親友だと思ってたのにぃ」


 紗希ちゃんが、嘘泣きしながらそんな事を言う。

 顔は笑っているので、芝居としては0点だ。


「それで、どうなのよ?」

「ま、まだ訊いてない……」

「はー、呆れた……あれから一回ぐらいは会ってるでしょ?」

「週末にジムで……」

「次は?」

「週末にジムで……」

「今度こそ訊いてくるのよ? あわよくば告白!」

「できるかっ!」


 大きな声を上げる遥ちゃん。

 でも、恋愛に関しては慌てるぐらいが良いと思う。

 ゆっくりして誰かに取られたりしたら、目も当てられない。

 頑張って、遥ちゃん。



 ◆◇◆◇◆◇



 夜──


「いただきます」

「いただきまーす!」


 夕飯である。

 今日は不定期料理教室の日で、麻美ちゃん、渚ちゃんも一緒。


「そだ、雲晴れたかな?」

「雲?」

「夕也兄ぃ、今日は七夕だよ?」

「あーそうか」


 私の彦星様はあまり興味無さそうだ。

 去年は「先はどうなるかわからない」なんて話をしてたっけ?

 本当だね。

 まさか、私が夕ちゃんの恋人になれるなんて思ってなかった。


「今年は曇ってるから、星は見えないかなぁ」


 どうやら、まだ雲は厚いらしい。

 残念だよ。


「去年は綺麗に見えたのにね」


 そういえば、希望ちゃんと少しだけ見たね。

 あんな風に見れたのは久しぶりだった。

 大体は、今日みたいに曇ってて見えないんだよねぇ。


「清水先輩と今井先輩は、いつも一緒にいるから織姫と彦星とはちょっと違いますね」

「あはは、そうだね。 毎日会えるしね」


 年1回しか会えない織姫と彦星には悪いけどね。

 私だったら耐えられないなぁ。


「奈央ちゃんと春人くんなんかは、結構近いかもね」


 希望ちゃんが言うように、あの2人は超遠距離恋愛中である。

 よく電話で話したりはしてるらしいけど、大型連休ぐらいでしか会えないという点は似ているのかも。


「はー、私の彦星様はどこにいるのかなぁ!」

「おらんやろー」

「いるよー!」


 後輩2人のやり取りを、罪悪感に駆られながらも見つめる。

 2人は夕ちゃんに気がある事を、私は知っている。

 この場にいる皆が、夕ちゃんの事を好きだという事実。

 そんな夕ちゃんを、私が独り占めしている……。


「ふ、2人とも可愛いしきっといい人見つかるよ」

「そうでしょ! 亜美姉良くわかってる!」


 麻美ちゃんなんかは、あまり気にした様子は無いみたいだ。

 どういう心境なんだろう。


「麻美ちゃんってよ、昔は俺のお嫁さんになるとか良く言ってたよな?」


 と、夕ちゃん。

 そうなんだよね。 麻美ちゃんは年月で言えば希望ちゃんよりも年季が入っている。

 4歳ぐらいの頃からずっと言ってたね。


「ははは。 そうだね! 夕也兄ぃ、私がお嫁さんになったげよっか?」

「おいおい……」


 さすがに今はシャレにならないよねぇ。


「別に言うぐらい良いじゃん。 私は今でも夕也兄ぃの事好きだよ?」

「うぇっ?!」

「あ、麻美?!」

「おおー……」


 麻美ちゃんが、なんというか軽い感じで夕ちゃんに告白をしている。

 軽く見えるけど、麻美ちゃんは間違いなく本気で夕ちゃんを好いている。

 私や希望ちゃんがいなかったらきっと、もっと早くに気持ちを伝えててもしかしたら……。


「麻美ちゃん……悪いけどな」

「わーかってるよ! 亜美姉がいるもんね。 私は夕也兄ぃの事好きだけど、恋人になるのは随分前に諦めてるんだー。 だから気にしないでいいよ」


 麻美ちゃんは、そう言って明るく笑い飛ばした。

 渚ちゃんはそんな麻美ちゃんを見て、少々複雑そうな表情を見せる。

 渚ちゃんは一目惚れって言ってたね。 入学式からだからまだ3か月にならないぐらいかな。

 まだまだ気持ちを伝える勇気は出ないようだ。



 ◆◇◆◇◆◇



 皆が帰って、私と夕ちゃんの2人だけになる。

 外を見てみても、やっぱり星は見えない。


「んー……去年は良く見えたのにぃ」

「ベランダで見ながら話したよな」

「うん。 私がデネブで希望ちゃんがベガでーみたいなね」

「そうそう。 あの時はお前にフラれて間もなかったな」

「あはは……私達の距離、近付いて恋人になっちゃったね?」

「そうだな」


 私は夕ちゃんの肩に頭を預けて目を閉じる。

 本当に幸せだよ。


「ずっと一緒にいてね、彦星様」

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