第206話 ちょっとスリリングな
☆亜美視点☆
遥ちゃん達と別れた私達は、旅館の散策を続けていた。
「遥ちゃん、どうなるんだろうね?」
「さあねぇ。 本人がいまいち自分の気持ちを理解できてない感じだからねぇ」
多分、恋とかっていうのが初めてだし、自分には絶対に来ないものだろうと思っていたんじゃないだろうか?
だから、いざ恋に落ちてもよくわかっていない。
「でも、上手くいくといいよね」
「まずは彼女がいないことが前提だけどね」
そう、まずはそこからだ。
私達が出来る事は、今のところ話を聞いてあげる事だけである。
「あれ? 夕也くんじゃない?」
「ん? あれ本当だ」
どうして夕ちゃんが? 疲れたから部屋でゆっくりするって言ってたのに。
「夕ちゃーん」
「ん? おう、亜美と希望か」
「夕也くん何してるの?」
「あー、紗希ちゃんに呼ばれてな」
「あれ? 疲れてたんじゃなかったの?」
「え、あぁ、そうなんだけどよ」
「むぅーっ! 私達の誘いは断って、紗希ちゃんに誘われたら出てくるんだ?」
「あ、いやそのな」
「ぷんっ! もう知らないもん!」
「おい亜美」
私は、呼び止める夕ちゃんを無視してその場を離れる。
「ちょっと待てって」
「あぅ」
簡単に手を掴まれてしまった。
「あはは……お邪魔そうだし、私ちょっとどっか行ってるね?」
希望ちゃんは気を利かせたのか、私と夕ちゃんを2人きりにした。
今、割り込む絶好のチャンスなのに。
「あのな、亜美」
「つーん」
「はぁ……ちょっとこっち来い」
「うわわっ」
掴まれた手を引っ張られて、どこかへと連れて行かれる私。
うー……私もちょっと落ち着こう。
私の誘いを断っておいて、紗希ちゃんに誘われてホイホイ出てきたことには少しご立腹だけど、この感じは何かワケありなのかもしれない。
私はそのまま、庭に連れ出されてしまった。
「はぁ……」
「……」
落ち着いて夕ちゃんの言葉を待つ。
「紗希ちゃんなぁ、ちょっと柏原君の事で悩みがあるらしいんだ」
「え?」
柏原君の事で悩み? それの相談を受けていたって事?
「ほら、去年の夏休みにも相談受けただろ? その流れで今回も俺にって事らしい」
「そ、そうなんだ……」
やっぱりそういう理由があったんだ。
また早とちりしちゃって……。
「ご、ごめんなさい」
「まったくお前は。 早とちり女王め」
「あぅ」
何て不名誉な称号なんだろう。
それにしても──。
「紗希ちゃんの悩みってまた浮気?」
「いや、柏原君がどうも倦怠期なんじゃないかって事らしい」
「倦怠期って、もう結構長いよあの2人? 今更なの?」
「うむ。 俺もそう思ったんだけどな」
たしかもうすぐ4年目のはず。 今更倦怠期なんてやってくるだろうか?
これも何か別の理由がありそうだ。
「ま、そういうことでまた紗希ちゃんについて行くことになったんだが、お前も希望も来てくれないか?」
「ついて行くって何に?」
「紗希ちゃんが柏原君と話をする時にだな」
「あー、不安がってるって事?」
去年の浮気疑惑の時も確か、そんな感じでついて行ったっけ。
いつもは余裕しゃくしゃくな感じだけど、いざとなると弱いところがある。
「わかったよ。 希望ちゃんにも伝えとくよ」
「すまないな、巻き込んで」
「あはは、紗希ちゃんの為だよ」
友達が不安になって困っているのだ。 力になるのは当然。
それにしても……この辺は人気が無いなぁ。
ナニしても見つからなさそう。
自由時間もまだ結構ある……。
「むふ~、夕ちゃ~ん」
甘えた声を出して夕ちゃんに抱き付く。
旅行中はそう言うことできないかなーと思ってたけど、これはチャンスだよ。
「ちょ、お前……んんっ」
「んん……」
無理矢理夕ちゃんの唇を奪い「私はその気だよ」ということをアピールする。
「お前、今は修学旅行中だぞ? 学校行事中だ。 わかってるか?」
「わかってるよぉ……でもねー、火が点いちゃった」
「お、お前は……」
「いい?」
「……はぁ」
私はそれを買うてを肯定と受け取った。
◆◇◆◇◆◇
「……えへへー」
「はぁ……誰か来ないかドキドキしたぞ」
「そだねぇ。 ちょっとスリリングだったね」
「いやいや、ちょっととかいうレベルじゃないだろ……」
まあ確かに。 こんなところを先生や他の生徒に見つかったら、大変なことになっていたこと間違いなし。
以前公園でした時もだけど、結構私ってば変態さんなのかもしれない。
「立てるか?」
「うん、ありがと。 大丈夫」
服装を整えて、服をはたきながら立ち上がる。
そして、もう一度夕ちゃんに抱き付きー。
「えへへー、好きー」
「お、おう」
残り時間があまり残っていなかったので、周りに人がいないかを確認しながらしれっと旅館へと戻った。
「また明日ね、夕ちゃん」
「あいよ。 おやすみ」
玄関の待合いで、夕ちゃんと別れて女子グループの部屋の方へ歩いて行く。
満足満足だよ。
私はほくほく顔で、自分の班の部屋に戻ってきた。
「あ、おかえり亜美ちゃん。 話は紗希ちゃんから聞いたよ」
紗希に部屋に戻っていた希望ちゃんが、そう言った。
「ごめんよー亜美ちゃん。 勘違いさせたみたいで」
「え、いいよぉー。 それより、私も紗希ちゃんの力になるからね」
「ありがとー!」
「なんだか清水さんご機嫌だねー? 何かあったの?」
と、同室の女子に訊かれる。
「んーちょっとねー」
「ははーん、さては人気の無い所で一発ヤって来たわね?」
紗希ちゃんが、探偵さんみたいに顎に手を当ててズバリ言い当ててきた。
「ど、どうしてそれを?!」
あ……やってしまった。
「ええええええ!? 亜美ちゃん本当!?」
希望ちゃんが物凄い勢いで詰め寄ってきて、物凄い勢いで問い詰めてきた。
周りの他の女子は顔を赤くして引いている。
「こんなとこでヤるなんて、亜美ちゃん中々に変態だねー」
「や、やっぱりそうなのかな?」
「それはもう立派に」
うう……そうだよね。
やっぱ変態さんなんだ私……気を付けないと。
「どこでそんなことを……」
「庭の裏が人気が無くて」
「へー、で、どうだった?」
「スリルがあって中々……」
はっ?! 私また変態発言を!
「き、清水さんって結構面白いんだね」
うう……。 恥ずかしい。
「亜美ちゃん、なんていうかラブラブだね」
「それはそうだけど……ちょっと気を付けるようにするよ」
「そうねー。 せめて場所ぐらいは考えたほうが良いかもねー。 私でも外ではヤんないよ」
と、紗希ちゃんにまで言われてしまう。
やっぱりそうなんだ。
「ま、でも仲が良い事は良い事だよー」
そっか、紗希ちゃんのとこは今ちょっと問題ありなんだっけ。
あまり惚気ない方が良いよね。
「さて、寝ようよ」
「そうねー」
「うん」
「おやすみー」
私達は電気を消して就寝体勢に入る。
修学旅行は明日で終わり。
「ねぇ、楽しかったよね」
「うんうん」
「また来たいよね、京都」
「うん……」
たくさん思い出も作れたし、弥生ちゃんともたくさん話せたし。
本当に楽しい修学旅行だった。
皆と旅行に行く機会はあるだろうけど、修学旅行って言うのは特別な感じがあるね。
さようなら京都。 また絶対に来るよ。
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