第196話 お山
☆奈々美視点☆
私達は伏見稲荷神社へ来て稲荷山という所を登ろうとしている。
と言っても、時間の都合上途中で引き返してくることになるんだけれど。
亜美が言うには、四つ辻という場所に休憩できる茶屋があるらしいので、今日はそこまでという事になった。
普段運動している私達の健脚なら、片道1時間はかからないだろうとの事らしい。
それでもそれぐらいの時間はかかるのね。
「それにしてもさっき見たマップ。 一番奥までは結構あったわね」
「グネグネしてるしね」
そしてこの稲荷山には、所々で見どころがあるようだ。
私達はひたすら続く鳥居と階段を登り続ける。
途中、小さな神社がありそこに立ち寄り、また進む。
辺りは鬱蒼とした竹林が広がっている。
「これだけ鳥居があると、逆にもう気持ち悪くなってくるな」
「そ、そうね」
とにかくずっと鳥居のトンネルを潜っているのだ。
最初は新鮮で凄い物だと思ったけど、これだけずっと見てるとなんだかもうただの赤いトンネルとしか認識しなくなってしまったわ。
そんなトンネルの隙間から見える山の風景を楽しみながら15分ほど歩くと、鳥居トンネルが途切れて開けた場所に出た。
「
「熊鷹……強そうだね」
希望ってば何を言ってるのかしら……。
「んと、そこのお店でロウソクを買って、社でお願い事をする。 それから裏側の池のほとりで2回手拍子をする」
「するとどうなるのー?」
「こだまが返ってくる方向と距離で探し人の場所がわかるんだって」
探し人なんていないのだけれど。
私達はどうするか話し合った結果、希望だけが参拝すると言うので終わるのを待つ。
一体誰を探してるのかしら。
希望は池のほとりに行き手を叩くと、空を見上げた。
「?」
「上?」
「こだまって山から返ってくるんだよね?」
「んー……?」
希望は満足したのか、ゆっくりと戻ってきた。
不思議に思った紗希が、誰を探していたのか訊いてみると。
「お父さんとお母さんだよ」
「あ……」
希望の実親……そっか……。
ちゃんと空からこだまが返って来たのね。
「そっか。 良かったわね」
「うん。 ちょっと安心しちゃった」
参拝を終えた希望を加えて、さらに先へ進むことにした。
「うわ……また鳥居と階段よ……」
奈央がうんざりしたように言う。
亜美曰く、最後までこの光景は続くとの事。
恐るべし一万本鳥居。
「皆、大丈夫かー?」
「うん、平気ー。 ありがとー今井君ー。 好き―」
「紗希ちゃんっ!」
どさくさ紛れに告白も混ぜる紗希に、亜美が怒りを露わにする。 希望も目がつり上がっていた。
「紗希には柏原君がいるでしょうに。 そんなんじゃ愛想疲尽かれるわよ」
「だいじょぶだいじょぶ。 あいつは私にゾッコンだから」
私から見るとゾッコンなのは紗希の方だと思うのだけれど。
むしろ彼の方は、紗希のペースに合わせるのに苦労してるように見えるわよ。
それにしても皆元気ね。
部活で運動してるとはいえ、ひたすら続く登り階段をペラペラと談笑しながら軽く登っていく。
周りの大人たちはヒィヒィ言ってる人もいるというのに。
「あ、見えてきたよ。 あれが四つ辻じゃないかな?」
亜美が指を差した方向は、また開けた場所になっているようだ。
そこまで登ると……。
「うわわ! 見て! 京都の町が見えるよ!!」
「おおー」
「結構登ってるのね」
「写真! 写真!」
私達は、自分たちのスマホで眼下に広がる京都の街並みを撮影した。
さらに、道行く観光客さんにお願いして、集合写真も撮ってもらう。
「んで、あそこが噂の茶屋かな? あそこで休憩して戻ろう」
「はーい」
皆でお店に入っていく。
うどん、そば、甘味なんかもあるのね。
さすがに、うどんやそばを食べるには時間が中途半端なので、軽くソフトクリームとジュースだけを頂くことに。
「ふうー癒されるなぁ」
「ですわねぇ」
「ここからも京都の町が一望できるね」
「これまた絶景だな」
「ねー、今日はこれで終わり?」
「うーんとねぇ」
亜美は時計を確認する。
「今が16時前だし、ゆっくり降りて旅館に戻れば、ちょっとはのんびりできるかも」
「ちょうど良い感じね」
「明日は金閣行くんだっけ?」
「その前に弥生ちゃんと合流だよ」
「あーそっか」
他校の生徒と一緒って大丈夫なのかしらね?
見つかったら何か言われないかしら?
「さて、そろそろ戻るか」
「そうですわねぇ」
のんびりと休憩した後は、来た道を戻ることに。
また鳥居か。
帰りは下りになるので行きより楽である。
「今日はだいぶ恋愛女成就を祈願したし、覚悟してねぇ亜美ちゃん?」
「え? まあいくら祈願してもねぇ」
「むむー!」
「あはは」
希望ったら結構変わったわね。
昔のこの子なら、落ち込んでもうダメになってたでしょうに。
亜美は亜美で、もう希望に対する遠慮は消えてしまったようで、この1年で2人はずいぶん前に進んだ。
「どうした奈々美? ニヤニヤして」
隣の夕也が、そんな私を見て訊いてきた。
「はぁ? ニヤニヤはしてないでしょ」
「いやニヤニヤして──」
「ないでしょ?」
ちょっと語気を強めて言ってやると、夕也は冷や汗を噴き出して黙ってしまった。
他愛もないわね。
「奈々美に凄まれてビビらない男子なんているのかしら?」
紗希が振り返って私に言う。
「あんた、私を何だと思ってるの?」
「鬼?」
「あははは! 奈々ちゃん鬼だって! 良いね!」
亜美が大爆笑している。
普段私に色々言われて、結構溜まっているのかもしれないわね。
「後で覚えておきなさいよあんた」
「ひぇっ?!」
亜美はそれを聞いて顔を青ざめて、ブルブルと震え出した。
そ、そんな命まで取ろうってんじゃないのにそこまで怯えなくても良くない?
「奈々美、あんまり親友いじめるなよ」
「い、いじめてはないでしょ?」
「うわーん、宏ちゃんー! 奈々ちゃんがいじめるよー!」
「おーよしよし」
な、なんなのこの状況。 私が何か悪いことしたかしら?
「あんた達、何やってんだまったく」
遥が呆れたように溜め息をつきながら言うのだった。
私達は、ようやく本殿の前まで戻ってきた。
「16時半か。 旅館には17時過ぎぐらいか?」
「そうですわね。 なんとか間に合いそうですわね」
「皆は凄い健脚だから、思いの外早く往復出来たね」
「伊達に鍛えてないからね」
遥は鍛え過ぎな気もするけど。
私達は、伏見稲荷神社を後にした。
機会があればまた来てみたいわね。
帰りは最寄りの駅から電車に乗る。
「何よ、こんな目と鼻の先に電車の駅あるんじゃないの」
「あはは、うん。 こっちから来ても良かったんだけどね。 あ、帰りはこっちの方が早いから」
「ふうん。 まあ、任せてたから文句は無いわよ」
「いくわよー」
「はーい」
切符を買い電車に乗り込む私達。
後は旅館に帰ってお風呂と夕食。 就寝までは自由行動。
旅館では温泉卓球は出来たり土産物が買えたりするようだけど、私はどうしようかしら
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます