第195話 伏見稲荷神社へ

 ☆亜美視点☆


 私達は、音羽の瀧から仁王門の方へ戻る道中を歩いている。

 私の前を歩く希望ちゃんと夕ちゃんを、じっと見つめる。

 最初は、間に入って邪魔しようと思ったけど、希望ちゃんの表情を見てそんな気は失せた。

 チラチラと夕ちゃんの表情を窺う希望ちゃんの顔は、とても弱々しくて……。


「どうした?」

「はぅ、べ、別に何でも……」


 夕ちゃんが気付いて希望ちゃんに話しかけるも、希望ちゃんはそう言って下を向いてしまう。

 夕ちゃんが選んだのは私だった。

 私も、希望ちゃんを傷つけてしまう覚悟はしていた。

 ただ、やっぱりというか、実際目の当たりにしてしまうと少し罪悪感に駆られてしまう。


「次は伏見稲荷神社よね?」

「そうですわね。 電車で、行きましょう」

「その辺のプランは奈央と亜美に任せましょ」


 と、奈々ちゃんに振られてしまう。

 電車で行く他にも、バス1本で行くルートがある。

 ただ、バスが平日でも混雑しているという話なので、電車を使うことにした。

 駅までの道のりも、バスを使うか徒歩で行くかの選択があるが、私達は徒歩を選択。

 途中の土産物屋さんを見たりできるメリットがある。


「駅まではゆっくり歩いて25分くらいだよ」

「そうね。 途中寄り道も挟むだろうし、もっとかかるかも」


 という事で、私達はゾロゾロと京都の町を練り歩いていく。

 希望ちゃんは、いつの間にか夕ちゃんとは距離を取り、紗希ちゃんの隣を歩いていた。


「……」.


 私はもう後には退かないよ、希望ちゃん。

 必死に夕ちゃんにしがみついて、絶対に離さない。

 希望ちゃんも、絶対に夕ちゃんを諦めない。

 そうだよね?


「夕ちゃん、手繋いで良い?」

「ん? あぁ、構わないけど」


 確認を取り、夕ちゃんの手を握る。

 希望ちゃん、来るなら来いだよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 私達は、途中で土産物屋を梯子しながらも、ようやく駅に到着した。


「うわわ、ギリギリだね。 後5分だよ」

「ふぅ、本当にギリギリね」

「時刻表までは調べてなかったですわ。 気を付けましょう」


 時間は現在14時前。

 本日の自由行動終了まではあと4時間。

 17時には旅館に戻ってゆっくりしようということになっているので、伏見稲荷神社を観た後は、旅館の近くまで戻り、ショッピングをする事にしている。


「……あの、夕也くん」

「ん?」


 電車を待っていると、希望ちゃんが夕ちゃんに話しかけた。


「あの……その……」

「どうした?」

「私も手を……」


 そこまで言って、希望ちゃんは言葉を止めた。

 私が夕ちゃんと手を繋いでいるのを、羨ましそうに見つめている。


「夕ちゃん、手繋ぎたいんだって」

「はぅ」

「なんだ、それなら早く言えよ?」

「い、良いの?」

「手を繋ぐぐらいで何言ってるんだよ……」


 夕ちゃんは、そう言って片方の手を希望ちゃんの方へ伸ばした。

 希望ちゃんは、一瞬私の顔を見る。


「どうぞ」

「うん」


 希望ちゃんは笑顔になり、夕ちゃんの手を取った。


「微笑ましいわねぇ……」

「仲良しねー」

「今井君、私も繋ぎたーい」


 私達3人を、微笑ましく眺める友人達。

 そうこうしている間に、電車がやってきた。

 私達は、手を繋いだままで乗り込む。


「ここから伏見稲荷駅まで行って、そこから徒歩で10分ぐらいですわ」

「伏見稲荷神社ってさ、あの鳥居が一杯あるとこよね?」


 紗希ちゃんが訊いてきたので、私は頷いて返事をする。


「千本鳥居だね」

「千本あるのかよ」


 宏ちゃんが、目を丸くする。

 

「実際には一万ぐらいあるらしいよ?」

「一万ってなんだよ……」

「へぇ、楽しみね」

「私、寺とか神社見て何が楽しいんだって思ったけどさ、案外良いもんだね」


 遥ちゃんがそう言うと、紗希ちゃんや宏ちゃんも同意した。

 良き良き。


「他には何があるの?」

「おもかる石っていうのがあるみたい」

「なんだそりゃ」


 私は、調べた知識を披露していく。


「願い事を心の中で思い浮かべながら、その石を持ち上げて、思ったより軽ければ願いが叶うみたい」

「今日はお願い事ばかりしてるわね」


 奈々ちゃんの言う通り、先の清水寺でもお願い事ばかりしていた気がする。

 ふと希望ちゃんを見ると、またまたやる気を出していた。

 しぶといなぁ。



 ◆◇◆◇◆◇



 伏見稲荷駅に到着して、神社を目指す。

 約10分ほど歩くと、大きな境内が見えてきた。


「広ーい」

「お客さんも一杯だね」


 平日でも参拝客の数は相当なもののようである。

 やはりというか、月学の生徒も何人か見かける。


「あ、バレー部じゃーん」

「テニス部じゃーん」


 すれ違うテニス部勢と挨拶を交わす。

 どうやら伏見稲荷を見終えたようである。


「もう終わり?」

「これでも京都来て最初の場所なのよ」

「あ、山行ったんだ?」

「そうそう! めっちゃ疲れた」

「あはは、私達は時間が無いからお山は無しかな」

「あー、今からじゃ間に合わないかもねー」

「じゃあ、私達はこれで」

「また後でねー」


 テニス部達と別れて、本殿でお参りを済ませる。

 隣にいた奈々ちゃんから、お山について訊かれたので答えることに。


「稲荷山っていうのがあるんだけど、それを登ると4時間はかかるんだよ。 だから、私達はパスだね」

「勿体ないなぁ」


 と、残念がるのは遥ちゃん。

 確かに勿体ない。

 ちょっと考えてみようか。


「うーん、今が14時半。 四つ辻の茶屋ぐらいまでならギリギリ行けるかな? あまりゆっくりは出来ないけど

「良いじゃん! 先生に遅れるって連絡してしまえば」


 紗希ちゃんもノリノリである。

 しょうがない、予定変更である。


 私達は奥へと進む。

 するとすぐに噂のアレが見えてきた。


「おお、これが千本鳥居!」

「すげ」


 皆がそう言うのも無理はない。

 私も写真ぐらいでしか見たことがなかったけど、実物は想像していたより壮観だ。


「まるでトンネルだな」

「そうだよね」


 夕ちゃんに相槌を打ちながら、私達は赤い鳥居のトンネルを歩いていく。

 抜けた先は、別世界にでも繋がっているんじゃないかと思うほどに幻想的だ。

 そのトンネルを抜けると、少し行った所にそれはあった。


「む! 皆、おもかる石だって!」


 希望ちゃんが声を上げて走って行った。

 全く、願掛けに頼ってばかりじゃダメだよー。

 とはいえ、私もやるんだけどね。

 私達は、列に並んで順番待ちをする。


「亜美は何を願うのよ?」

「んー皆といつまでも仲良く、かな」

「亜美ちゃんらしいな」

「えへへー、宏ちゃんは?」

「無病息災だな」

「年寄りじゃん」

「良いだろ別に……」


 皆は何をお願いするんだろう?

 さて、最初に順番が回って来たのは希望ちゃん。

 何やらぶつぶつ言いながら石の前に立ち、ゆっくりと石を持ち上げる。


「……」


 石を置いて手を合わせて、その場を後にする。

 どうだったんだろう?

 次は私の番。

 さて、どれくらいの重さかなー?

 と考えつつ、心の中で願いを思い浮かべる。


「(皆といつまでも仲良しでいられますように)」


 おもかる石を持ち上げる。

 むっ、思ったより重いよ!? どうしよ! 願い事が叶わないよ!

 ゆっくりと石を置いて手を合わせる。

 ど、どうか叶いますように!

 そう願って次の人に交代した。

 

 皆が終えて、次は稲荷山だよ。

 目標は四つ辻にある茶屋までである。


「よーし行くよ!」

「おー!」


 まだまだ元気な皆であった。


 

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