第192話 修学旅行に出発

 ☆希望視点☆


 明日は6月10日。

 2泊3日の修学旅行の日だ。

 私達月ノ木学園2年生は、京都に行く事になっている。

 梅雨時期の為、少し天気が心配ではあるが、今のところ京都の方の天気は大きく崩れる心配は無いとのこと。

 日頃の行いだね。

 まず、朝は千葉駅で現地集合。

 そこから東京で新幹線に乗り換え、京都へ向かう。

 京都へ着いたら、注意事項を聞いてから初日の自由行動タイムだ。

 自由行動では、クラスの枠は関係無く、好きなグループで行動可能。

 もちろん私達は、いつもの仲良しグループで行動する約束をしている。

 回る順番も、ある程度話し合い済みである。


 今日も部活を終えた私達は、夕也くんの家で夕飯を囲んでいる。

 

「夕ちゃんは、明日の用意出来てる?」

「大丈夫だ」

「ちゃんと起きれる? いつもより早いよ? 朝ご飯は作りに来るけど」

「大丈夫だって」

「なんなら泊まろっか?」

「お前は俺のお袋かっ!」

「彼女だよ!」


 亜美ちゃんは凄く世話を焼いていた。

 夕也くんだって小学生じゃないんだから、ちゃんと出来るよ。


「まったくよー」

「だってぇ。 もし何かあって参加出来なかったら一生悔いが残るよ」

「まあ、それもそうだよね」


 確かに、高校生の修学旅行なんて一生に一度しか無いし。


「頼むよ、夕ちゃん」

「心配性だなぁ」


 その後も亜美ちゃんは、二言目には心配していた。


 家に帰ってきて、2人でお風呂に入っていても──。


「夕ちゃん、ちゃんと起きるかな」

「まだ言ってる。 今まで夕也くんが寝坊して遅刻した事ある?」

「そういえば無いね」


 当たり前だ。

 毎日私達が朝ご飯の支度をする時に起こしてるんだから。

 

「むしろ明日は、私達が寝坊しないように気を付けないとダメなんだよ」

「あ、なるほど」


 亜美ちゃんは、手をぽんっと叩いて納得した。

 珍しく今日はポンコツさんだなぁ。

 楽しみ過ぎて頭が回ってないのかな?


「よーし、明日はちゃんと起きるよー」

「うんうん」


 変にやる気を出していくのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌朝──。


「うわわ、ちょっと寝過ごしたかな?」

「えぇ……? 予定より早いぐらいだよ……?」


 予定では5時半起きだったが、まだ5時10分だ。

 一体何時に起きるつもりだったのだろう?

 私はまだ眠いよ。

 歯磨き、洗顔、外出の準備を済ませて夕也くんの家に向かう。

 

 夕也くんはまだ寝ているようなので、亜美ちゃんに起こしてきてもらう。

 その間に、私は朝食の支度を進めるのだった。

 朝食を終えて、6時半には家を出て駅へ向かう。

 7時半集合で点呼が始まるので、それまでに到着していれば良い。


「おはよー奈々ちゃん、宏ちゃん」

「はい、おはよ」

「うーっす」

「2人ともおはよう」

「ねみぃ……」


 いつもの場所で、2人と合流。

 駅前で、奈央ちゃん達とも合流予定だ。

 歩いていると、ちらほら他の生徒達も友人と一緒に歩いている。

 

「ふんふんふんー」

「亜美、ご機嫌ね?」

「亜美ちゃん、昨日から楽しみにしてたからね」

「そりゃもう! 私、皆で旅行するの大好きだもん」


 と、亜美ちゃんは言った。

 私も好きではあるけど、ここまで浮かれる事はないかな。

 亜美ちゃんは、皆との時間が何より好きらしい。

 

 私達は、まだ朝早い時間の駅前に到着した。

 これからお仕事なのだろう、スーツ姿の男女が駅の改札を通過していく。

 この時間は通勤ラッシュになるようだ。


「皆さん、おはようございます」

「おはー」

「うぃーす」


 間もなくして、奈央ちゃん達がやって来た。

 挨拶を交わし、皆で改札を通りホームへ向かう。

 先程も見たスーツ姿の大人達が、新聞を読んだりスマホを見たりしながら電車を待っている。


「人が多そうだな」

「まあ、しばらくの辛抱でしょ」


 私達意外にも、同じ制服を着た生徒が見える。

 皆、同じ2年生である。

 

「お、来た来た」


 少しすると、お待ちかねの電車がやって来た。

 私達は、通勤する大人達の流れに乗り乗車する。

 車内は思った程ぎゅうぎゅうという事はなく、なんとか普通に立てるだけの余裕があった。


「大人って大変ね」


 紗希ちゃんが呟く。

 私達もいつかはこんな風に、スーツを着て電車に乗り、職場へと向かうようになるのかな?


 大きな駅に着くと、一気に乗客の数が減って、さらに余裕が出来た。



 ◆◇◆◇◆◇



 集合場所へ到着すると、私達よりも早くに到達していた生徒達が、今か今かと時間を待っていた。

 集合が掛かるまで、私達も駄弁る事に。


「向こうで自由行動が始まったら、すぐにお昼食べるよね?」

「そうだな」


 時間的には、お昼より少し早くなる予定だけど、先に食べてしまって、後は観光に集中するつもりである。


「お昼に関しては、私に任せてください」

「おお?」

「ま、まさか奈央……」

「美味しい料理を食べられるお店がありますのよ。 最初の目的地である清水寺から近いので、ちょうど良いですわ」

「さっすが奈央!」


 毎度お馴染みの西條パワーで、お昼は確保された。

 ありがたい事である。


「んー、清水寺ー」

「まだ千葉よ、亜美」

「わかってるよぉ」


 亜美ちゃんは、もうすぐにでも清水寺へ行きたいらしい。

 舞台から飛び降りたりしないでね。


「清水寺って瀧あるんでしょ?」

「うん、音羽の瀧だね」

「あれ、恋愛とかに御利益あるんでしょ? 遥飲みなさいよ?」

「い、良いよ別に」


 と、遥ちゃんは顔を赤くしてそう言った。

 私は飲もうかな……一発逆転を願って。

 

 10分程経つと、月ノ木学園の生徒に集合の合図が掛かる。

 私達は、広くなった場所で整列し点呼を取られた。

 クラスごとに車両が別れるとの事なので、皆とはしばしのお別れ。

 私達B組もホームへ上がり、新幹線に乗り込んだ。


「んしょ」


 私達は、思い思いの席に座る。

 私は紗希ちゃんの隣で、通路側。

 前には夕也くんが座っている。

 亜美ちゃんはその隣で窓際席のようだ。


「よし、寝よう」

「え、今井君寝るの?」

「朝早かったからな……眠いんだよ」

「えー……UNOとか持って来たのにぃ」

「ごめんな……」

「むぅ、しょうがない」


 紗希ちゃんも諦めたようだ。

 ワイヤレスイヤホンを取り出して、何か音楽を聴き始めた。

 夕也くんは、すでに目を閉じて寝る体勢に入っている。

 亜美ちゃんは、邪魔しないように静かに読書を始めている。

 私はどうしよ。 亜美ちゃんから本でも借りようかな。


「ね、亜美ちゃん。 本貸してくれない?」

「ん、良いよ。 この中に入ってるから好きなのどうぞー」

「あ、私も一冊貸してー」


 音楽を聴きながら、紗希ちゃんも本を物色し始める。

 同じ作者の本ばかりである。

 紗希ちゃんは、適当に一冊取り出して読み始めた。

 私も一冊選ぶ。


「二人」というタイトルの本。

 恋愛物かな?

 とりあえずそれを読む事にした。

 

 ◆◇◆◇◆◇


「ぐすっ……はぅ……」

「え、希望ちゃんどしたの?」


 私が涙を流しながら本を読んでいると、隣で本を読んでいた紗希ちゃんがびっくりしたように訊いてきた。


「切ないお話だよぅ……」


 涙腺の緩い私は、こういう感動系を見るとすぐ涙を流してしまう。

 

「この人の本は大体そういう系ね」

「そうなんだぁ……」


 この主人公とヒロインが、生き別れの兄妹だったなんて……。

 お互い好き同士になってこれは辛い。


「亜美ちゃんありがとぉ」

「はーい」


 本を読んでいる間に、新幹線は随分進んでいるようだ。

 京都まではもう少しだ。

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