第193話 おいでやす京都
☆亜美視点☆
私達は、新幹線に揺られて京都へ向かっている。
本を読み終わる頃には、随分と京都に近付いていたようである。
「夕ちゃん、起きて」
「んん……着いたかぁ?」
「まだだよ」
「おはよー今井君ー」
夕ちゃんは、目を擦りながら窓の外を見る。
まあ、見てもここがどの辺りかなんてわかんないけど。
「んー」
「……どうした?」
「おはようのチューして上げようと思って」
「人前ではちょっと恥ずかしいからやめてくれないかね」
「そ、そうだよ亜美ちゃん」
「別にいいじゃんキスぐらい」
紗希ちゃんはそう言うところオープンである。
知らない人達の前でするわけじゃなし、別にいいと思うんだけどなぁ。
夕ちゃんがやめてくれって言うなら仕方ない。
「ふむ……じゃあさ、あとで人目のつかないとこでいちゃいちゃしよ?」
「亜美ちゃん、なんか変わったね」
「私みたいじゃーん」
希望ちゃんと紗希ちゃんに、そんな風に言われる。
私は少し考えてみる。
夕ちゃんとお付き合いを始めてから、確かに少し夕ちゃんに依存しているところがあるような感覚はある。
今まで自分を抑えてきた期間が長かったので、その反動によるところが大きいのだろうと思う。
しばらくはこんな感じが続くかもしれないけど、夕ちゃんは迷惑だったりするのかな?
「今井君はどうなの? やっぱ甘えられると嬉しい?」
「ん、まあ悪い気はしないな」
「本当? 迷惑だったりしない?」
「別に迷惑ってことは無いけど?」
「あはは、良かったね亜美ちゃん」
「うん」
ちょっと安心した。
ただ、あんまりしつこいと嫌がられるかもしれないし、少しは控える努力をしよう。
とはいえ、やっぱり少しぐらいは甘えたいと思うので、さりげなーく手だけ握るのだった。
◆◇◆◇◆◇
私達を乗せた新幹線は、京都へと到着した。
駅から出た私達は、旅館へ向かう送迎バスに乗り込む。
20分ほど走ったところで私達がお世話になる旅館に到着。
荷物を部屋に置き、広間に集まり注意事項を説明される。
「ここからは各自自由行動とする。 月ノ木学園の一生徒として他人に迷惑をかけたりすることなきよう行動する事。 自由行動は18時までとするが、交通機関などの理由で遅れる時は、必ず連絡するように。 以上だ」
ということで、解散。
自由行動となった。
私達は、すぐにいつもの皆で集合して行動を開始する。
「さて、まずは清水寺に向かいながらお昼御飯ですわね」
「だな」
時間は10時半を過ぎたところ。 移動しながら奈央ちゃんの教えてくれたお店にはちょうどいい時間に着くだろうとの事。
私達は早速移動することにした。
「バスで移動するんだよね」
「ええ、ここからならそれでいいでしょう」
私達は事前に調べておいたルートを利用することに。
バスで五条坂と言うところで下りると、近くにお店があるらしい。
そこからは歩いて15分ほどで清水寺に着く。
私達はバスに乗り込んで、目的地を目指す。
バスには数名の月学生が乗り込んでいる。 目的地が同じく清水寺なのであろう。
「あ、清水さんとこも清水寺?」
「うん」
「清水さんが清水寺……あ、なるほど」
「あはは、ばれた? 行きたかったんだよね」
と、周りの人には迷惑が掛からない程度の小声で会話をする。
10分ほどで目的地の五条坂に到着した。
「じゃあ、私達は先にお昼ご飯食べるからー」
「はーい、またねー」
他のグループとはバス停で別れて、奈央ちゃんが言う料理屋さんに向かう。
どうやら日本料理のお店らしく、旬の京野菜なんかを使った料理が食べられるそうだ。
早速お店に入ると、奈央ちゃんが皆にオススメの品を注文してくれた。
「どんな料理が出てくるんだろうね?」
「楽しみよね」
皆で卓を囲んで、料理が運ばれてくるのを待つ。
「それにしてもこの店も西條の?」
「もちろんですわ」
もう聞くだけ無駄な気もするよ。
西條グループはもう、私達の想像をはるかに超えた何かだよ。
「一体どんだけ持ってんだよ」
「さあ? いちいち把握してないわよ」
「まぁそうでしょうね」
とにかく凄いという事だけはわかる。
しばらくすると料理が運ばれてきた。
タケノコご飯かな? 他にも大根のに着けとか焼きナスとかが並んでいる。
美味しそうである。
「おお、凄いね」
「彩も綺麗だし、なんか食べるの勿体ないね」
「ちゃんと食べるのよ」
「いただきます」
手を合わせて、昼食をいたただくことにする。
タケノコご飯をいただくよ。
ベースは醤油ご飯だね。
「んむんむ。 んんっ、美味しい」
醤油ご飯も美味しいけど、タケノコのこのコリコリとした食感も良い。
「次はこれ」
大根の煮つけだ。
「んん。 これも汁がよくしみこんでるね。 柔らくて美味しい」
「そうだよね。 結構な時間煮込んでるんだろうね」
「形が崩れてないし、絶妙な時間よね」
「この大根も京野菜なのかしら?」
紗希ちゃんが言う。 多分そうだけど品種まではわかんないね。
焼きナスも実に美味しい。
私達は普段食べられない、京野菜を使った料理を心行くまで楽しんだ。
◆◇◆◇◆◇
食後は運動がてらに歩きながら清水寺へと向かう。
「亜美ちゃんいよいよだねー」
「うんうん」
「何でそんな楽しみなのよ……」
「え? だって清水寺だよ? 観光名所だよ? 楽しみに決まってるよ」
「ま、まあ楽しみだけどよ。 そこまでか?」
うーん、皆は浮かれるほど楽しみというわけではないみたいだ。
ゆっくり歩いていると、ようやく見えてきた。
仁王門を通っていざいざ。
「清水亜美、清水寺に参上だよ!」
「亜美、あんたまさかそれがやりたかったの?」
「あ、あはは」
完全に滑ってしまった。 皆、ボケーッとした顔で私を見つめている。
まあでも、やりたい事はやれたし満足満足。
「亜美ちゃん、恥ずかしいから5mぐらい離れて歩いて下さらない?」
「えぇっ?! ひどいよ奈央ちゃん~!」
「はいはい、静かに」
「他のお客さんに迷惑かけちゃダメだよ」
と、奈々ちゃんと希望ちゃんに注意されてしまった。
「は、反省……」
少し浮かれすぎていたようだ。
門を抜けて真っ直ぐ歩くと、隋求道という所に着いた。 胎内めぐりで有名な場所だ。
入るかどうか皆で相談して、当然入るという結論になる。
料金がかかるようなので、お金を払って中に入ると、聞いていた通り真っ暗闇だった。
「はぅ……はぅ……」
とにかく怖がりな希望ちゃんは、入るや否や怯え出した。
「希望ちゃん、手繋いで歩こ?」
「亜美ちゃん……ありがとう」
隋求道の中は真っ暗闇で、頼りになるのは壁の大数珠。 これを手で触り、道標にしながら進むのである。
希望ちゃんの手を取り、もう片方の手は大数珠に触れて、ゆっくり進む。
「大丈夫?」
「うん」
手を繋いで幾分安心したのか、少し冷静になっているようだ。
暗闇なのでどれくらいの距離を歩いたのかは分からないけど、不意にぼんやりと明るくなっている場所に出てきた。
「はぅ? 外?」
「ううん。 隋求石の場所だよ」
「ずいぐ……?」
「これを回してお願い事をしてから外に出るんだよ」
私はその石を回しながら願い事をする。
私の大事な人達が、皆幸せになれますように。
希望ちゃんも私に倣って、同じようにやるのを待つ。
「終わったよ」
「よし、出よう。 皆待ってるよ」
「うんっ」
再び希望ちゃんと手を繋ぎ、隋求道から出る。
隋求道は、大隋求菩薩様の胎内という風にされている。
一緒に出てきた私と希望ちゃんは、さながら双子の姉妹だね。
外に出ると、先に出ていた皆が待ってくれていた。
「来た来た。 ほら、次は本堂に向かうわよ」
「うん」
京都観光はまだまだ続くよ。
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