第190話 予選開始

 ☆亜美視点☆


 6月に入って最初の週末。

 今日と明日はインターハイ県予選である。

 2年生の私達は当然2回目。

 1年生の後輩達は初めてで緊張しているようだ。


「皆リラックスだよ」

「はい」


 今日の1回戦はそこまで強い相手じゃないということで、スタメンには1年生が3人入っている。

 

「安心しなさいな。 バックには2年生の皆がいるんだから、のびのびやってきなさい」


 部長がそう言うと、1年生スタメンの皆が少し気楽になったのか、肩の力が抜けた。

 うんうん。

 1回戦のスタメンはOHアウトサイドヒッターに1年渚ちゃん、3年の塩谷先輩、2年生の紗希ちゃん、MBミドルブロッカーに1年生麻美ちゃん、セッターに1年生小川さん、リベロが3年生夏木さんである。


「2年生は私だけー?」

「OHは1、3年生で2人しかいないから」

「あはは、紗希ちゃん頑張れ」

「しゃーないなぁー! 真のエースの力見せてあげよーじゃないか!」


 紗希ちゃんが大きな声でそう言うと、奈々ちゃんが「はいはい」と、軽くあしらうように言う。

 うちって、奈々ちゃんと紗希ちゃんのダブルエースで良くないかな?


「じゃあ、1年生のデビュー戦。 とりあえず円陣組んどきますか」


 スタメン6人が円陣を組んでいる。

 うん、ベンチからスタートってなんだか新鮮だ。

 6人がコートに入る。

 1年生の皆がどんなプレイするか楽しみだ。

 最初のフォーメーションは、レフト前衛が渚ちゃん、後衛に紗希ちゃん、センター前衛に麻美ちゃん、後衛に夏木先輩、ライト前衛に塩谷先輩、後衛に小川さん。



 ☆紗希視点☆


「あれ、月学のメンバーベストメンバーじゃないの?」


 相手コートの選手が、不思議そうに言う。


「ベストメンバーだよー?」


 と、そう返しておく。

 うちの1年を舐めてもらっちゃー困るねー。

 さて、まずは小川ちゃんのサーブからね。


「小川ちゃんナイサー!」


 小川ちゃんが落ち着いてサーブを放つ。

 うん、綺麗なサーブね。

 相手Lがそのサーブを拾うと、Sにボールが渡る。

 スパイカーが2人、テンポをずらして走り込んでくる。

 私は、クイックを警戒してコミットブロックに跳ぶが、予想は外れる。

 1年生コンビ頼むわよー。


「いくで麻美、せーの!」

「うぇーい!」


 麻美の謎奇声ブロックは、相手のスパイクを完璧に止める。

 ブロックポイントで先制点を取った。


「ナイスブロック麻美!」

「うぇーい!」

「それはもうええから……」

「私達、やれてるんだよね」


 1年生トリオは高校公式試合初プレーで、ちゃんと通用してる事に安堵しているようだ。


「いい感じだねー、1年」

「そですねぇー」


 そんな1年生を見て、夏木さんが呟いた。


「さー、もう1本集中!」

「おー!」


 小川さんのサーブが続く。

 次のプレーは、相手のスパイクを通されてサーブ交替。


「1本で切るわよぉー」

「はい!」


 相手サーブを夏木先輩が拾う。

 サインを確認して、助走に入る。

 このサインは私へのオープン攻撃ね。

 あいよー。

 トスが上がってジャンプ。


「はっ!」


 スパァン!

 去年鍛えに鍛えたジャンプ力で、相手のブロックの上を抜く。

 身長も相まって、最高到達点だけなら亜美ちゃんに負けてないと思うんだよねー。


「ナイス神崎さん」

「うぇーい!」


 麻美の真似をしてみる。 案外楽しいわねこれ。


「どー? ベストメンバーっしょ?」


 ローテーション中に、相手コートの方へ煽りを入れておく。

 相手さんも気を引き締めたようだわね。


「塩谷ぱいせんナイサー」


 今度は塩谷先輩のサーブ。

 3年生の力見せてやれ―。


「はっ!」


 塩谷先輩のサーブはジャンプサーブ。

 強烈とまではいかないけど、いいサーブだわ。

 相手のセッターに触らせて攻撃のリズムを崩す。

 仕方なくと言った感じで、相手OHがトスを上げるも、攻撃のタイミングが合っていないわね。


「せーの!」

「「うぇーい!」」


 麻美とハモリながらブロックに跳び、相手のスパイクを叩き落としてやった。

 

「うっし」

「いい感じですね」

「うんうん。 このまま一気に倒しちゃおう」

「おー!!」


 いくぜぇー。


 私達は上手く1年生を使いながら試合を優位に進めていく。


「月島さん!」

「はいよっ!!」


 スパァン!


 渚の気持ち良いスパイクが、相手コートに刺さる。

 奈々美のスパイク程じゃないけど、それでも威力のあるパワースパイク。

 1セット目を取る私達。


「いいじゃんいいじゃん! 私達やれるじゃん!」

「せやね!」

「何か自信ついたね!」


 1年生トリオは、自分達が思いの外通用している事にはしゃいで喜んいる。

 皆、自分たちの実力がいまいちわかってなかったのかもしれないわねー。


「よーし、2セット目もやるぞー!」

「うぇーい!」


 珍しく渚が麻美にノッている。 テンションが上がっているようね。

 いい傾向だわ。


 2セット目はLに希望ちゃんが入った。

 防御力アップだねー。


「希望ちゃん、バックよろしく―」

「はーい」


 ということで2セット目はお相手さんのサーブから。

 そのサーブを綺麗な姿勢でレシーブする。

 さすがに安定してるなー。

 それを小川ちゃんがトス。

 攻撃の流れも結構スムーズになってきたねー。

 渚よりワンテンポ早く助走に入る。

 このサインは渚のバックアタック。

 私は囮でクイックのタイミングで跳ぶが、スパイクは打たない。

 釣られたブロッカーを1人道連れにする。

 その後ろから渚のバックアタック。


「っ!」


 スパァン!


 相手の後衛にいるLがレシーブを試みたが、強烈なバックアタックを処理しきれずにボールがあらぬ方向に飛んで行く。


「っしゃ!」

「いいよぉ、渚ちゃん」


 希望ちゃんも称賛のバックアタックだったねー。

 私も負けてらんないね。


「小川ちゃん、私にもバンバン来なさ-い!」

「は、はい!」


 今度はこちらの小川ちゃんのサーブ。

 相手の攻撃が返ってくるも、希望ちゃんが安定してレジーブを上げている。

 頼れるLだねー。

 そのボールを小川ちゃんがトス。

 このサインはー。


「私のー!」


 大ジャンプを見せて、気持ちよくスパイクを打ち抜く。


「紗希ちゃんすごーい!」

「高いですね」

「亜美姉ぐらい高いんじゃないですか?!」

「あははー、私はタッパあるからねー。 純粋なジャンプ力だけなら亜美ちゃんには敵わないよ」

「はえー、清水先輩に身長があったら最強ですね」

「今でも最強なんだけどね」


 希望ちゃんが言う通り、既に最強なんだよね。


 2セット目は希望ちゃんの鉄壁の守備が光り、ブレイクを連発。

 気付けばダブルスコアを付けて勝っていた。


「おつかれおつかれー」

「皆、凄いよー」


 ベンチに戻ると、奈々美と亜美ちゃんが迎えてくれる。


「1年生も自信になったんじゃない?」

「はい」

「この分なら2回戦も任せて大丈夫じゃないっすか?」


 遥が部長にそう言うと部長も「そうねー、2回戦も頑張ってもらおうかしら?」と口走った。

 その隣で塩谷先輩が「あんたも出なさいよ」と怒っていた。

 

 

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