第189話 主導権
☆亜美視点☆
夕ちゃんとデートに来ている。
今は、いわゆるスパ施設で遊んでいるよ。
大小の温水プールにジャグジー風呂や水風呂、サウナなんかもあるようだ。
私達はまだ来たばかりで、これからどんどん遊び倒していくよ。
「夕ちゃん、あっちに25mプールあるよ? ねぇ、50m自由型勝負しない?」
「いいぞ。 勝った方の商品はなんだ?」
「んー……勝った方が今夜主導権握るってのはどう?」
「お前、ドスケベだな」
「ひどぉい!」
夕ちゃんの背中をぽかぽか叩く。
それにしても、もう今夜はするっていう前提になっている。
まぁ、久し振りだし良いよね。
「さて勝負だよ夕ちゃん。 今晩の主導権は私が貰うね」
「ふん、勝ってヒィヒィ言わせちゃる」
とんだ変態会話だよ。
私達は、近くにいたお兄さんに勝負の決着を見てほしいとお願いして、2人ともスターティングの姿勢を取る。
「いくよ?」
「OK」
「「よーいどん!」」
合図で同時に飛び込む私と夕ちゃん、私のバタフライをとくと見よ!
潜水から水面に上がり、バタフライを開始する。
息継ぎの際チラッと隣を見ると、ほぼ並行してクロールしている夕ちゃんが見えた。
さすが夕ちゃんだ、ついてくるね。
全力でバタフライしながら、息継ぎ時に隣を確認して25mの折り返しに差し掛かる。
クイックターンを決めてスパートをかける。
隣を見ると、少し私がリードしている。
このまま勝つよ。
スパートを継続して勝ちに行く私、残り10m地点でもう1度隣を見るとまた並ばれていた。
うわわ、やばい。
このままだと逆転されちゃうぅ。
必死にドルフィンキックをしながら夕ちゃんの前に出ようと試みる。
「(とどけぇ!)」
ゴールにタッチして顔を上げる。
「どっち?!」
「んー、際どかったけど彼氏の方かな」
「あぅ……負けた」
「ふふん、君にはまだ俺は倒せん」
「悔しぃ」
「兄さん、見届け人ありがとうございました」
「いやー、凄いもの見たよ。 競泳選手?」
「バスケ部です」
「バレー部です」
「え……」
お兄さんは、信じられないものでも見るような顔で、唖然としていた。
お兄さんと別れて少し座って休む。
「ぬーん」
「なんだ、まだ悔しがってんのか?」
「だってぇ、勝つ自信あったもんー」
「クロールならどうだったんだ?」
「私、バタフライの方が速いって先生に言われた」
去年の夏の授業でタイム測った時、50mのタイムがバタフライの方が良かったのだ。
「変わってんなお前」
「そっかなぁ」
少し休憩を挟んで、サウナで汗を流すことにした私達。
我慢比べみたいなことはしないよ。
「むわー」
「汗がダラダラ出る」
夕ちゃんの言う通り、入って数分で汗がダラダラと出てくる。
痩せるかなぁ?
「夕ちゃーん、このあとどうするー?」
「水風呂だろ」
「そうだよね」
ゆっくりと落ちる砂時計の砂を見ながら、ボーッとする。
やがて、砂が落ち切ったのでサウナルームを出る。
そして近くにあった水風呂に入る。
「ふわわわわ……冷たいぃ」
「なんて声出してんだよ」
声が震えていることを指摘されるも、どうすることもできない。
少し浸かってから外に出るも、風が吹くだけで寒気がする。
私はすぐに温水に浸かる。
「ふぅ……凍死するかと思ったよぉ」
「雪山で遭難して生還した奴が良く言うよ」
「あはは……」
本当にあの時は死を覚悟したものだ。
夕ちゃんが助けに来てくれなかったら……。
「さて、少し腹減って来たし昼でも食いに行くか」
「うん」
どうやら敷地内にフードコートがあるらしい。
私達はそこへ向かう。
フードコートでは、水着を着たお客さんが、それぞれ好きなものを食べている。
「私はカルビ丼」
「重いの食うなお前」
「あはは」
ここの支払いは、入場の時にもらったカードを通して食券を手に入れる。
その食券を持って列に並ぶだけである。
帰る時にカードを読み取ってもらって料金を支払うことになっている。
私はカルビ丼、夕ちゃんはおにぎりを食べている。
「んむんむ。 こういうところにあるものでも美味しいね」
「あぁ。 おにぎりもうめぇぞ」
「ちょっとちょうだい」
「ほれ」
夕ちゃんからおにぎりを分けてもらう。
うん、美味しい。 これは鮭おにぎりだね。
お昼を食べた私達は、もう少し遊んでからスパを後にした。
「うーん、遊んだね」
「おう、ちょっとゆっくりしたいな。 動物園行くか?」
「うんっ」
ここから行ける場所っていうと動物園だね。
可愛い動物達に癒されよう。
◆◇◆◇◆◇
動物園に来た私達は、色んな動物を見て回る。
「ねね、夕ちゃん。 あのお猿さんの顔、宏ちゃんに似てない?」
「さすがにそれは……いや、確かに面影あるな」
「でしょー」
宏ちゃんみたいなイケメンのお猿さんもいるんだねぇ。
いや、宏ちゃんがイケメンの猿に似てるのかな。
「あっちのゴリラは奈々美か?」
「うわわ、言いつけてやろっと」
「お前なぁ……」
「冗談だよぉ」
奈々ちゃん怒らせたら大変な目に遭うからね。
「あ、夕ちゃん。 あっちにクマさんがいるよ。 希望ちゃんが喜びそうだね」
「いや、あいつは本物のクマ見て『こんなのクマさんじゃないよぅ』って怒ってたぞ」
「あー、ぬいぐるみみたいに可愛い物じゃないとダメなんだね。 うわわ、手上げて威嚇してるよぉ」
「迫力あるな」
夕ちゃんは、クマの真似をして威嚇し返している。
ちょっと可愛い。
さてさて、次は──。
「ゾウさん」
「でけぇよなぁ」
「うんうん。 乗ってみたいねー」
「そこまでは思わないが……」
んー、どうも夕ちゃんとはその辺の感性が合わないようだ。
私がおかしいのかな?
「ポニーさんだよ。 可愛い」
小さなポニーさんを、柵の外から眺める。
乗馬とかもいつかやってみたいな。
「楽しいか?」
「うん。 最高だよ」
夕ちゃんにそう訊かれたので、素直に答える。
恋人としてデートできることがこんなに幸せなものだったなんて。
これからは、好きな時にこうやってデートが出来るんだね。
動物園も堪能し尽くした私達は、夕方になる前には家路についた。
夕飯は家で食べる事にしているのだ。
スーパーで材料を買って帰り、夕ちゃんの家で希望ちゃんと一緒に夕飯の支度。
夕飯を食べた後は、希望ちゃんだけ先に帰って2人だけになる。
「さて、勝負に勝ったから俺が主導権を握って良いんだよな」
「あぅ」
ソファーに座ってくつろいでいると、夕ちゃんが隣に座ってそんな事を言い出した。
時間的にまだ早い気もするので──。
「さ、先にお風呂入りたいかなー」
「む、しゃーねーな」
とりあえず汗を流したいもんね。
私は、夕ちゃんの家のお風呂を借りる。
入浴してしばらくすると。
ガラッ!
「?!」
「ふん、混浴だおらぁ」
夕ちゃんがいきなり入って来て、私はそのままお風呂で夕ちゃんに襲われてしまうのだった。
うう、夕ちゃん強引だよぉ。
お風呂でなんて……。
今度する時は絶対私が主導権握ってやるぅ。
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