第179話 貝を獲れ!

 ☆夕也視点☆


 昼飯を広間で頂く。

 目の前の海で獲れた海の幸を使った物のようだ。

 昼から豪華だ。 そして美味い。


「皆、この後は潮干狩りですから、動けなくなるほど食べないでね」


 奈央ちゃんの忠告を無視手バカ食いしている奴も焼く1名いるにはいるが。


「美味いっ」

「宏太……話聞いてる?」

「大丈夫だっつーの」


 まあこいつだわな。

 他の皆はゆっくりと談笑しながら食べ勧める。

 しかし本当に美味いな。

 わざわざシェフまで連れて来たらしいが、これは正解だと思う。


「夕ちゃん美味しいね」

「うむ。 これを昼からとは恐れ入るよな」

「じ、次元が違う……」


 渚ちゃんなんかはワナワナと震えている。

 わかるぞー。 普段絶対に食えない物だからな。


「潮干狩りではやっぱりアサリとかが獲れるんですか?」

「ハマグリも獲れるわよ」

「今日の夕飯はアサリ汁とハマグリのバター焼きかしらねぇ」

「獲れなかったりして」


 遥ちゃんが冗談を言うと、皆から「変なフラグ立てるな」とツッコまれていた。



 ◆◇◆◇◆◇



 お腹も一杯になったところで、皆が汚れても良い服に着替えて外へ出る。

 バケツやザルや熊手を手に持ちいざ砂浜へ。


「しっかし大所帯だなー」


 総勢11人。 壮観である。

 さて、歩いて砂浜まで来た俺達は波打ち際辺りに並び──。


「では皆様、ご武運を! 解散!」


 奈央ちゃんの合図で潮干狩りがスタートした。

 

「夕ちゃーん、一緒に探そうー」

「んー、おう」

「私も良い?」


 さらに希望もやってくる。

 俺達は少し沖まで出る事にする。

 大体、浅瀬に撒かれたりして入るんだろうが、この客足だ。

 かなり獲られていてもおかしくない。

 なら、少し遠浅になっている場所を狙おうという作戦だ。


「この辺で探してみるか」

「らじゃだよ」

「獲るよぉ」


 3人で太ももまで浸かりながら、甲斐を探す。

 適当にザルで砂ごと掬い上げて、海水で細かい砂利などを篩にかける。


「お、2匹ゲット」

「おー、凄い! 私もやってみよ」


 亜美も同じようにして貝を探す。

 アサリは群生するって聞くし、意外とこの辺は当りポイントなのだろうか。


「おおー、いたよー! んん? これハマグリだ! やた!」

「私のザルにも入ってるよぅ」


 出だしは上々。 3人でもう少し周辺をさらってみることにした。

 皆で集中して下を見ながらザルで砂をさらう。

 シュールである。


 ゴツン……


「あぅ」

「いて……」


 ずっと下を見て作業していたものだから、亜美と頭をぶつけた。

 お互いザルを落として頭を抑える。


「だ、大丈夫2人とも?」

「お、おう」

「気を付けないとね」


 落としたザルを拾って、気を取り直して潮干狩りを再開する。

 ここ十数分で、数匹増えている。

 獲れてはいるけど、大当たりというわけでもないようだ。

 他の皆はどうだろうか。


「がさごそ」


 希望は自分の口で擬音を出しながら、ザルで砂を濾している。

 のめり込んでるな。


「希望どうだ?」

「うん、いい感じに獲れてる」

「うわわ、希望ちゃん凄い」


 希望のバケツにはすでにそこそこの獲物が入っていた。


「やるなぁ」

「たまたまだと思うけど」


 ちょっと浜に戻るか。


「俺はちょっと浜辺まで戻るけどお前らは?」

「んー、もうちょっとー」

「私もー」


 まだこの場所で続けると言うので、2人を置いて先に浜へ戻る。

 んーと、他の皆はと……。

 周囲を見回してみると、後輩コンビが熊手で砂を掘っているのが見えた。


「おー、どうだー」

「あ、今井先輩。 ぼちぼちですわ」

「うんうん。 これ見て! ハマグリ!」

「おー、すげーな。 まだこの辺にも残ってるのか。 ちょっと掘ってみるかな」


 2人の近くに屈んで、熊手で掘っていくとアサリが出てきた。

 ふむ、いるな。


「ところで、亜美姉と希望姉は放っておいてもいいの?」

「放っておくってなー。 さっきまで一緒にやってたよ。 まだあっちで浸かってやってるぞ」

「やる気勢だね!」

「私達もやろ……」


 2人もだいぶその辺を掘り返しているようだ。

 特に元気な麻美ちゃんは、次から次へと掘りまくっている。

 パワフルだなー。


「あら、そっちはどう?」

「あ、お姉ちゃんと宏太兄ぃ」


 俺達を見つけて来たのか、宏太達がやってきた。

 2人のバケツはあまり入っていないようで、苦戦中らしい。


「あら、皆凄いわね。 私達も適当に掘ってるんだが中々見つかないのよ」

「宏太がコツとか知ってそうなのにな」

「うむ。 知ってるんだが、こう客が多いとなぁ」

「ああ、確かにな。 俺達もそれを嫌って最初はちょっと沖の方に行ってたんだよ」

「なるほどな」


 それを聞いた宏太が「俺達も行ってみるか」と言って、奈々美と海の方へ向かった。

 ここら辺にもまだちょっと残ってるって教えたほうが良かったか?


「そういえばさっき、蒼井先輩がナンパされてたよ」

「ほぉ。 イメチェン効果大だな」

「迷惑そうでしたけどね」


 ふうむ、さすがに知らない男に声を掛けられるのは嫌なもんだろうな。

 む、そう思ったら亜美と希望が心配になってきたぞ。

 俺は立ち上がり、亜美と希望の方へ視線を向ける。

 2人は相変わらず、太ももぐらいまで浸かりながら貝を探していた。

 大丈夫そうだな。


「あっちで西條先輩達もやってるねー。 ちょっと見に行こうよ」

「そやね」

「おう」


 麻美ちゃん達とその場から移動して、奈央ちゃん含む4人がいる場所にやってきた。


「おー、やってるな」

「あ、今井君じゃーん。 見てみてーバカ貝だって。 佐々木君の友達かな?」


 紗希ちゃんが、獲った貝を俺に見せてはしゃいでいる。

 宏太の友達ってのはどうなんだ?


「紗希ー、失礼だろう。 彼はバカではないだろう」


 と、柏原君がフォローに回るが、その場にいる全員は特に何も言わずに話を進める。


「こっちはどうだ?」

「大量よー」


 奈央ちゃんのバケツには、かなりの数の貝が入っているようだ。

 紗希ちゃん、遥ちゃん、柏原君も結構な収穫のようだ。

 これだけいれば夕飯には足りそうか。


「どこにそんな数いたんですか?」

「あっちのちょっと奥まった場所にねぇ。 私がちょちょっとここの管理者の人に聞いたのよ」


 どうやら裏技を使ったらしい。

 さすがは西條家ご令嬢。

 

「でもさすがにこの辺はもうあまり残ってなさそうね。 私達もちょっと海の中探す?」

「そうねー」

「了解」


 そう言って4人も海の方へ歩いて行った。



 ◆◇◆◇◆◇



 たっぷり時間を使って貝を探しまくった俺達は、砂浜で成果を報告するのだった。

 奈央ちゃん達がかなり獲っている他、亜美と希望もそれなりの効果を上げていた。


「凄い凄い! 今晩は貝尽くしだね!」


 麻美ちゃんが大はしゃぎでそう言う。

 俺達は休憩した後で、別荘へ戻るのだった。


 ◆◇◆◇◆◇

 

 海に浸かって作業をしていたことで、皆は体がべたついて気持ち悪いと言い出し、順番に入浴している。

 女子優先という事になり俺達男子は、獲ってきた貝の砂抜き作業をやっている。


「これでよしと」

「佐々木君は物知りだなぁ」

「柏原君、こいつはこういう事は何故かよく知ってるんだ」

「うっせーなー。 こういうことこそ大事なんだぞ」


 まぁ、それはそうかもしれないが。

 それに最近は、亜美の家庭教師のおかげで、テストでもまぁまぁ点数を取れているしあながちバカではないのだが。


「しかしまぁ、大漁だな」

「西條のおかげだな」

「あの人は色々常識はずれですからね」


 その辺はもう皆周知の事実だ。

 後輩の2人はまだ慣れていないようだが、多分そのうち慣れてしまうだろう。


「ふう、良いお湯だったー」

「ん、第一波が上がって来たか」

「さっぱりしたわー」

「紗希、なんでバスタオル姿なの?」

「えー? 着替え部屋に置きっぱなしで」

「早く着てきなさいよ」


 柏原君は頭を抱えている。

 大変だなぁ柏原君も。

 上がってきたメンバーは奈央ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃん、奈々美の4人。

 ということは、今は亜美と希望、後輩2人が入浴中だな。


「砂抜きやってくれたんだ? ありがとう」


 奈央ちゃんが冷蔵庫を見て、感謝している。

 宏太がやってくれたと伝えると「へぇ、よく知ってたわね」と感心していた。


「宏太って生物とか得意だものね」

「関係あるの?」


 紗希ちゃんは首を傾げている。

 どうなのだろう。


「今日の夕飯はアサリ汁にアサリとハマグリのバター醤油焼き、パスタなんかも作りましょう」

「豪華だなー」

「女子が腕を振るって作るから楽しみしててねー」

「わ、私は無理だよ」


 遥ちゃんだけは、料理が出来ないと言って逃げていたが、3人に「逃げるな。 女子力アップ期間なんだから頑張んなさい」と叱られていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る