第176話 1年レギュラー
☆奈々美視点☆
今日は連休前最後の登校日。
朝からまた、妹が騒がしい。
今日は早くも、インターハイを戦うレギュラーメンバーが発表されるからだ。
1年の中でも、渚と麻美は抜けている。 他にも目ぼしい子が2〜3人いるわね。
レギュラーに選ばれる可能性は十分ある。
「おっはよーございまーす!」
「お、おはよ、麻美ちゃん」
さすがの亜美も、朝から麻美のこのテンションにはついていけないらしく、少したじろいでいる。
私達は、いつもの通い慣れた通学路を駄弁りながら歩く。
花弁がずいぶんと落ちてしまった桜の並木道を抜けて、昇降口までやってきた。
「じゃあ、また後でね」
「えぇ」
今年はクラスが分かれてしまった私達は、教室前で手を振って別れる。
私はA組で、他には宏太、奈央、遥がいる。
まあ、それなりには賑やかなクラスね。
「おはようございます」
「おはよ」
私の斜め後ろに座る奈央が、挨拶してきたので振り向いて返事をする。
ちなみに、後ろの席は遥の席だ。
遥にも挨拶をしようと思い、そちらを見ると──。
「……」
知らない女子が机に突っ伏していた。
髪の少し長い女子。
はて、誰だったかしら?
クラス間違えてるのかしらね。
「あの、クラス間違えてない? ここA組だけど」
「……合ってる」
「……え?」
今、合ってるって言った?
じゃあ、まさかこの髪の長い女子って……。
「は、遥?」
机に突っ伏したまま、コクッと頷く動作をした。
私は、奈央の方に視線を移して説明を促す。
「イメチェンさせたのよ。 もっと女子らしくすれば美人になるって亜美ちゃんが言ってたから」
「だずげでー……」
地の底から響くような声で、私に助けを求める遥。
「……グッジョブ奈央!」
そんな遥を無視して、奈央とサムズアップを交わすのだった。
◆◇◆◇◆◇
昼食の時間──。
「休み時間になる度に、他クラスの男子が見に来てたじゃない。 彼氏ゲットも時間の問題ね」
「うあーっ……」
中庭のランチスペースでバレー部女子で集まり、昼食タイム。
「ね、言った通りでしょ? 遥ちゃんは美人さんなんだよ」
「そうよー。 クラスの男子もざわついてたじゃない」
「遥、頑張ってね」
「わ、私も応援してるよ!」
皆から応援だの何だのされて、遥は折れたのか自棄になったのか知らないけど「やってやんよ!」と、気合いを入れていた。
午後の授業は美術。
班ごとに別れて人体模写。
うちの班のモデルは文句無しで遥。
というか、しばらくはイジって遊べるわね。
「……か、肩に髪が触れてくすぐったいんだけど」
「モデルは動かないの」
「わ、私が何したっていうんだい……」
自分が綺麗になる事の何が嫌なのかしらね。
◆◇◆◇◆◇
さて、授業も終わり部活の時間。
更衣室で体操服に着替える。
「レギュラー、どうなるかな?」
「あんたは確定してるでしょ」
亜美は当然よね。
「奈々ちゃんだって確定だよ」
「というか、2年は全員確定よ」
裏のロッカーで着替えていたらしい部長が、私達の会話に入ってきた。
私達は全員確定か。
「貴女達無しで戦えるわけないでしょ」
「あはは……」
「ういーす」
遅れて遥が入ってきた。
それを見た部長が──。
「ういーす、じゃないでしょ蒼井さん……ってごめん、人違いだったわ」
「ぷっ……」
「あ、奈々美! 今笑ったろ!」
「ごめんごめん。 部長、それ遥で合ってますよ」
「……え? 何、どうしたのその髪とメイク」
「イメチェンですのよー」
さらに遅れて、奈央が更衣室へやってきた。
部長は「イメチェンねぇ」と、しばらく遥を見つめた後で「綺麗じゃない」と、感想を述べた。
遥は、奈央に髪を結ってもらいながら恥ずかしそうに俯くのだった。
体育館へ入り、バレーコートで準備運動とストレッチ、軽く走ってウォームアップを済ませる。
「はーい、集合!」
号令が掛かり、部長の前に整列する。
こうやって見ると、やはり1年生が多い。
「先日言った通り、今からインターハイ予選のレギュラーを発表します。 呼ばれた人はユニフォームを持っていってください。 既にユニフォームを持っている人は結構です」
レギュラー発表である。
ちなみに、メンバーは部長と副部長が相談して選出している。
一応顧問はいるが、たまに練習を見に来る程度のお飾りである。
もちろん、外部からの監督もいない。
全国区の学校でこれは、非常に珍しいのではないだろうか?
「まずは
あら、渚が1年生レギュラー入りしたわね。
実力はあるし、亜美から色々な技術も教わってレベルアップしたし、努力の成果ね。
「本当に1年でもなれるんだ……」
と、他の1年生から声が上がる。
皆が「次こそ私が」と、気合いを入れた。
「次、
「よしっ!」
麻美は小さくガッツポーズをして、喜びを表している。
私と同じぐらいの身長だけど、相手の攻撃に対する嗅覚が優れているという、ブロッカーとして必要な素質を持っている。
ここまで1年生は2人か。
「
ここでも1年生が呼ばれたわね。
やっぱり今年の1年生は優秀だわ。
少しは楽出来るわね。
「
「はいっ!」
「次に、このまま1年生大会のレギュラーも発表します」
あら、同時発表なのね。
1年生大会はインターハイ本戦の後だけど。
まあ、でも連携プレーとかは早めに練習しておいた方が良いものね。
「OHは月島さん、金城さん、里中さん、石見さん、真宮さん。 MBは藍沢さん、倉持さん、黒川さん。 Sは小川さん、鏡さん。 Lは小池さんと森島さん。 1年生のまとめ役は、小川さんお願いね」
「は、はい!」
「以上! 練習再開してー!」
1年生大会のメンバーも決まって、名前を呼ばれた子達の顔が一層引き締まった。
私達は1年大会に出る機会は無かったものね。
「よーし! やるよー!」
麻美が元気な声を出して1年生を鼓舞している。
「西條先輩、トス上げてもらえませんか?」
「いいですわよー」
渚もインハイ予選のレギュラーが決まって、やる気十分のようね。
他の1年生達も後に続けと言わんばかりに、練習に熱が入る。
この子達はきっと強くなるわ。
「奈々美も跳んでおきなさい」
「はいはい。 オープン攻撃でよろー」
「OKですわ」
奈央にトスの要求をして助走に入る。
山なりの高いトスに合わせて、ジャンプして スパイクを打ち込む。
「さすがエースだね、お姉ちゃん」
「ふふん、まあね」
1年生には負けてられないわ。
特に渚は良く似たタイプのプレーヤーだから、新たなライバルってとこね。
いい刺激になるわ。
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