第171話 魔女の館

 ☆希望視点☆

 

 私達はまだまだマジカルランドを堪能中。

 3人で魔女の館というアトラクションに入ったはいいのだけど、私は終始ビビりまくり。

 そして、その途中で亜美ちゃんが魔女さんに連れ去られてしまった。

 夕也くんと私で早く亜美ちゃんを救い出さないと……。

 だけどぉ……。


 ガタンッ!


「はぅぅっ!」


 ドーン!


「はぅぅっ!」


 と、私はこの調子で、物音に対してただただ悲鳴を上げているだけなのである。

 夕也くんにしがみついて、邪魔なだけなのではないだろうか。


「希望、ちょっと動きづらいから離れてくれないか」

「やだよ?! 恐いんだもん!」


 私まで魔女さんに連れ去られちゃうよ。

 

「しかし、亜美はどこに連れていかれたんだろうな」

「や、やっぱり一番奥かな?」

「かなー?」


 私は夕也くんにくっ付きつつ、悲鳴をまき散らしながら館の中を進んでいく。

 いくつか部屋を抜けたところで、一際大きな扉が目の前に現れた。

 もうずいぶん来たし、これが一番奥かもしれない。


「開けるぞ」

「う、うん」


 ギィィィ……


 夕也くんがゆっくりと扉を開ける。

 そこには檻の中に入れられながらも、のほほーんとしている亜美ちゃんの姿があった。


「あ、夕ちゃんと希望ちゃん! きゃー、助けてー」

「棒読みだな、おい」


 亜美ちゃんは随分余裕のようだ。


「ここでは何をすればいいんだ?」

「うんと、さっき魔女さんがその机の上で何かしてたよ? 何か無い?」


 亜美ちゃんが指差す机の方へ移動すると。


「うわ」

「パズル?」


 どう見ても16面パズルである。

 良く見ると何か書いてあるようだが、これはパズルを完成させればわかるのだろう。


「希望頼んだ」

「ええ?」


 私もあんまり得意ってわけじゃないんだけどなぁ。

 でも仕方ないので、私がパズルをすることにした。


 カチッ……カチッ……


 じ、地味だよ。

 私か黙々とパズルを解き、夕也くんはボーッと見ているだけ。

 亜美ちゃんに至っては、檻の中で半分寝ている。

 

「んーと……ここをこうして……出来た!」

「お?」

「んーと、『本棚1番上の赤い本』だって」


 パズルにはそう書いてあった。

 私と夕也くんは、本棚の方へ移動して赤い本を手に取った。

 その本を開くと、5桁の数字が書いてあった。


「何だこの数字」

「35840?」


 夕也くんと相談していると、亜美ちゃんが声を上げた。


「それは、そこの金庫のロック解除の番号かも」

「金庫?」


 魔女さんの館に、金庫は不釣合いではあるけどたしかにあった。

 うん、5桁の数字が入れられるね。

 私は、数字を入力して鍵を開ける。

 金庫の中には、小さな鍵が入っていた。

 これは檻の鍵かな?

 檻の前に移動して、鍵を挿してみるとぴったりだった。


 ガチャッ


「おおー、ありがとう」


 亜美ちゃんを檻から救い出すだすことに成功した。

 何とかこれで、3人に戻れたね。


「ありがと、2人とも。 私がいない間、変なことしてない?」

「希望は泣き叫んでただけだぞ」

「怖いんだもん……」

「あはは」

「さて、この後はどうすればいいんだ?」

「んー、魔女はこの奥に行ったよ? なんか、私を実験台にするとか言ってたけど」

「じ、実験台?!」


 良かったよ……実験台にされる前に助けられて。

 なんてホッとしていると亜美ちゃんは「本当にされるわけないでしょ」と、私に呆れたような口調で言った。


「とりあえず行ってみるか」

「うん」

「早く外に出たい……」


 私は切に願うのだった。

 少し進むと、急に通路の電気が消えて辺りが暗くなる。

 私は咄嗟に夕也くんの腕にしがみついた。


「おやおや、檻から抜け出すなんて悪い子だねぇ」

「はぅ……」


 魔女さんの声がどこからともなく聞こえてくる。

 ど、どこにいるんだろう?


「スピーカーから聞こえるね」

「んだな」


 えぇ、そうなのぉ……。

 

「逃がさないよ!」


 パッと電気が点くと、後ろから魔女さんが近付いて来ていた。


「この先の通路を左に曲がったところに、館から出る扉だけれど、簡単には逃げられないよ」

「ご丁寧に出口教えてくれたよ!? 魔女ありがとー!」


 私達は小走りになり、魔女さんが言っていた通路に入り左へ曲がった。

 少し走ると、扉があったにはあったけど鍵がかかっていて開かない。

 か、鍵なんて持ってないよ。


「うーん……」

「どどど、どうしよー! 魔女さんに捕まって実験台にされちゃうよぉ!」

「お前なぁ……」

「希望ちゃんはアトラクションを楽しんでるねぇ」


 2人はのほほんとしながなら、そんな事言う。

 何でそんなに余裕があるの?

 早くしないと、魔女さんが追い付いてきちゃうよ。


「んー、この鍵どうすれば?」

「うーん……」

「鍵が無い以上はどうする事も出来ないだろ」

「そだねぇ」


 などと、問答を繰り返している内に、通路の角から魔女さんの姿が現れた。

 も、もう追いついてきた。

 もうダメだよぉ!


「亜美ちゃん! なんとかしてぇ!」

「そう言われてもねぇ」


 ゆっくりと魔女さんが近付いてくる。

 一歩一歩、近付いてきて、あとその距離数mぐらいになったところで──。


 ガチャッ


「ん?」

「勝手に鍵が開いた?」

「!」


 私は、自慢の反射神経で扉に手を掛けて開ける。

 夕也くんと亜美ちゃんを押し退けて、我先に外へ出て扉を閉めた。


「はぅー、外だぁ……助かったよぉ」


 ドンドンドンッ!


「はぅっ?!」


 背後からドアを叩く音がする。

 と、そこで気付いた。

 私だけ先に出てきて扉を閉めちゃった上に、開かない様に抑えていたものだから、2人が出られなくなったようだ。

 私は扉から離れた。


 ガチャッ……


「のーぞーみーちゃーん!」

「ご、ごめーん。 怖いあまりに……」

「怖がり過ぎだろう希望……」


 その後、2人に散々文句を言われるだった。

 叫び疲れた私を気遣って、次は優しめの乗り物をチョイスしてくれた。

 ゆっくり乗れるボートの乗り物アトラクションだ。

 魔法の森に流れる川を、ボートでゆっくりと進みながら魔法の森を探検するという設定らしい。


「安らぐ―」

「あはは」

「希望はなんであんな怖がりなんだ」

「良いじゃない別に……」


 怖いものは怖い。

 怖がりなのは昔からだし、今更言われてもね。


「このアトラクションの後はどこ行く?」

「んー、私はマジカルコースターに乗りたいんだけど、希望ちゃんがねぇ」

「私は良いから、2人で乗ってきたら?」

「夕ちゃんどう?」

「んじゃ、2人で乗るか?」

「OK」


 ジェットコースターなんて乗ったら、私は気を失う自信があるので少し遠慮することにした。

 魔法の森のアトクションを抜けた私達は、亜美ちゃんと夕也くんの乗りたいマジカルコースターへ向かう。

 コースターはかなり人気があるらしく、そこそこの人が列を作っていた。

 

「じゃあ、私達は行ってくるね?」

「うん。 私はこのベンチで休んでるから」

「じゃあまた後でな」


 列に並びに行く亜美ちゃんと夕也くんを、手を振りながら見送った。

 良くあんなのに乗ろうと思うなぁ。

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