第162話 清水亜美17歳

 ☆亜美視点☆


 4月10日は私の17歳の誕生日。

 部活の後、なんと奈央ちゃんが高級レストランのVIPルームを予約してくれているらしいのだ。

 学校から直接向かうという事なのだけど、着替えとかどうすればいいのだろう?


「西條先輩、トス上げてもらえないでしょうか?」

「いいですわよー」


 1年生はとても練習熱心だ。 人数が多い分、コートの取り合いも激しい。

 私達も練習の輪に加わり、全学年合同で仲良く練習だ。


 18時過ぎに、部活は終了。

 私達は、先にシャワーを浴びさせてもらって学校を出る。

 校門で夕ちゃん宏ちゃんと合流して、皆で駅へ向かう。

 目的地の高級レストランは、市内にあるとのこと。

 途中でブティックへ寄って、皆着替えるらしい。

 レンタル衣装なので汚さない様にと、奈央ちゃんに注意を受けた。

 またお高い衣装なんだろうなぁ。


「奈央ちゃん、今日はわざわざお店まで予約してくれてありがとう」

「なーに言ってるのー。 何年付き合いのある仲間だと思ってるのよ? これぐらいするって」

「いや、友達の誕生日に高級レストランのVIP予約できるのは、奈央ぐらいでしょ……世界広しといえどもね」

「そんな事はないわよ」


 そんな事は無くても、限りなくレアな人だとは思うわけですよ。


「西條と居ると、俺達の感覚がおかしくなる気がするよな」

「わかるわね、それ」


 高級レストランや、奈央ちゃんの家での誕生日パーティー。

 大型連休には毎回、奈央ちゃんの家の別荘やらホテルなんかを自由に使わせてもらってる。

 それが当たり前になりつつあるのが何とも怖い。


「あまり気にしなくていいわよー」

「そーそー、奈央が好きでやってんがから」


 紗希ちゃんと遥ちゃんは、奈央ちゃんとの付き合いが長い分だいぶ慣れている様である。

 私達だってもう5年ぐらいだし、慣れても良い頃なのだろうか。

 

「慣れるのは無理だよぅ」


 希望ちゃんは、諦めている様である。

 私達、一般家庭の人間は中々ねぇ。

 私達一行は駅に到着し、いつも通り市内までの切符を購入。

 電車に乗り込む。

 この集団でこの電車に乗るのも、もう何回目だろうか?

 


 ◆◇◆◇◆◇



 市内へ到着して、まずブティックへやってきた私達。

 どうやらこのブティックも西條グループの傘下らしい。


「はい、ここに並んでる服、好きに選んでいいわよー」


 と、ドレスやら高そうなワンピースが並べられている場所に案内される。


「おお、どれも凄い」

「男子の2人はこっちねー」


 夕ちゃんと宏ちゃんは、別の所へ連れて行かれた。

 ここから歩いてレストランまで行くとなると、派手そうなドレスとかは恥ずかしいし避けたいね。

 適当なワンピースを選んでフィッティングルームへ。

 制服を綺麗に折りたたんで、お店が用意してくれた袋に入れる。

 ワンピースを着込んでみると……。


「うわわ、思ったより胸が開いてる」


 谷間が良く見える。

 これは失敗したかもしれないよぉ。 まあ仕方ないかぁ。

 私は諦めて、そのワンピースに決めた。

 フィッティングルームを出ると、奈央ちゃんと紗希ちゃんが先に出て来ていた。

 2人とも、可愛らしいフリフリドレスをチョイスしていた。

 恥ずかしくないのだろうか。


「主賓の亜美ちゃんはワンピかぁ。 胸元出しちゃって、アピールー?」

「ち、違うよぉ。 選んで着たらこうなってたのぉ」

「あはは、良いじゃん別に。 どうせレストラン入ったら私達だけなんだし」

「そ、それもそうだね」


 そうやって2人と話していると、続々と皆が出てきた。

 希望ちゃんは、普通に可愛い黄色いワンピース。 胸元も開いてなくて、胸には桜の花のコサージュ。

 良いチョイスだ。

 奈々美ちゃんは、ワインレッドのドレス。

 大人っぽい奈々ちゃんには良く似合っている。

 遥ちゃんは、ボーイッシュというかなんというか……キリっとしたパンツスタイルで、イケメンさんに見える。


「遥-、またそんなの選んでー」

「いいじゃんかー! 私に女っぽい服似合わないんだよー」


 遥ちゃんだって、可愛く着飾れば可愛くなれると思うんだけどなぁ。

 似合わないっていう先入観が強すぎるんだねぇ。

 さらに少しすると、男性勢の2人もやってきた。

 2人とも、割と普通なのを着ている。

 タキシードとかじゃないんだねぇ。 ちょっと残念だよ。


「皆、揃いましたわね。 それでは行きましょう」


 奈央ちゃんに先導されて、私達は予約されている高級レストランへ向かう。

 ドレスやら何やらで着飾る私達。 通りすがる人達が振り返ったりしている。

 まあ、何の集団だとは思うよね。

 練り歩くこと数分。 繁華街の中にそれはあった。


「こ、ここが……」

「はぅーっ」


 いやー、高そうなレストラン。

 これのVIPだと言うんだから、一体いくらするのか想像もつかない。


「さ、入るわよ」


 奈央ちゃんが気にせず中に入っていく。

 仕方ないのでその後に続いて入る。

 奈央ちゃんは、お店のお偉いさんに「西條奈央です。 今日はVIPの予約をしているんですが」と、告げている。

 すると「すぐに案内します」と言って、私達を案内してくれた。


「こちらでございます」


 そこは、レストラン3階に位置するVIPルームだ。

 私達は、それぞれ席に着いた。

 どうすればいいのかわからないので、とりあえず黙って座ることにする。

 少しの間待っていると、どんどん料理が運ばれてきた。

 どんな料理が出てくるのかと思ったが、意外にも私達も馴染みあるステーキとかスープが出てきた。


「あ、案外普通ね」


 奈々ちゃんも虚を突かれたような顔をしている。


「ふふ、皆の口に合う物を用意したのよ」


 どうやら、あまり高級な料理は私達の舌に合わないと思ったのだろう。

 実際そうだろう。

 奈央ちゃんの気配りがとてもありがたい。


「とはいえ、素材自体は最高級素材を使用してるから、普段食べている物と比べ物にならない程美味しいと思うわよ」

「さ、最高級……」

「マジか……」


 夕ちゃんも宏ちゃんも、唾を飲み込んでいる。

 さすがの紗希ちゃんと遥ちゃんも、目を輝かせている。


「さて、これで出揃ったわね」


 料理が全て並んだらしい。

 奈央ちゃんが「では」と、前置きをしてから。


「これより、亜美ちゃんの17歳の誕生日を祝うパーティーを始めます! かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 奈央ちゃんの言葉とともにパーティーが始まった。

 私達は目の前の料理を口に運ぶ。


「お、美味しい」

「美味すぎる!! このステーキ何でこんな柔らかいんだよ! スーパーで売ってるやつと全然違うぞ!」

「そんなの当り前よー。 最っ高級だと言ったじゃない」

「こ、これが最高級の味……」


 私達は、良く食べる物なのに全然それらとは違いすぎるあまりの美味しさに、驚きの声を上げる。

 食が進む進む。


「奈央ー、あんたの友達で良かったわよー」

「あんた、私の事を美味しいご飯食べさせてくれる人程度にしか思ってないわけ?」


 紗希ちゃんの物言いに、奈央ちゃんが少々怒りながら文句を言っている。

 あははは……。

 それにしても美味しい。


「これ食べたら、ケーキもあるからね」


 きっとそれも美味しいんだろうなぁ。

 楽しい誕生日パーティーはまだまだ続くよ。

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