第133話 実力試験

 ☆宏太視点☆


 現在俺は、進級出来るかどうかの瀬戸際に立っている。

 次の試験の結果次第では、即留年決定だ。

 それを回避する為、最強の助っ人である亜美ちゃんに、付きっきりで家庭教師をしてもらっている。

 2日目の午前中、数学を一通り終えたところで、休憩しているところなのだが。


「宏ちゃんさ、今は私の事どう思ってるの?」


 亜美ちゃんが、急にそんな事を聞いていきた。

 表情を見ると、少しイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 

「顔に出てるぞ、わかりやすいな」

「あちゃー」


 でも、ずっと好きで追いかけてきた女の子だ。

 別の彼女が出来たからと言って、簡単に消え去るような浅い恋では無かったのは事実。

 もう、付き合うとかそういうつもりは無いが。


「実際、好きだって気持ちはまだある。 ただ、奈々美を選んだからな。 今は、気持ちだけだ」


 すると亜美ちゃんは、笑顔になり。


「良い解答だね。 恋愛に家庭教師はいらなさそうだよ」

「むしろ、亜美ちゃんに必要な気がするぞ」

「むぅ、大丈夫だもん」


 膨れっ面になり、少し怒ったようである。

 本当に可愛らしい女の子だ。


「さて、お昼食べたら再開しよっか」

「そうだな。 腹減った」


 お袋が何か作ってくれてれば良いんだが。

 

 キッチンへ行くと、しっかり2人分の昼食が置いてあり、メモが添えられている。

 メモには「少し出掛けてきます。 亜美ちゃんに変な事しないように」と、書かれていた。


「するかっ?!」

「あーははは……宏ちゃんと奈々ちゃんが付き合ってるって、おばさんは知らないの?」

「あえては言ってないが、多分気付いてるはずなんだがなぁ」


 何を考えてんだかわからん。

 とりあえずテーブルに座り、用意された昼食をいただく事にする。


「オムライスだね。 いただきます」

「いただきます」


 2人で同時に口に運ぶ。

 亜美ちゃんは、大袈裟気味に「美味しいよぉ」と言いながら、オムライスを頬張っていた。


 午後からは苦手な物理化学を重点的に勉強した。

 数学の時のように、大事そうなポイントを抜粋して、覚えやすいように教えてくれる。 本当にわかりやすい。


「亜美ちゃん、教師向いてるんじゃね?」

「ん? 教師? 考えた事無いなぁ」

「教えるの上手いし」

「それだけじゃ教師にはなれないよ。 私は人に勉強教えるのは好きだけど、お仕事にはしたくないかなぁ」

「そうかぁ」

「ほら、集中する!」

「あい……」


 少々スパルタなところが玉に瑕ではある。


 1時間に1回休憩を挟みながら、夕食を食べるまでみっちりと叩き込まれた。

 

 学校のある日は、帰ってきてから寝る前まで付き合ってくれて、かなり助かる。

 亜美ちゃんが家庭教師じゃなかったら、ここまで続いていないだろう。

 やる気を出させるのも、上手いときたもんだ。


 そんなこんなで、2月5日──

 試験の1日目だ。

 1日目にして山場、数学と物理化学がいきなり入っている。


「宏ちゃん、大丈夫だよ」


 亜美ちゃんが、席までやってきて声を掛けてくれる。

 昨日の夜は、英気を養うという名目で勉強は一切しなくていいと、亜美ちゃんに言われた。

 亜美ちゃん流なのだそうだ。


「亜美、本当にこいつ大丈夫なの?」

「うん」


 亜美ちゃんは自信満々に頷くが、俺はあまり自信が無い。

 少しすると、数学教師がやってきて、問題用紙と解答用紙を配り始める。

 

「始め」


 その声とともに、問題用紙をめくる。


「……」


 パッと見ただけでわかる。 亜美ちゃんの教えてくれた問題ばかりだ。

 これなら何とかなるかもしれん!

 

 俺は焦らずに、亜美ちゃんに教わった事を思い出しながら、確実に解いていく。

 途中、解答欄にズレがないかも確認しつつ、時間一杯使う。

 これも亜美ちゃんからのアドバイスだ。


 その後の教科も、亜美ちゃんの山が当たりに当たり、教えてもらった事を十分に活かせた。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 1日目の試験が終わり、帰りにB組の皆でファストフード店に寄り道している。


「宏太、手応えはどうなんだ?」


 向かいに座る夕也が、ハンバーガーをむしゃりながら聞いてくる。


「初日はかなり良い感じだ」

「おー、佐々木くん凄い」

「私が教えたとこばかりだったでしょ?」

「そうなんだよ! 亜美ちゃんすげーな!」

「亜美、あんた問題盗んでるんじゃないでしょうね?」


 奈々美がそんなことを言うと。


「それなら毎回100点なのも頷けますわ! 白状なさい!」


 西條も便乗するが、誰もそんな事を本気では思っていない。

 皆、亜美ちゃんの凄さは本物だとわかっているからだ。


「盗んでるわけないじゃん」

「わーかってるわよ! この化け物!」

「人間だよ!」


 いつものやりとりも飛び出した所で、今日の予定をどうするのか訊いてみる。


「亜美ちゃん、今日はどうする?」

「ん、明日は得意の生物とか暗記科目だしねぇ。 教える事はもう無さそうだけど……」

「それじゃあ、皆でやりましょうよ」


 西條が、両手をぽんっと合わせて提案すると、この場にいる皆が賛成した。

 一旦解散して、家から教科書やノートを持ち出し、皆で図書館に集合。

 D組のメンバーも加わり、夕方まで勉強に勤しむ。

 

 日も暮れかけた帰り道を歩いている時である。


「ねぇ、明日は宏ちゃんの誕生日だけど、どうする?」

「あー、そうだったな……勉強ばかりしてて忘れてたぞ」

「うわ、佐々木君から『勉強ばかりしてた』なんて言葉が飛び出した」

「うっせー! こちとらギリギリなんだよ!」


 けらけらと笑う神崎に怒鳴りつける。

 まあ、普段しないからな……。


「また誕生日パーティーやる?」

「別にやらなくて良いんだけどな。 家狭いし」

「そっか」


 皆も無理には言ってこなかった。

 だが、夜寝る前に奈々美からメッセージが届いており、そこには「夕也の家でパーティーやる事になったから」と書いてあった。

 結局やるのかよ。


 

 ◆◇◆◇◆◇



 翌日の試験は得意の生物から。

 相変わらず亜美ちゃんの言った場所が、しっかりと出題されている。

 ここまで来ると、ちょっと怖いくらいである。


 その後の教科も得意の暗記科目。

 これらもかなりの手応えを感じた。

 これはもしかしたら、夕也や奈々美に勝てるのではと思える。


 実力試験の全てが終了した。

 帰宅前に、皆が俺の席に集まってくる。


「宏ちゃん、お疲れ様。 とりあえずこれで結果待ちだね」

「おう。 亜美ちゃんサンキューな! おかげでかなり出来たぜ」

「佐々木くんが自信満々だよ?!」


 雪村が口に手を当てて、驚きの表情を浮かべる。

 まあ、俺自身も驚いているわけなんだが。

 

「亜美、どんな秘密の教え方したんだよ? 体か? 体を使ったのか?」

「普通に教えたに決まってるでしょ? 体って何よ……」


 亜美ちゃんが、呆れた顔で夕也を見ている。

 

「でもわかりやすかったぜ。 ここを乗り切れたら期末も頼んでいいか?」

「うん、お安い御用だよ。 皆で2年生になろうね!」


 全員で「おー!」と、声を上げて手を上げる。

 仲間ってのは良いものだと改めて思った。


 下校中、二手に分かれて帰ることになった。

 夕也の家に先入りして、パーティー準備をするグループ、お菓子やケーキを買い出しに行くグループである。

 尚、主役の俺は自宅待機させられるのであった。

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