第131話 宏太ピンチ
☆希望視点☆
1月24日の金曜日である。
授業の合間の休憩時間、急に奈々美ちゃんにこんな事を言われた。
「そういえば希望さ、なんであっさりと夕也と別れちゃったのよ? あんたが『嫌だ』って言えば、夕也は無理に別れようとはしなかったでしょ?」
「ううん、言ったけどダメだったよ?」
「あら、そうなの?」
「希望ちゃん、割とあっさり受け入れちゃってたよね? 隣にいたけど、もっと食い下がると思ったよ?」
「本当は嫌だったよ。 当たり前だけどね」
出来れば私だって、別れたくはなかった。
「でも、夕也くんに罪悪感を抱かせたまま付き合い続けるのは、私としても心苦しいって気持ちがあったから、仕方なくね」
「そうなのねー」
「希望ちゃんと夕ちゃんが決めた事だし、私は何も言わないけど」
そりゃ、亜美ちゃんからしたらチャンスが広がったのだから、何も言う事は無いだろう。
私は今までよりも頑張らないといけくなってしまった。
そんな女子トークをしていると、佐々木くんが寄ってきた。
なんだか浮かない顔をしながら亜美ちゃんの前までやって来て……。
「亜美ちゃん……」
「んん? ど、どしたの宏ちゃん? この世の終わりみたいな顔して?」
「さっき担任に呼ばれて職員室へ行ってきたんだが……」
「うん?」
いないと思ったら呼び出されてたのね。 一体何があったのだろう?
「た、助けてください神様亜美様!」
「う、うぇっ?! な、何? どしたの?」
「あんた、何やらかしたのよ?」
いつもノーテンキな佐々木くんが、切羽詰って亜美ちゃんに救いを求めている。
本当にどうしたのだろうか?
「実は、このままだと進級が危ういらしい……」
「えっ?! 留年しちゃうってこと?!」
「……はい」
「あんた、そんなに成績悪いの?」
「うむ……で、今はギリギリラインらしくて、来月の実力試験と3月の期末試験で赤点を取らなければなんとか進級できる基準はクリアするらしいんだ」
「そこで、私に勉強を教えてほしいと」
「お願いします! 頼れるのは亜美ちゃんだけなんだ!」
手を合わせて頭を下げる佐々木くん。 留年なんかしたら、バスケの試合も出られなくなるしね。
必死になるのは遅すぎる気もするけど……。
亜美ちゃんも奈々美ちゃんも呆れた顔になっているが……。
「うん、いいよ」
「おお! ありがとう!」
「じゃあ、今晩から実力試験まで毎日宏ちゃんの家に家庭教師に行ってあげるね」
「ま、毎日……」
「私は甘くないよ宏ちゃん!」
佐々木くんは、「毎日勉強……」と、項垂れてしまうのであった。
自業自得である。
「毎晩って、亜美は良いの? 勉強しなくても?」
聞くだけ無駄だよ奈々美ちゃん。 亜美ちゃんなら何も問題無いに決まってるんだから……。
亜美ちゃんは案の定「大丈夫だよ」と、言い放つのであった。
でも、毎晩家庭教師かぁ。 佐々木くんの家で2人きりになるのでは? 奈々美ちゃん的にはいいのだろうか?
まあ家が向かいだし、気になったらいつでも見に行けるから、そこまで心配でもないのかもしれないけど。
「なんだ、皆集まってどした?」
お手洗いに立っていた夕也くんが、不思議そうに訊いてくる。
私は、先程のやり取りを説明してあげる。
すると夕也くんは──。
「宏太、しっかりしろよ。 お前が試合に出れなくなったら、バスケ部の戦力大幅ダウンじゃねーか」
「わーってるわ! だから必死なんだろ!」
「必死になるの遅すぎだっつーの」
「うぐ……」
正論を言われて、言葉を飲み込んでしまう佐々木くん。
D組に行っていた奈央ちゃんも戻ってきて、やはり同じように「自業自得ですわね」と、佐々木くんに辛辣な言葉を言い放つのであった。
◆◇◆◇◆◇
今晩から、亜美ちゃんは佐々木くんの家に家庭教師をしに行くことになったので、夕飯の準備はしばらくの間、私が1人でやることになる。
いつもは分担でやっていたので、少し時間がかかる。
亜美ちゃんに至っては、家庭教師と佐々木くんの夕飯まで準備する事になる。
大変だ。
たまに奈々美ちゃんがお手伝いに行くとの事だけど……。
「宏太の奴はちゃんと勉強やってるんだろうな?」
「亜美さんが教えてるなら、ちゃんとやってるでしょう……」
「さすがの佐々木くんでも、進級が掛かってるから頑張るんじゃないかな?」
「まぁ、そうだよな……」
でも、佐々木くんのここまでのテスト、一体どんな成績だったんだろう?
実力試験かぁ……私達も勉強しとかないとダメだよね。
「夕也くん、私達も今日から勉強しよっか?」
「ぐぬ……そ、そうだな」
何故かすごく嫌そうな顔をする夕也くん。 勉強好きな人なんていないとは思うけど、そこまで嫌がらなくても。
春人くんも同意して、私達も今晩から3人で勉強することになった。
亜美ちゃんのいない夕食を済ませ、1人でお皿を洗う。
やっぱりいつもより時間がかかる。
私は皿洗いを終えて、リビングへ向かう。
リビングにはテレビも消して、勉強に集中している夕也くんと春人くんがいた。
感心感心。
「私、勉強道具取ってくるね」
「おー」
「……」
春人くんは凄い集中力だ。 前学期も定期テストの成績は良かったし、頭も良いんだね。
私は一度家に戻る。
家に戻っても、亜美ちゃんはまだ戻って来ていない。
みっちり教えているんだろう。 明日は休みだし、もしかしたら遅くに帰ってくるかもしれない。
部屋から勉強道具を持ち出し、リビングのお父さんお母さんに声を掛けてから、再度夕也くんの家に向かう。
夕也くんの家のリビングへ戻ってくると、夕也くんが机に突っ伏している。
集中力切れるの早すぎだよぅ……。
「夕也くん……大丈夫?」
「むー……」
「夕也、わからないところは聞いてくださいね。 その為に皆で勉強してるんですから」
「そうだよー」
「希望は数学得意だよなぁ……これどうやるんだっけ」
「んー? ちょっと見せて」
ずいっと、夕也くんの方へ寄って、問題を見る。
ふむふむ……1学期の内容だね。
「これはね、ここの式を展開して、こうすると」
「おー、この形ならわかるぜ! そうか、式を展開か」
「ふふーん。 数学は任せてよ! 亜美ちゃんや奈央ちゃんほどじゃないけど、得意だからね」
そんな私の苦手科目は英語である。
なんで英語なんてあるんだか……日本語を世界共通語にすればいいのに。
なんて文句を言っていても、英語のテストは無くならないので、教科書と辞書を開いて、単語と文法を覚えることにする。
春人くんは何を勉強しているのかと思い、チラリと見てみると、現代国語を勉強中。
英語は得意そうだし、わからないところは聞いちゃおう。
そうやって、3人でわからない箇所を教え合いながら、実力試験の勉強を進める。
途中で亜美ちゃんがやって来て、「宏ちゃん、想像以上にやばかったよ。 明日は朝からみっちり教えることにした」と、言った。
亜美ちゃんがそこまで言うという事は、本当にマズイ状況なのだろう。
ちなみ、佐々木くんは今、飴細工のように溶けているらしい。
亜美ちゃん、スパルタで教えたんだろうなぁ。
佐々木くん、頑張って赤点回避して、皆で進級しようね。
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