第130話 ふりだし
☆亜美視点☆
翌朝の登校中──
「えっ?! 別れた?!」
「何でだよ? 上手くいってたんじゃないのか?」
夕ちゃんと希望ちゃんが別れたという事を、奈々ちゃんと宏ちゃん、春くんに話す。
結局、私達の関係は振り出しに戻ってしまった。
「うん、上手くいってたけど色々あってね」
「俺が無理言って、とりあえず関係のリセットをしてもらったんだ」
「関係のリセット?」
「なんだそれ?」
良く分かっていない奈々ちゃんと宏ちゃんに、夕ちゃんが説明する。
話を聞いて「なんか良くわかんないけど、まあわかった」という曖昧な言葉を残すのだった。
「でも、希望さんは思いの外、落ち込んでないですね?」
そうなのだ。 大好きな夕ちゃんと別れたのだから、凄く落ち込むんじゃないかと不安だったんだけど、落ち込むどころか凄く前向きで「私の頑張りが足りなかった。 もっと頑張って、もっと好きになってもらう」と、やる気になっていた。
少しの間とはいえ、夕ちゃんの恋人として過ごしたことは、希望ちゃんにとって大きな自信になったのだろう。
「落ち込んでる場合じゃないからね。 亜美ちゃんに負けない様に、これからも頑張らないと」
「ふぅん。 希望変わったわね?」.
「どうかな? 自分ではわからないけど」
「うん、変わったよ希望ちゃんは。 強くなった」
「そうだな。 昔の雪村なら絶対に落ち込んで塞ぎ込んでたよな」
うんうん、そうだよねぇ。
「俺も出来るだけ早く、自分の気持ちをしっかり固めるよ。 そんなに2人を待たせるつもりはない」
「またまた、そんな事言ってうだうだと長い間悩むくせにー」
「うぐっ……」
私の指摘は図星だったようだ。
すぐ言葉に詰まった。
「あははは、良いよゆっくりで」
「うん、私も。 焦って決めようとしないで?」
「お前ら……わかった。 悪いな、ちょっと待ってくれ」
私と希望ちゃんは、揃って頷いた。
◆◇◆◇◆◇
学校の帰りにも、バレー部の皆にこのことを話して、皆を驚かせた。
「希望ちゃん、私はまだまだ力になるよー」
紗希ちゃんが希望ちゃんの手を取って、目を潤ませながらそんな事言っている。
私の協力者の奈々ちゃんも「じゃあ、私も亜美に協力するわよ」と言ってくれた。
恋の戦いはここからが本番。
昨日あの後、私と希望ちゃんはお風呂で話し合った。
今後、どっちが夕ちゃんに選ばれても恨みっこ無しだと。
「今井君も大変ねー?」
「いやまあ……」
奈央ちゃんが夕ちゃんに声を掛ける。
本当に大変だよね。 半分くらい私の所為だけども。
さて、私は早速攻めて行こうかなぁ。
「夕ちゃん。 今度デートしよ?」
「ん? デート?」
「はぅっ!?」
「お、攻めるわね亜美! いけいけー」
「デートはちょっとなぁ……今はまだ」
「そっかぁ……デートOKになったら教えてね」
「あぁ……昨日みたいに3人で出掛けるってんなら別に構わないぞ?」
「じゃあ、また3人で遊びに行こうね?」
希望ちゃんがそう言うと、夕ちゃんも「おう」と頷く。
奈々ちゃんと宏ちゃんも混ぜろと言うので、いつか幼馴染5人で遊びに行く約束をした。
私達5人は、大人になってもこうやって仲良しでやっているだろうか?
きっと、お爺さんお婆さんになっても今と変わらないよね。
家に戻って着替え終えてから、夕ちゃんの家に向かう。
夕ちゃんの家には先に希望ちゃんが来ており、夕飯の準備を始めていた。
今までと何も変わらない毎日。 恋人とかそういうのは、私達にはあまり関係ないのかもしれない。
でもやっぱりというか、夕ちゃんの一番特別な女の子にしてほしいという思いは強い。
希望ちゃんもそうだろうと思う。
「希望ちゃん、私何しよう?」
今日は簡単に牛丼でも作ろうと言う話になっている。
「牛肉炒めておいてー」
「はーい」
私がお肉を炒めている間に、希望ちゃんは玉ねぎを手早く切って鍋に入れていく。
その後がつゆを作り始めた。
希望ちゃんも料理上手くなったなぁ。
清水家に来た頃には全然ダメだったもんなぁ。
「どしたの亜美ちゃん、にやにやして?」
「んー? 昔の事を思い出してねぇ」
「昔の事?」
「うん。 希望ちゃんが昔は料理できなかったこと」
「はぅ……亜美ちゃんに教えてもらったんだよね」
「うんうん。 苦労したよ」
「おかげで今は、ちゃんと出来るになりました」
「そうだね。 助かってるよ」
私もお母さんも、夕ちゃんもね。
何処に出しても恥ずかしくない妹だよ本当に。
「本当に今の私があるのは、亜美ちゃんのおかげだよ。 私が変われたのも、今幸せなのも全部亜美ちゃんのおかげ」
「そう思うんだったら、夕ちゃんの事は私に頂戴よ?」
「去年までなら良いよって言ってたと思うけど、今は言えないなぁ」
「ざーんねん」
まあ、そうでもないと張り合いが無い。
「ね、もし私と夕ちゃんが付き合うことになったらどうする?」
その時はやっぱり落ち込むだろうか?
それは少し胸が痛むけど、それでも私はもう……。
「んー、多分落ち込むし泣いたりもすると思う。、それでもちゃんと祝福するよ。 去年、亜美ちゃんがそうしてくれたようにね」
「希望ちゃん……うん、私も同じ」
希望ちゃんも私も、似た者同士なんだなぁ。
夕ちゃん曰く、希望ちゃんが私に似ちゃったのだとかなんとか。
ふふふ、そうかもしれないね。
「よし、できた!」
作っていた牛丼が完成した。
私と希望ちゃんの愛情たっぷりの愛だく特盛を夕ちゃんの丼に。
春くんのは普通でいいよね。
さて、夕飯ができたことを2人に伝えに行きますか。
夕ちゃんも春くんも、リビングにいたよね。
私はリビングの方へ向かう。
リビングでは夕ちゃんと春くんが、テレビを視ていた。
「2人ともご飯出来たよー」
「おうー」
「はい」
テレビを消して立ち上がる2人。
先に春くんがリビングを出て行く。
続いて夕ちゃんが出てくるので。その夕ちゃんの腕に抱き付く。
「お、おい」
「アピールアピール」
「はぁ……」
そのままダイニングへ向かうと、希望ちゃんがすぐさま怒り顔になって「離れなさいー」と、寄ってきて引き離してくる。
「もう、夕也くんも黙ってされるがままになってないでっ」
「いや、まあ……別に良いんだけどな」
「良いのっ?! じゃあ私も」
私を押し退けて、夕ちゃんに抱き付く希望ちゃん。
「夕ちゃん、二股だー」
意地悪を言ってやる。
夕ちゃんは「二股なのは別に良いんだよ。 いや、良くはないけどな?」と、そう言った。
二股なのを気にしてたんじゃなくて、そんな状態で希望ちゃんと付き合ってる事を気にしてたんだったね。
「そんなことより、夕飯を頂きましょう。 冷めてしまいますよ」
「そうだね」
「今日は牛丼か。 盛りすぎじゃないか?」
「んー? それぐらいいるかと思って」
「まぁ、食えるけど」
「私の愛情たっぷりだよ」
「わ、私のも入ってるっ!」
「相変わらず大変ですね」
「うっせ!」
希望ちゃんと夕ちゃんが別れちゃっても、普段と変わらない日常。
夕ちゃん的には、少し心の余裕が出来たのかな?
私の事も、希望ちゃんの事も同じぐらい好きだと言う夕ちゃん。
将来、夕ちゃんの一番になってるのはどっちだろう? 私だといいなぁ。
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