第123話 おかえり

 ☆希望視点☆


 翌日早朝、救助隊が出動し6時頃、亜美ちゃんと夕也くんがホテルへ戻ってきた。

 

「亜美ちゃーんっ!」

「うわわ、希望ちゃん……」


 私は無事に戻って来てくれた亜美ちゃんに、思いっきり抱き付く。

 奈々美ちゃんや皆もゆっくりと周りに集まってきた。


「おかえり亜美。 もう、心配かけさせるんだから」


 奈々美ちゃんがぽかんっと頭に拳骨を入れる。

 もちろん本気ではない。


「あぅ……」

「本当によぉ」

「ごめん皆……」


 亜美ちゃんが、大きく頭を下げて皆に謝罪すると、皆は「おかえり」と笑顔で応えるのだった。


「亜美ちゃんと今井君は、今から車を出してもらうので病院へ行って、健康状態のチェックを受けてください」

「うん、わかったよ」

「了解」


 亜美ちゃんと夕也くんは、そう言って病院へ向かった。

 私達は、亜美ちゃん達の帰りを待ってから、皆でゲレンデに出ようと話し合った。


「亜美ちゃん達、今日は滑れるかな?」

「滑れても、その辺の中級コースぐらいまでにさせるつもりですわ」

「そうね」

「私は今井君に昨日の続きおせーてもらうー」

「紗希は今井君好きだなー」

「お気に入りだもの―」

「がるるー」


 とりあえず、紗希ちゃんを牽制する。

 彼氏がいる前でも、結構夕也くんと接近したりするし要注意だよ。


「紗希、希望ちゃんが怒ってるし柏原君は呆れてるぞ」


 遥ちゃんが溜め息をつきながらそう言うと、紗希ちゃんは「だってぇ、あんな良い男いないよぉ?」と、そんなことを言う。

 本当に油断できないよぉ。


「皆さん、元気になられましたね」


 春人くんが笑顔になる。


「まぁ、とりあえず心配事も無くなったしね」

「うん」


 私もやっと落ち着いたよ。

 

「んじゃ、2人が戻って来るまで部屋でのんびり待ってましょうか」


 奈央ちゃんの一言で、皆が解散する。

 私も、奈々美ちゃんと佐々くんについて部屋に戻った。



 ◆◇◆◇◆◇



 1時間半程すると、2人が戻ってきた。

 どうやら、健康状態には問題無かったようだ。


「良かったぁ!」

「うん。 お医者さんもどんな体してるのか不思議そうだったよ」

「夕也くんもお疲れ様」

「おう」


 と、言ってもそれほど疲れは無さそうだ。 避難小屋でそれなりに休めたのだろう。

 

「2人とも、これからお昼食べて皆でゲレンデに出て滑るんだけど」

「うん、私は大丈夫だよ」


 亜美ちゃんは「ピンピンしてるよぉ!」と言いながら、飛び跳ねたり、力こぶを作るポーズを見せたりしている。

 本当に元気なようである。


「とは言っても、難しいコースとか行くのはもうやめるんだぞ?」


 佐々木くんが釘を刺すと「わかってるよぉ」と唇を尖らせるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇


 私達は全員揃って昼食中である。


「亜美ちゃん、元気だね」

「うん。 体調は問題ないよ」

「こんなとこでもロボットなのね」

「人間だよ!」

「ははは、いつものやりとりだけど、尊く感じるね」


 遥ちゃんが笑い飛ばす。

 亜美ちゃんは「もう!」と、怒り顔になって、それを見た皆が笑い飛ばす。

 本当に良かった。


「皆、本当にごめんなさい。 せっかくの楽しい旅行を……」

「もう、謝ってばかりだね。 楽しい旅行なんだから、もう忘れようよ」

「そうよ」


 紗希ちゃんと奈々美ちゃんに言われて、亜美ちゃんも頷いた。

 

 私達は昼食を食べ終えると、スキーウェアに着替えて2日目のゲレンデに出るのだった。

 亜美ちゃんはスキー板を、遭難場所に置いて来てしまったらしいので、新たに借りるのかと思いきやスノーボードを借りていた。


「希望ちゃん達と一緒にスノボしようと思ってね」

「そっか! 近くにいてくれた方が安心だ」

「あはは、私もボードは出来るから一緒に教えてあげるよ」


 亜美ちゃんは、本当に何でもできちゃうんだよね。

 スノボも当然のように出来るんだ。


「亜美ちゃん、おせーて!」


 紗希ちゃんは、夕也くんから亜美ちゃんに乗り換えるようだ。

 私は夕也くんに教えてもらうもん。


「夕也くぅん。 今日も教えてー」

「お、おう。 って言っても基礎は教えたし、後は繰り返し滑るだけだと思うんだけどな」

「はぅー」


 まだまだ教えてもらいたいんだけど。


「じゃあ、一緒に滑ろうか」


 そ、それはそれでOKだ!

 良しそうと決まれば、早速一緒に滑るよぉ。


「初心者コースに行くぞ」

「うん」


 私は夕也くんと一緒に初心者コースへ向かう。

 いきなり初心者コースの上の方からではなく、中腹ぐらいから徐々に上に行くらしい。

 まずは、夕也くんがお手本の為に滑り降りる。


「ここまで降りてこーい!」

「はーい!!」


 昨日までに、教えてもらった事を思い出しながら、夕也くんの所まで滑り降りる。

 こけそうになりながらも、なんとか夕也くんの所まで行き、止まる。


「おう、凄いじゃねぇか。 完璧だぞ」

「えへへー、夕也くんの教え方が上手だからだよ」

「いや、希望の運動神経が良いからだ」


 またそんな事言う夕也くん。

 私ってそんなに運動神経良いのかなぁ? 皆に比べれば大したことないと思うんだけど。


「じゃあ、もうちょっと上から滑ってみるか?」

「うん」


 その後も、夕也くんと一緒に滑り続ける。

 途中から、亜美ちゃんに教わっていた紗希ちゃんも加わり、皆でスノボを楽しむ。


「ひゃっほー」

「紗希ちゃん上達早いぃ……」

「紗希は、運動神経おかしいからね……」


 紗希ちゃんは、亜美ちゃんから教わってあっという間にマスターしてしまった。

 亜美ちゃんも、凄く上手だ。

 柏原君は……こけまくっていた。

 彼はやっぱりの〇太君なのだろう。 運動神経はあまりよくは無いらしい。


「裕樹、ださーい」

「うるさいなぁ。 僕は君達みたいな超人じゃないんだよぉ」

「人間だよ!」


 亜美ちゃんは、反射的に反論している。 面白いなぁ。

 夕也くんと亜美ちゃんが、2人で柏原君にレクチャーを始める。

 私は、紗希ちゃんと2人で滑ることにした。


「柏原君って、運動苦手なの?」

「勉強に全振りしてたからね」

「近辺じゃ一番レベルの高い、虹学の生徒だもんね」

「そうそう」

「滑れるようになるといいよね」

「そだね」


 初心者コースの一番上に到着した。

 ここで紗希ちゃんが勝負を仕掛けてきた。


「どっちが先に下まで滑れるか、勝負だよ!」

「わ、私が勝てるわけないよぉ」


 さっきの紗希ちゃんの滑りを見たら、まず私なんかじゃ勝てないし。

 紗希ちゃんは、既にやる気になっているようだ。

 しょうがないなぁ。


「でも、やるからには頑張るよ!」

「よぉし、じゃあ、よーいスタートォー!」


 紗希ちゃんの合図でお互い滑降を始める。

 最初は並んでいたけど、やっぱり少しずつ差が開いてくる。

 紗希ちゃんの上達ぶりがやばいよぉ。

 頑張って追いかけるけど、全然追いつけない。


「はぅぅぅ」


 結局、さらに差は広がって、気が付いたら一番下に到着していた。

 私もだいぶ上達したのに、全然追いつけなかった。

 下に到着すると、亜美ちゃんが寄ってきて──。


「希望ちゃんもすごいじゃん! 初心者卒業だよ」

「本当?」

「うんうん! 次は私と滑ろうよ」

「うん!」


 今度は、亜美ちゃんと2人で上まで登り、一緒に滑った。

 亜美ちゃんの滑降はやっぱり凄かった。

 あっという間に先に行ったかと思うと、途中で私を待ってくれていて、そこからは私に合わせて滑ってくれるのだった。

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