第124話 皆との時間
☆亜美視点☆
夕方までスノボやスキーを楽しんだ私達は、ホテルに戻り夕食前の入浴をしている。
昨日は雪風呂に入浴しちゃってたけど、今日はちゃんと大浴場のお湯に浸かれる。
女子全員で、大浴場を堪能中である。
「亜美ちゃん、亜美ちゃん」
「どしたの、紗希ちゃん?」
「昨日一晩は、今井君と一緒だったんでしょ?」
何を聞かれるのか大体想像がつく。
多分──。
「夕也くんとえっちなことしなかった?」
「はぅっ!?」
希望ちゃんの、この反応まで予想済みである。
「してないよ。 さすがにそんな元気は無かったから」
「ほっ」
希望ちゃんが少し安心したような表情になる。
「ただ、その……体が凄く冷えちゃってね? 温めてもらう意味で一晩中抱き締めてはもらったけど」
「なるほど、そういう手もあるのね」
奈央ちゃんが何か言っている。 さては春くんに何か仕掛けるつもりなのではないだろうか?
わ、私は何も知らないからね。
「希望ちゃん、そろそろ本気で今井君を掴まえておかないと、マジで取られるよ」
「はぅ……が、頑張ってるんだけど、亜美ちゃん強いもん」
「ふふふー、もう夕ちゃんの心がっちり掴んだかもぉ」
「はぅ」
どんどん小さくなっていく希望ちゃん。
「あはは、嘘だよ。 夕ちゃん、まだまだ希望ちゃんが好きだよ」
と、フォローしてみたものの実際は、結構悩んでいるようだ。
私のアタックはかなり効いているのだと思う。
夕ちゃんはお正月にデートした時、「本当に今のままでいいのか」って言ってたっけ。
「でも、ちゃんと掴まえてないと本当にあっさり奪っちゃうよ?」
「うん……いや、でも亜美ちゃんに取られるなら仕方ないかなぁとか思っちゃう私もいて」
「あら、希望結構弱気ね?」
「弱気はダメだよー」
「う、うん……」
希望ちゃん……。
いやいや、私はもう退かないって決めたし、希望ちゃんと本気で向き合うって約束した。
私は全力だよ。 だから希望ちゃんも全力で来て。
◆◇◆◇◆◇
浴場から部屋に戻ってくると、夕ちゃんが窓際の椅子に座って、外をボーッと眺めていた。
何か考え事でもしているのだろうか。
私は希望ちゃんと顔を見合わせた後、夕ちゃんに声を掛ける。
「夕也くん?」
「ん? あぁ、戻って来たのか」
「うん」
「夕ちゃん、外を眺めてどうしたの? 何か考え事?」
夕ちゃんは「ちょっとな」と、話しを濁すように言った。
少し気にはなるけど、夕ちゃんが話さないならわざわざ言及することはしない。
希望ちゃんも同じなのか、それ以上は何も言わないようだ。
「夕飯までどうしよか?」
「さすがに、この辺は散歩したりするには不向きだしな」
「周り雪山とかだしね」
そうなんだよねぇ。
「少し3人でお話でもする?」
「そうだな」
「ね、そういえばさっき脱衣所で気付いたんだけど、亜美ちゃんネックレスは?」
希望ちゃんにそう訊かれる。 やっぱりわかっちゃうか。
「うんと、昨日遭難したときに握りしめてたんだけど」
「俺が小屋に運んでる最中に、どこかで落したらしい」
「ええ……亜美ちゃん凄く大事にしてたのに」
希望ちゃんが、服から同じネックレスを出して見つめる。
「でも、夕ちゃんが新しいの買ってくれるって」
「そっか! でもお揃いのあるかなぁ?」
「無いと困るよねぇ」
「……ええい、2人まとめて新しいの買ってやる!」
「え、良いの? 私も?」
「あぁ。 かまわん!」
夕ちゃんは太っ腹だなー。
希望ちゃんの分の新しいアクセサリーも買う約束をしてしまった。
「良かったね、希望ちゃん」
「うん」
「や、安いのにしてくれな?」
「あはは、うんうん」
夕ちゃんの財布の心配もしないとねぇ。 仕送りがあるとはいえ余裕があるわけではないもんね。
それにしても夕ちゃん、希望ちゃんには悩んでるところ見せないね。
不安にさせたくないんだろうか?
優しいね。
「そういえば、奈央ちゃんと春人くんどうなるんだろうね?」
「あの2人はわからん。 春人がまだそんな気分じゃなさそうだし」
「そうだよね。 春くんが日本にいる間になんとかなるのかな?」
「さぁな」
夕ちゃんは、そっちにはあまり興味が無いようだ。
私は、凄く興味があるよ。 あの奈央ちゃんが真剣に頑張ってるのだ、上手く行ってほしい。
それに、春くんにも幸せを見つけてほしいし。
「なんていうか、高校生になってから周囲の人間関係凄く変わったよね?」
「そだよねぇ。 私と夕也くんもだし、奈々美ちゃんと佐々木くん、それに私と亜美ちゃんも」
「そうだね」
「本当にそうだよな……去年の今頃はこんな風になってるなんて、思っても見なかったよ」
夕ちゃんは、遠い目をしてそう言った。
「そろそろ、夕食かな?」
私はスマホの時計を確認する。
18時20分。
そろそろ食堂に移動するといい時間だろう。
「んじゃ、行くか」
「うん」
「行こっ」
3人同時に立ち上がり、VIP用の食堂へ向かうために部屋を出る。
そう言えば、昨日の夕食はまともに食べれてなかったから、やっとご馳走にありつける。
楽しみだ。
◆◇◆◇◆◇
食堂には、奈央ちゃんと春くんが先に来ていた。
遠目に見ると……兄妹に見える。
どうしてだかカップルに見えないね。
「ありゃ兄妹だな」
「あ、夕ちゃんにもそう見える?」
「私にも見える」
何でだろう? やっぱり奈央ちゃんが小さいからかな?
「皆さん、こっちですわよー」
私達を見つけた奈央ちゃんが、手招きで呼んでいる。
「皆はまだ来てないんだね?」
「ですわね。 まあ、時間ですしもう来るでしょ」
「それにしても、亜美さんも夕也もタフというか……」
「そうだよね。 もうちょっとで命を失うところだったのに、1日でけろっとしてるんだもん」
それに関しては私自身もちょっと怖いね。
でも、夕ちゃんの話を聞くと、私が意識を失ってから夕ちゃんが私を発見するまでは、そんなに時間は経過していなかったんだろうと思う。
「ロボットだからね、この子はっ!」
後ろから、頭を軽く叩かれる。
そんな事言いながら、こんな事をするのは──。
「奈々ちゃん。 私は人間だよ」
「ここまで人間離れしてたら、怪しいもんよね」
いつものやりとりをしながら、私の隣に腰掛ける。
少し遅れて宏ちゃんが、その隣へ。
「そだ、昨晩は希望ちゃんが2人の部屋で泊まったんだよね?」
「1人だと寂しいって言うから」
「だってぇ……」
「あはは、今日は夕ちゃんと一緒だよ。 良かったね」
「亜美ちゃんもね」
まあ、夕ちゃんはソファーで寝るって言ってたし、3人だから変な事しようとはしないでしょ。
ん? いやいや待てよー? 良い事思い付いた。
「ごめーん! お待たせー! 裕樹がノロマだからー」
「引っ張るなー」
「騒がしいなぁ……」
と、賑やかにやって来たのは、紗希ちゃん、遥ちゃん、柏原君だ。
奈央ちゃんの、隣に紗希ちゃんが座り、他の2人も順番に座る。
紗希ちゃんのペアは、完全に紗希ちゃんが尻に敷いているようだ。
柏原君頑張れ。
「揃ったみたいだし、始めますか」
奈央ちゃんが、そう言って手をパンパンッと叩く。
すると、ホテルのシェフさんと思しき人達が、色々な料理を次から次へと運んできた。
見たことの無いような、大きなエビやらお魚やらが出て来る。
「す、すげぇな……」
宏ちゃんが目をキラキラさせて、その料理達を見つめている。
無理もない。 こんな豪華な料理は、家ではまず食べられない。
「では、いただきます」
「いただきます!」
皆、凄い勢いでがっついている。
テーブルマナーも何もあったものじゃない。
聞くところによると、昨晩は私の所為で、皆もまともな食事をしていなかったらしい。
も、申し訳なさすぎる。
「んむんむ……美味しい」
なんて言う料理かはわかんないけど美味しい。
どれもこれも絶品である。
お肉も口に入れただけで、とろけるような舌触り。
凄くお高いお肉なんだろう。
「夕也、いらねーなら寄越せ」
「誰がやるか」
「もうちょっと上品に食べられませんの?」
夕ちゃんと宏ちゃんは、特にひどい食べっぷりで、呆れた奈央ちゃんにダメ出しをされている。
「あむっ! んむっ! 裕樹、いらないなら頂戴!」
「紗希、はしたない」
あっちはあっちで、柏原君に怒られている。
賑やかな食事だよ、本当に。
春くんと奈央ちゃんはさすがに様になっている。
優雅だねぇ。
皆と、こうして過ごせることに幸せを感じる。
生きていてよかったと心から思うよ。
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