第97話 西條家誕生日パーティー

 ☆奈央視点☆

 

 翌日のバスケ部の試合も応援に行った私達バレー部1年。

 バスケ部は1日目の勢いそのままに勝ち進み、悲願の全国行きを決めた。


 それから9日が経過した──。


 そう、遂に来てしまった私の誕生日! 11月11日の月曜日である。

 

 部活を早目に切り上げさせてもらった私は、一足先に自宅へ帰ってきた。

 今、パーティーで着るドレスに着替えて自室で待機中だ。 今年は、バレーボール部1年の皆と今井君と佐々木君にも招待状を出している。 部活が終わるタイミングぐらいに、車を校門前に待たせておくのでそれで皆はやってくる筈だ。 ドレスコーデ必須なのだが、それもこちらで準備しているので問題ない。


 姿見の前で身だしなみチェックを行う。


「おかしくないわよね? うん、OK」


 本日の主役である私にふさわしい、綺麗で目立つワインレッドのパーティードレスだ。

 これで春人君と……むふふ。


 バスケ部の試合に応援に行った私は、普段は見られない春人君の表情に胸を撃ち抜かれてしまい、まさかの恋に落ちてしまったようなのだ。

 これが本気の恋なのかはわからないけれど。


「よし、そろそろ大広間へ行きますか」


 気合も入れて、パーティーの会場である大広間へ向かった。



 ◆◇◆◇◆◇



 大広間へやって来ると、すでにかなりの人数の来賓があるようだった。 テーブルに並んだ豪勢な料理やワインに舌鼓を打っているのが窺える。 

 主役が来る前に始めてしまうなんて失礼ね。

 中には政界のお偉いさんや、大物演歌歌手に女優俳優といった芸能人、スポーツ選手や、グループ会社のお偉いさん等が来ているようだ。 


「お嬢様、おめでとうございます」

「ありがとうございます。 今日はゆっくり楽しんでいってくださいね」


 こんな感じで、私に気付いた人達が順番に挨拶にやってくる。 私は余所行き用の笑顔で対応を続ける。

 はっきり言って面倒くさい。 いちいち挨拶なんかに来なくても良いっての。


「お嬢様、今日はお誕生日おめでとうございます」


 今度は後ろから声を掛けられる。 失礼な人……もう何人目かしらね? 

 と、思いつつもやはり作り笑顔で振り返り返事をする。


「はい、ありがとうござい──」


 振り向いた先にいたのは、タキシードを着て幾分大人っぽくなった春人君であった。

 もう会場に来てたのね。 他の皆も来ているんだろうか?


「春人君……も、もう意地悪をしないで下さい!」

「ははは、すいません」


 目の前にいる春人君はいつもの大人しくて優しい表情の春人君だ。 バスケットボールをしている時のようなかっこいい春人君ではない。 

 ──のだけど、ドキドキするー!

 あんな一面があると知ってしまったらもうダメよ……頭から離れないって!


「どうかしましたか?」

「何でもありませんわっ」

「そ、そうですか?」


 私は大きく頷いて、いつも通りを装おう。


「ところで皆さんは?」

「さすがにこの雰囲気に飲まれてしまっているようですね。 端っこの方に集まってますよ」


 やっぱり、皆にはこの場の雰囲気は無理だったかしら……悪いことしちゃったかもしれないわね。

 春人君の視線の先に目をやると、端っこの方に集まって料理を頬張る皆の姿を発見した。


「いきましょ?」

「いいんですか? 他のお客さんは?」

「いいのよ別に。 友達優先よ」


 私と春人君は、皆のいる場所へ向かっていく。 途中で何人かの人に挨拶をされて、適当に笑顔で頭を下げながら進む。


「あ、奈央」

「皆さん、来てくれてありがとうございます」


 スカートの裾を掴みお嬢様っぽく挨拶をしてみると、皆も慌てて同じように挨拶を返してくる。

 その光景がおかしくて、少し噴き出してしまう。


「ぷっ……あははは」

「あはは」


 皆もつられて笑う。 そうそう、こういうので良いのよ。 こんな堅苦しくて窮屈なパーティーなんかじゃなくて、気心知れた友人達と普通の誕生日会をできればそれでいいのに……。

 目の前の友人達は、それぞれのイメージに合ったカラーのドレスを着ている。 デザインは同じだが色が違うだけで見え方は違ってくるのは不思議なものだ。

 亜美ちゃんは、清楚な感じの水色、希望ちゃんは可愛いらしいピンク、奈々美はちょっと大人っぽい黒、紗希は落ち着いた感じの青紫、遥は……え?


「あなた、なんでタキシードなんて着てるの? 皆と同じデザインでオレンジのドレスがあったでしょ?」


 遥に似合うと思って用意したのに!


「いや、私にドレスは似合わないって……」

「ダメです! すぐに着替えてきてください」

「えぇ……」


 紗希に「ほら言ったじゃない」と説教をされながら、遥は着替えに戻った。


「まったく……」

「でも凄いよな……」


 タキシードを着た今井君が、周囲を見回しながら言葉を漏らした。 同じようにタキシードを着た佐々木君も「あそこにいるのアイドルのゆりりんだろ?」と目線をそっちに向ける。

 確かに今をときめくトップアイドルの姫百合凛ひめゆりりんである。


「ごめんなさいね、この雰囲気は皆にはちょっと息苦しかったかも……」

「ううん、呼んでくれて嬉しかったよ」

「ええ、私達は仲間内で楽しくやってるから、気にしないで」

「うんうん」


 亜美ちゃん、希望ちゃん、奈々美が笑顔でそう言ってくれて、少しだけ気分が楽になる。 本当に良い友人達だ。


「もう少し、お客様に挨拶してお父様とお母様に春人君を会わせたら戻ってきますね」

「うん、待ってるね」


 私と春人君は一旦皆と別れて、本日のメインイベントである恋人を親に紹介するという目的を達する為に動き出した。

 両親は既に、春人君と面識があり婚約破棄をされたことも当然既知である。 そんな春人君を恋人として紹介したら、果たしてどんな反応を示すだろうか?


「行きますわよ?」

「はい」


 私は一度深呼吸をし、覚悟を決めてお父様とお母様に声を掛けた。


「お待たせしました、お父様、お母様」


 お父様とお母様は、ちらっと春人君に視線を向けて目を丸くする。 やはり驚いている。


「君は……」

「ご無沙汰しております、北上家長男の春人です。 奈央さんとの急な婚約破棄の件、謝罪が遅れてしまい申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げる春人君。 それを見て、お父様が顔を上げるように促す。

 お父様はこの件に関して特に憤った様子は無く、むしろ「まだ幼かった2人を親の勝手で婚約させてしまってすまなかった」と謝った。


「それで、奈央。 今日はお前の選んだ男性を紹介してくれるはずではないのか?」

「は、はい」


 私はチラッと横目で春人君を見た後で彼を紹介した。


「私の恋人の北上春人さんです」


 その言葉を聞いた2人は、再度目を丸くして私と春人君を見つめる。

 さぁ、ここからである。 1ヶ月間疑似恋人として付き合ってきた私と春人君で、お父様とお母様をどこまで騙せるか……。

 

「……どういうことかね?」


 良く分からないと言ったような表情で、私と春人君に問いかけるお父様。

 春人君、任せたわよ?

 横目に春人君の様子を窺っていると、彼はゆっくりと話を始めた。

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