第84話 ミス&ミスター月ノ木

 ☆奈々美視点☆


 私も何だかんだでミス月ノ木に参戦しているわけだけど、亜美に勝てる気はしないわねぇ。

 参加者集合の放送を聞き、体育館にやってきた。

 他参加者も、やはりミスコンに出ようというだけあって、美男美女が揃っているわ。

 

「あ、奈々ちゃん」

「亜美、こっちこっち」


 遅れてやってきた亜美と合流した。 後から夕也と春人もやってきて、男女の列にわかれ、コンテストを運営している生徒会から説明を聞いている。


 全員同じ衣装を着て、順番にアピールしていくようだ。

 全員のアピールが終了した後は、生徒会側の審査員がまず各参加者に点数をつけていく。

 その後、体育館に来ているお客さんによる人気投票のポイントが加算され、合計ポイントが高い人の優勝という事になるらしいわ。


 今年のコンテスト衣装は男女共に浴衣らしい。

 一応、柄による差が出ない様に、どこの旅館にでもあるような模様の浴衣を使用するとの事。

 私達は浴衣を貰って更衣室でそれに着替え、控室となっている体育館の袖で待機することになった。


「緊張だねぇ、奈々ちゃん」

「あんたが優勝でしょ? 夕也と踊れるかどうかが問題よね?」

「いやいや、奈々ちゃんが優勝しちゃうかも」


 まぁ、本気でそう思ってるんでしょうけど……。

 お客さんの好みにもよりそうだから、あながち無いとは言い切れないわね。


「亜美、どんな浴衣着てもあんたって可愛いわねぇ」

「奈々ちゃんだって、どんな浴衣着ても綺麗じゃん」


 お互いに褒め合う流れは、この子と何かしら勝負する時に昔からやっていることなんだけど、やっぱり勝てたことは無い。

 今日は亜美と夕也が優勝しないと作戦失敗なんだけどね。


「しかし、他の参加者も軒並みハイレベルねぇ」

「だねぇ」


 まぁ、それでも亜美に勝てる程ではなさそうだけどね。

 男子の方はどうなのかしらねぇ? 夕也と春人……少し春人の方が女子受けしそうなのよね。

 もし、亜美と春人が優勝した場合、希望と夕也が下でダンスを踊ることになる。


「夕也が優勝するといいわね?」

「うん」


 そうこうしている内に、まずはミス月ノ木の方から開始するとのアナウンスが流れて、生徒会の挨拶から始まった。

 やがて、挨拶が終わりエントリーナンバー1番から順番にアピールをしていく。

 

「始まったわねぇ。 そういえば、亜美は何でアピールするのよ?」

「ふっふっふー、それは私の番が来てからのお楽しみだよー。 びっくりするよぉ」

「へぇ」

「奈々ちゃんは歌でしょ?」

「まぁね」


 まったく、何をやるつもりなのかしらこの子は。

 まぁ、楽しみにしておきましょうか。


「次はエントリーナンバー4番 1年生の藍沢奈々美さんです!」


 名前を呼ばれたので、私は舞台の方へ向かった。

 

「奈々ちゃんふぁいと―」


 私は亜美の応援に振り向いてポーズを取り舞台に上がる。



 ◆◇◆◇◆◇



 舞台に上がった私は、堂々と挨拶をする。


「月ノ木学園高等部1年! バレーボール部の藍沢奈々美です!」

「おぉぉぉ! 藍沢さーん!」

「奈々美ちゃーん!」


 舞台に上がると、主に男子からの歓声が上がる。

 夏の海でも似たようなことあったわね。


「今日は親友と一緒に参加していますが、彼女にはこういった競い事で過去に一度も勝てたことがありません! でも、今日こそは勝ちます!」


「頑張れ―! 応援してるわよー!」


 聞き知った声に応援される。 そっちを見ると紗希が手を振っている。

 私は手を振り返して、今日のアピールを開始する。


「今日は、自分の一番の武器だと思っている、歌とダンスで勝負します!」


 裏方さんにアイコンタクトで合図を送ると、イントロが聞こえてきた。

 最近流行のアイドルのヒット曲だ。

 こっそりとヒトカラで練習したのは内緒よ!


「おおおお! すげぇ」

「藍沢さんアイドルみたいー!」


 観客席が私の歌で沸いている。 いい感じね!

 私のテンションも上がってきて歌にもダンスにも力が入る。

 会場の盛り上がりが最高潮に達し、私は曲を歌い終える。


「はぁ……はぁ……皆ありがとー!」


 会場から大きな拍手が聞こえてくる。

 はぁ、やりきったー! やっぱ舞台で歌うのは気持ちいいわこれ。

 私は満足して舞台を降りる。


「奈々ちゃん、今日のは凄かったね!」

「ふふん、今日は特に調子良かったわ」

「私も負けてられないなぁー」


 亜美も気合いを入れ直したようだ。

 この後も、他参加者のアピールが続く。


「エントリーナンバー9番! 1年生の清水亜美さんです!」


 亜美が呼ばれた。

 一体どんなアピールをするのかしら。


「えぇと、1年生バレーボール部所属の清水亜美です!」

「姫―!」


 亜美は学園内の男子の間で「姫」と呼ばれているらしい。

 どうも、非公認のファンクラブがあるみたい。

 私のもあるって聞いたけど、一体何時何処でどんな活動しているのかは知らない。


「先程、凄いダンスと歌を披露してくれた奈々ちゃん……藍沢奈々美ちゃんの親友です! 奈々ちゃんに負けないように頑張ります!」


 亜美はそう言うと、一旦下がって袖の方から何かを持ち出してきた。

 あれは、ギター? あの子、ギターなんか弾けんの?


「清水亜美! ギターの弾き語りをします!」


 会場もざわついている。  亜美がギターというのは私でも見たことが無い。 というかイメージに合わない。

 おそらく、会場のお客さんもそうなのだろう。


 しかし、亜美の演奏と歌が始まるとその空気は一変した。 亜美の演奏は信じられないくらい上手かったのだ。

 歌も普段の声からは想像できないような、力強い歌声で会場を沸かせる。

 まさかこんな特技があったなんてねぇ。 親友の私でも知らないことはたくさんあるものだ。


 亜美は玉のような汗をかきながらも、激しい歌を歌い切り、会場の皆に感謝の言葉を述べて戻ってきた。


「ただいまぁ」

「あんた、あんな特技隠してたのね?」

「えへへー、びっくりしたでしょ?」

「えぇ、どこでギターなんてやってたのよ?」

「んー、中学生の頃にちょっとハマった時期があってこっそりと……恥ずかしいからバレないようにやってたんだよ」


 本当に全然気づかなかったわ。


「今日の為にどっかで練習したの?」

「うん、中学生の頃お世話になってたお店で」


 店ってライブハウスかしら? 中学生でも入れたりすんのかしら?


 女子の部のアピールが終わり採点が始まる。

 採点中は控室で待機。

 現在、観客による投票が終了して集計中のようだ。

 しばらく、駄弁りながら待っていると集計の結果が出たようで、3位から順番に呼ばれていく。


「まずは3位からです! 3位は2年生の鹿島美穂!」

「え、私!?」

 

 鹿島先輩は「ウソー?」と驚いた表情をしながら舞台へ上がり表彰台に上った。

 次は2位か……。


「1位と2位は激戦でした! その差2点差! 65点を獲得して2位になったのは! 藍沢奈々美さん!!」

「はぁ、やっぱり定位置なのねぇ」


 今回は行けると思ったんだけどなぁ。


「おめでと、奈々ちゃん!」

「はいはい、おめでと、亜美」

「私はまだ呼ばれてないよぉ」


 どうせこの後で呼ばれるわよ……。

 私は観客席に手を振りながら舞台へ上がり、表彰台に上がった。


「1位67点! 清水亜美さん!!」


 ほらねぇ。

 亜美は1位の台に乗って観客に手を振っている。

 やっぱ勝てないわねぇ。 悔しいったらないわ。



 ◆◇◆◇◆◇



 女子の部が終了し、制服に着替え直した私達は、観客席から男子の部を見ていた。

 流れは女子の部と同じ。 ミス月ノ木になった亜美と舞台で踊る権利を得るために、男子たちは必死である。

 夕也のアピールはバスケットボールを使ったパフォーマンス、春人はバイオリンの演奏というものだった。

 印象的にはやはり、春人の方が優勢な気がするが……。


 審査員による採点の後、観客による投票が始まる。

 私は亜美を後押しするので夕也に入れる。 当然亜美も夕也に入れていることだろう。


 採点の結果が出たようで、順番に呼ばれていく。

 3位は3年生の先輩。

 そして……。


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