第63話 夏祭り 奈々美・宏太side
☆奈々美視点☆
今日はこの夏休み最後のイベント、夏祭り。
私も今日はこの、赤い生地に黄色い花柄の可愛いらしい浴衣を着て、宏太と二人で回る予定だ。
駅前までは、亜美達と一緒に行動して、駅前に着いたら各自自由行動となっている。
私を含めた三人の浴衣美少女が歩いていると、道行く男共が一様に振り返る。
「奈々ちゃんの浴衣可愛い!」
「そうでしょ?」
「本当可愛いね!」
亜美と希望は目をキラキラさせながら絶賛してくれるけど、肝心の宏太からは何も無い。
でも、コイツはそういう奴だと知っているから別に構わない。
いつもの5人に、今はプラスで一人加わり六人で駅前の広場へ向かう。
駅前広場では、紗希とその彼氏、奈央、遥が先に来ていた。
亜美が春人に皆の紹介をし終えたところで、自由行動となりバラける。
◆◇◆◇◆◇
──駅前通り入り口──
「さて、夏祭り楽しむわよ!」
「へいへい」
「何よ、やる気ないわね? 彼女とデートなんだからもっとテンション上げなさいよ」
「お前なぁ、旅行から帰ってきて今日まで何回デートしたよ?」
私は指を折りながら回数を数えてみる。
「8回ね?」
「そうだ! あれからもう8回だぞ?」
「私としては毎日でも良かったんだけど?」
「バカかお前は!」
「バカにバカとは言われたくないわね」
「とにかく、そんな頻繁にデートなんてするもんじゃないだろ。 飽きちまうぞ?」
「え?! 飽きるの?!」
やばい! それはやばいわね。
倦怠期ってやつがすぐに来ちゃうやつ?
「わ、わかったわ! 今日のはデートじゃないって事で手を打ちましょう」
「デートに決まってんだろうが!」
そんなやり取りをしながら、同じく祭りを楽しむ人混みの中を歩いて行く。
「とりあえず何か食おうぜ? 何も食って来てないんだよ」
「そうねー。 あそこに焼そばの屋台あるし私はあれにするわ」
「俺もまず焼そばからだな!」
宏太と二人で人混みを掻き分けながら、焼そば屋台の前まで移動する。
「おっちゃん!焼そば二人前!」
「おぅ、佐々木の坊主と奈々美ちゃんかい!」
焼そば屋台をやってるおっちゃんは、よく利用する八百屋のおっちゃんだった。
額にねじり鉢巻をしながら、汗だくで焼そばを作っていた。
「何だ何だ、二人はそういう仲だったのか!?」
「え、えぇまあ」
「こいつが俺にベタ惚れでなぁ」
「な、何を!」
これがまた図星なのがムカつく!
「あいよ! サービスしといたぞ!」
「サンキューおっちゃん!」
「ありがと」
「おう! うちの八百屋をこれからもご贔屓に!」
にかっと笑みを浮かべながらそう言い、焼そばの入った容器を手渡して来た。
商売上手いわねぇ。
そのまま、焼そばを啜りながら色々な屋台を冷やかしていると、金魚すくいの店で、奈央と遥を見つけた。
せっかくなので声を掛ける。
「あれ、亜美と春人はどうしたのよ?」
近くを見回してみたが、いないようだ。
「何か良さげな雰囲気だったから、ワザとはぐれたフリをして二人にしてあげたのよ」
と、手に持った水風船をポヨンポヨンさせながら、金魚すくいには興味が無さそうな奈央が応える。
「良さげな雰囲気?」
「亜美ちゃんと春人が?」
「うん、なんか抱き合ってたわよ?」
亜美が春人と抱き合ってた? そんはずないでしょ……。
「ちと、想像つかねーな」
「ねー、遥も見たわよね?」
「あー、見た見た。 ありゃがっつり抱き締め合ってたね」
「はぁ……」
私は溜め息をついた。
何やってんのよあの子は。 見かけたら説教してやるわ。
「宏太、行きましょ」
「だな。 じゃあな、西條、蒼井」
「はーい、またねー」
「広場でなー」
◆◇◆◇◆◇
奈央、遥と別れて再び二人で行動を開始する。
少し歩くと、人混みの中でも際だった人集りが出来ている場所があった。
「さあー! 誰かチャンピオンに挑戦する者はいないかー! 腕相撲大会中だよー!」
腕相撲大会とかいうのが行われているらしい。
中央にはおそらく現在暫定チャンピオンなのであろう男性が、偉そうに踏ん反り立っている。
「奈々美、挑戦したらどうだ?」
「嫌よ」
あんなので目立ちたくないし。
「この子が挑戦します!」
「はあぁ?!」
私の言葉を無視して宏太が勝手に推薦しちゃったわよ!
周りのギャラリーも「あんな、細いねーちゃんがか?」「腕折られるぞ、やめときな」とか色々言ってくれちゃってる。
ナメられたものね。
「やったろうじゃないのよ!」
「男前かよ!」
ギャラリーは大半が私の味方に付いたようで、「ねーちゃん頑張れー!」とか「負けんなよー!」とか応援してくれている。
「お嬢ちゃん、可愛い顔してるけど、俺は手抜かないぞ?」
「良いわよ? むしろ、本気でやらないと後悔するわよ?」
私は相手の男性の手を握り準備OKの合図をレフェリーに出す。
「じゃあ行きますよ! レディー、ゴー!」
「ふんっ!」
開始の合図と共に全力で相手を倒しに行った。
「ぐおっ?!」
相手の男性は目を見開いて驚いている。
それもそのはず、何せ既に勝負は付いてしまっていたのだから。
倒された腕と私の顔を交互に見ながら、状況が理解できないというような表情をしている。
さっきまで沸いていたギャラリーも静まりかえっている。
「他愛もないわね」
「し、瞬殺だ……」
「あのねーちゃん、パネェ!」
それを皮切りに再びギャラリーが一斉に沸き出した。
だから嫌だったのよ……。
「じ、嬢ちゃん何者だ?」
「普通の女子高生ですが何か?」
私はそう言い放ってリングを後にした。
また伝説を作ってしまったわね。
◆◇◆◇◆◇
「ははは! さすがだなお前! ゴリラパワー炸裂!!」
「あぁ?」
私は宏太を睨み付ける?
宏太はビクッと体を硬直させて、冷や汗をダラダラと流している。
「はぁ……行きましょ」
「た、助かったぁ……」
私は宏太の手を取って歩き始める。 別に握り潰したりするわけじゃないわよ?
どうしてこう、私と宏太って甘い雰囲気とかにならないのかしら。
私だって本当は、もっと恋人っぽくイチャイチャしたいんだけど?
などと考えていると、宏太が立ち止まって口を開いた。
「奈々美、あそこでちょっと休憩しようぜ?」
「そうね。 こんだけ人が多いと歩くだけで疲れるわ」
私と宏太は、休憩用に設けられた長椅子に座って、小休憩することにした。
「何で俺達ってこうなんだろうな?」
「え?」
「いや、全然恋人同士っぽい雰囲気にならないだろ?」
「そうねぇ」
宏太も私と同じこと考えてたのね。
「私達って昔からこうじゃない? 自然体で良い気がするけど」
「そうっちゃそうだが」
「何なら、腕組んで歩いてみる? あそこのバカップルみたいに」
私が指差した先には人前でも気にせずイチャイチャしている紗希と彼氏君がいた。
「あれはやり過ぎだろ……」
「そうよねぇ」
さすがにあれは無理だわ。
視線の先には屋台の前でチュッチュッと頬キスを連発している紗希がいる。
良くやるわ。
「あそこまでじゃなくても良いけど、腕組んで歩くのは割とアリかもな」
「あら、良いの?」
「良いだろ、恋人同士なんだし」
何か知らないけどやった! 善は急げ。
私は即座に宏太の腕の関節を極めた。
「極めるなバカ!」
「つい癖で!?」
「俺はお前の玩具かよ!」
ううーっ、失敗したぁ。
腕を組んでも恋人っぽくなれないのかしら?
いやいや、諦めるな私! もう一度チャレンジよ!
「こ、こうかしら?」
緩く、宏太の腕に自分の腕を絡める。
「まぁ、これで良いんじゃないか?」
「う、うん」
ちょっとだけ、恋人っぽくなれた気がするわ。
宏太はそっぽ向いて鼻頭を掻いている。
あらら、照れてるのかしら?
「そ、そろそろ行くか? 花火の時間もうすぐだろ?」
「そうね」
私達はそのまま腕を組みながら、花火を見るために移動を開始した。
◆◇◆◇◆◇
駅前から離れた高台へ移動して来た私と宏太は、ベンチに腰掛けて花火が上がるのを待つ。
絶好のポジションなのに、私達以外の人はいない。
貸し切り状態だ。
ヒュー……ドンッ!
夏の夜空に色とりどりの花が咲き乱れ始めた。
きっと、皆もどこかで見てるのよね。
「綺麗……」
自然と言葉が出てくる。
毎年見ているけど、今年のは特別綺麗に見える。
きっと隣に愛する人がいるからね。
「あのさ、宏太……こんな私と付き合うって言ってくれてありがとう」
「ん? あぁ」
「ねぇ? ずっと、亜美の事を好きだったのにどうして?」
「そうだなぁ、亜美ちゃんの心の中に俺がいないってわかったからだな」
「あの子、今は夕也の事しか頭に無いものねぇ」
「不憫な子だよなあ、亜美ちゃんも」
「ただのバカよあれは」
自分の気持ちを優先できれば、今頃は誰よりも幸せになれていた筈なのに。
「私の事が好きだからってわけじゃないの?」
「好きだからに決まってるだろ?」
「へぇ、そうなの?」
「嫌いだったら、こんな風に一緒に花火見ながらイチャイチャしたりしねーよ」
「別にイチャイチャはしてなくない?」
ただ、ベンチに座って手を握りながら花火を見ているだけ。
「ほう、なら、もっとイチャつこうぜ?」
宏太は握った手を離して、私の肩を抱き、宏太の方へ引き寄せた。
「あ……」
宏太の肩に頭が乗るような形になる。
あー、恋人っぽい。
「これでどうだ?」
「ま、まだイチャイチャには足りないわねー」
私は宏太の肩から顔を上げて、宏太の頬にキスをした。
「こ、これでイチャついてるって言っても良いかしらね」
結構恥ずかしいわよこれ! 紗希は人前でよくできるわね。
「いーや、まだまだだな」
「ええ? そう?」
宏太が私の方を向いて軽く触るぐらいのキスをしてきた。
「こ、宏太……」
その後はもうめちゃくちゃイチャイチャしてやった!
◆◇◆◇◆◇
「人がいないからって、ちょっとやり過ぎたかしら?」
「そうだなぁ、神崎達のこと言えないな」
「確かに……」
空にはまだまだ花火が上がり続けている。
今、皆はどんな風にこの花火を見てるのかしらね?
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