第21話 東の月姫

 ☆亜美視点☆


 5月のメインとも言える行事の林間学校が終わり、6月に入った最初の週末。

 バレーボールの全高総体、インターハイの県予選が行われている。

 私達、月ノ木学園高等部女子バレー部は初日の一~三回戦を順調に勝ち上がっています。

 ここまで2、3年生の先輩も奮闘していて、いい感じの全員バレーが出来ている。

 明日は準決勝、決勝となっている。

 特に準決勝の相手は昨年の県優勝校でインターハイベスト16の強豪校の星峰女子だ。

 うちの県からは代表1校しかインターハイには進めない。

 あと二勝、なんとしても勝たないと。

 私達は会場近くの旅館を取っており、今日はここで泊まりだ。


「あ、もしもし夕ちゃん? うん、全部勝ったよ。 そっちはどうだった? そっか……うん、頑張るよ」


 夕ちゃんが、ちゃんとご飯を食べてるか心配になったのと、バスケ部の県予選の結果が気になったので連絡してみた。


 どうやら、うちにご飯を食べに行ったらしい。

 お母さんが心配して呼んだんだろう。

 バスケ部は残念ながら負けたみたい。

 夕ちゃんは明日の試合に応援に来てくれるらしい。

 希望ちゃんも喜ぶね。


「じゃあ、また明日ね、おやすみ」


 私は電話を切って部屋に戻った。


「お、亜美ちゃん、旦那への連絡終った?」

「だ、旦那じゃないよ……」

「あはは、そんな事よりお風呂行こうお風呂!」


 紗希ちゃんは元気一杯だ。

 今日あれだけブロックとスパイク跳んだのに凄いなぁ。

 紗希ちゃんは、うちのチームでは身長が高い方なので遥ちゃんと一緒にブロックの要も担っている。

 スパイクにも跳ぶし、ブロックでも跳ぶ。

 うちの点取り屋さんだ。


 私達1年生組は先輩たちに一言入れてから温泉に浸かりに来た。


「はぁー、生き返るわねー」

「奈々ちゃんババ臭いよぉ」

「誰がババアよ」


 奈々ちゃんに優しくチョップされる。


「明日は星女とかぁ。 1年レギュラーに佐伯さんいるんだっけ?」

「そうねぇ」


 佐伯さんは私達の同級生で、県内でも指折りの選手だった。

 強豪校で1年レギュラーを獲得する辺り、実力は本物だよねぇ。

 負けたことないけど。


「まあ、県内指折りじゃあねぇ」


 と遥ちゃんが言うと、紗希ちゃんが続ける。


「うちには全国三指が二人だからね。 希望も奈央もポジション別なら全国5強だし」


 改めて思うと凄いチームだと思う。

 去年まで全くの無名校だった月学だけど、今年の県大会はいきなり優勝候補に名前が挙がった。

 すでに、他の都道府県の学校から偵察も来ているようだった。


「とにかくあと2つ、なんとか勝ちましょう」

「おーっ」


 明日は最初から1年全員がスタメン予定だ。

 2、3年生の先輩たちは「私達が入ってもちょっとどうにもならなさそうだ」と悔しそうだった。

 先輩たちをインターハイに連れて行くためには全部倒さないとね。



 ◆◇◆◇◆◇



 翌朝、夕ちゃんが朝早くに様子を見に来てくれた。

 少し話をしたあと、先に会場に向かった。


 会場入りした私達はコートに入ってウォームアップ中。

 皆、調子良さそうだ。

 相手コートには星女の人達が来ている。


「清水さん!」


 相手コートから私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あ、佐伯さん、久しぶり!」

「久しぶりね。 昨日の三回戦観たわよ」

「あう、偵察済みですか……」

「今年こそ負けないからね」

「うちもだよ!」


 こういうライバル関係の人がいるって言うのはいいねぇ。

 弥生ちゃんとも全国で会いたいなぁ。

 と、まずはこの試合に集中だよ。

 決して舐めてかかっていい相手じゃないからね。

 なんか、準決勝からはネット中継もされてるらしい。

 どんな解説されてるか気になるなぁ。

 

 ラインズマンや主審が位置について、試合開始がコールされる。

 サービスはうちからだ。

 うちのビッグサーバー、遥ちゃんのサービスで試合が始まった。


「ナイサー遥!」


 いいサーブが相手コートに飛んで行き相手のレシーブを崩した。

 けど、これはボールが返ってきそうだ。

 相手のセッターが周りを見てトスを上げる。

 む、いきなり佐伯さん使ってきた!


「ブロック2枚ついて!」

「せーの!」


 私と紗希ちゃんでタイミングを合わせてブロックに飛ぶ。

 うん、高さ十分! これなら落とせる。

 私は佐伯さんのスパイクしたボールを手の平で下に叩き落とす。

 ブロック上手くいった。


「ふぅ、相変わらずブロック高……その身長でどんだけ跳ぶの?」

「あはは……」


 とりあえず褒められてるんだよねこれ?

 ポイント取ったから、まだ遥ちゃんのサーブが続く。

 今度は綺麗にレシーブが上がっている。

 また、佐伯さんかな?

 私は佐伯さんの前に立ちブロックの準備をする。

 紗希ちゃんはライト。

 ブロック一枚ずつかなぁ……。

 トスは紗希ちゃんのマークしている選手へと飛んで行った。

 間に合うかなぁ?

 私はすぐに走って紗希ちゃんの横に着く。


「せ-の!」


 むー、ちょっと遅れて間に合わないかな?


「ワンタッチ!」


 ブロック抜かれちゃった。

 けど、いいところにちゃんと希望ちゃんがいてくれるんだよね。


「希望ちゃん、ナイスレシーブ」

「奈央ちゃん!」


 ボールの落下ポイントに奈央ちゃんが入ってトスを上げる準備をする。


「小細工なしでいいですわよね?」


 チラッと私の方にアイコンタクトを送ってくる奈央ちゃん。

 任されたよ!

 奈央ちゃんのジャンピングトスが上がる。


「格の違いを見せて差し上げなさい」


 私は助走を取り大きくジャンプする。


「っ!」


 相手のブロックの上から強烈なスパイクを叩きこむ。


「ナイスぅ」

「亜美ちゃんさすがー」

「いやいや、奈央ちゃんのトスが完璧だから」


 円陣を組んで称え合う。


「いやぁ……相変わらずレベルが違うわありゃ」

「清水さん、また最高到達点高くなったんじゃないの?」


 相手コートで何か言ってるみたいだけど良く聞こえない。 

 遥ちゃんのサービス3回目は、ネットに阻まれる。


「ごめーん!」

「いいよいいよ!」


 サーブ権が星女に移る。

 

「一本で切るわよ!」


 奈々ちゃんは、良く声も出る。

 さすが、私達の世代のキャプテンだっただけはあるね。


 相手のサーブが飛んでくる。

 希望ちゃんに任せても大丈夫そうかな。


「はいっ!」


 綺麗なレシーブだ。

 さすが希望ちゃん。


 すかさず奈央ちゃんがセットに入る。

 私にマークが二人付いてるけど、奈央ちゃんは誰を使うんだろう。

 取り敢えず私は、いつでも跳べる様にしておく。


 奈央ちゃんのトスが上がる。

 これは私と見せかけた、紗希ちゃんへのトスだ!

 私はブロックを惑わす為に助走に入って跳ぶ。

 でも、トスは私の後方に上がっている。


「うちは、亜美ちゃんだけじゃないのよねっ!」


 紗希ちゃんの強烈なバックローアタックが決まる。


「はい、ズドーン!」


 そうそう、うちには心強いスパイカーがいるんだよねぇ。

 奈々ちゃんもそうだし。

 ローテーションで次は紗希ちゃんのサービス。

 紗希ちゃんも、遥ちゃんに負けず劣らずのビッグサーバーだ。

 でも、紗希ちゃんの武器はサーブの威力よりも、コントロールの方だ。

 紗希ちゃんのサーブが、相手のエースの守備範囲ギリギリを突く。

 しっかり、エースの体勢崩しているので、多分ここにトスは上がらないだろう。

 ブロック絞れるのは大きい。

 ただ、前に遥ちゃんも、紗希ちゃんもいないフォーメーションだから、私と奈々ちゃんで頑張ってとめないと。

 相手のトスは佐伯さんに上がっている。

 

「せーの!」


 二人でブロックに跳ぶ。

 佐伯さんがブロックを見て咄嗟にフェイントに切り替えてきた。

 上手い。

 私の手の上を越えるようなルーズボール。

 後ろを見ても、フォローが間に合いそうにない。

 

「届け!」


 私は咄嗟に足を伸ばして、レシーブを試みる。

 届いた!

 誰か拾ってー!


「ナイスよ、亜美ちゃん!」


 少し軌道が変わったボールに紗希ちゃんのダイビングレシーブが間に合う。

 ネット際の際どい所にボールが上がっている。

 このままだと相手の前衛に押し込まれる。

 私も紗希ちゃんも、まだ体勢が整ってないし、今跳べるのは奈々ちゃんだけかな?


「よいしょっと」


 奈々ちゃんが、何とか跳んでくれる。

 とは言っても、ブロックに跳んでいたので助走も何もないただのジャンプ。

 ボールもあまり高く上がってないから、スパイクは難しい。

 奈々ちゃんは相手コートの空いたスペースにプッシュスパイクで返す。

 

「落ちないかー?」


 相手のレシーブが間に合っている。

 返って来そうだ、今度は抜かせないよ!

 奈々ちゃんと一緒にブロックに跳ぶ。


「な、高過ぎでしょ?!」


 フェイントもはたき落とすつもりで、全力ジャンプした。

 結果的には奈々ちゃんのブロックポイントになったけど。


 試合は終始、私達の優勢で進む。

 ポイントは現在24-13、マッチポイントだ。

 

「亜美ちゃん! 決めて!」

「任されたよ!」

 

 私は最後に託されたトスを気持ち良く叩く。

 試合終了!


「はぁ、負けた負けた」

「お疲れ様でした! 佐伯さん!」

「本当疲れたわ。 県レベルで清水さん止められる選手はいなさそうねー」

「そんなことないよー。 私でも、うちのブロックは簡単に抜けないもん」

「嫌味ー?」

「あー、いやいや!」

「あっははは、次も頑張ってね?」

「うん、行くよインターハイ」


 私は、佐伯さんと握手を交わしてコートを後にした。

 その後の決勝戦も勝利して、インターハイへの切符を獲得。

 先輩達は泣いて喜んでいた。

 

 ◆◇◆◇◆◇


 我が家へ戻ってすぐに、私は弥生ちゃんに連絡した。


「あ、弥生ちゃんこんばんは。 今日勝ってインターハイ行き決めたよ! そっちは?」


 京都でも、府大会が行われていたはずだ。

 弥生ちゃんの学校はどうなったんだろ?


「そっか! じゃあ、会えるんだね! やった!」


 さすがは弥生ちゃん! 京都の強豪に入ったって聞いてたけど、1年レギュラーとして大活躍だったらしい。


「うん、じゃあ、インターハイでね? おやすみなさい」


 楽しみだなー、今年の全校総体は九州だっけ?

 8月が待ち遠しい。


 翌日のスポーツ新聞で、私達の記事が載っていた。

 県大会だよ?

 見出しには「東西の月姫 高校バレー初対決か?!」と書かれている。


「すげーよなー、お前」

「あーはは……」

「ところで、月姫ってなんだ?」



 色んな恥ずかしい名前付けられてるけど、これはまだマシな方だ。

 

「学校変わったらどうすんだ?」

「さあ? ちなみに弥生ちゃんは月島って苗字だかららしいよ?」


 聞いた話によると、私のあだ名に対して付けられた名前らしい。


「姫はやめて欲しいなぁ」

「まだ、いいじゃない?」


 夕ちゃんの前に座る奈々ちゃんが、振り向いて言う。


「何よ「ヴィーナス奈々」って! 恥ずかしいにもほどがあるわ!」


 確かにそれも恥ずかしいだろうなぁ。

 そのうち、希望ちゃんとか奈央ちゃんにも恥ずかしい名前付きそうだなぁ。


「あ、夕ちゃんはバスケ部残念だったね……」


 夕ちゃんと宏ちゃんは、土曜日に別会場で行われた県予選の2回戦で負けちゃったらしい。


「まあ、次があるからな。 亜美達は頑張れよ?」

「うんっ」


 6月の上旬。

 そろそろ梅雨入りの季節だ。

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