第19話 星の下で

 ☆亜美視点☆


 散歩から帰って来ると、奈々ちゃんと夕ちゃんが、男子側テントから出て来るところだった。

 奈々ちゃん、ちょっと目が赤い。

 もしかして夕ちゃんに襲われた?! 私は夕ちゃんをじーっと見つめた。

 夕ちゃんは、こっちに気付くと悪びれた様子も無く私達に「おう、おかえり」と、声を掛ける。

 二人でテントに篭って、何をしていたのか追求したけど「何もしてない」の一点張りだ。

 何も無いのに、奈々ちゃんが泣くわけないよ!


「奈々ちゃん、本当に何もなかった? 『さっきの礼は身体でしてもらおうか』とか言われて、襲われたんじゃ?」

「本当に何もなかったわよ、信じてあげなさい」


 奈々ちゃんがそういうなら、信じるしかない。

 でも、目が赤いのはやっぱり泣いたからじゃないの?

 奈々ちゃんは凄く強い女の子だし、あんまり泣いたりしてるところは見たことが無い。

 奈々ちゃんが私に話したくない事がある?

 宏ちゃんの事かな?

 今は皆いるし、この事は今は追及しない方が良さそう。


「散歩どうだったよ?」


 夕ちゃんが椅子に腰かけて訊いて来た。

 寝るって言ってたのに、普通に起きてるし。


「特に変わった物とかは無かったよ? 小さな川が流れてたぐらいで」

「そっか」

「夕ちゃん、寝てなかったんだ?」

「奈々美が退屈だって言うもんだから」

「悪かったわね!」


 うーん、なるほど……。

 意外と夕ちゃんは、奈々ちゃんがここに残るってわかっててわざと散歩に行かなかったのかも?

 優しい夕ちゃんだから有り得る。


「奈々美と二人だと何されるかわからなくて怖かったぜ。 皆と散歩行けばよかった」


 うん、本当に寝るつもりで、奈々ちゃんの事は何も考えてなかったみたい。


「皆、そろそろ時間だから材料貰いに行こ?」


 私は時計を確認した。

 確かにそろそろカレー作りの時間だ。

 六人でぞろぞろと、カレーの材料をもらいに行く。

 ニンジンはもらえなかった。


 ◆◇◆◇◆◇


「うちの班の女子は料理上手が固まってるから安心だよな」

「そうだな」


 そもそもカレーを作るのを失敗するってのが想像できないよ……。


「美味しいカレー作るから待っててね、夕也くん!」

「おう」

「お、俺は?」

「ニンジン」

「うっ……」


 私の冷たい一言で黙ってしまう宏ちゃん。

 登山前に皆から隠れた場所でほっぺにチューしてあげたのに。

 しばらく宏ちゃんには冷たくいくよ!


「ほら、男子はご飯炊く!」

「ういーす」


 夕ちゃんは飯盒炊爨大丈夫かな?

 失敗したりしないよね?


「お前は米研いでろよ、家事音痴」

「らじゃ!」


 おー! ナイス判断だよ宏ちゃん!

 いくら夕ちゃんでも、米研ぎぐらいはできるでしょ。

 私達は分担して作業をこなしていく。

 奈央ちゃんが料理してるとこは初めて見たけど、なるほど手際が良い。

 この子も何でもできるなぁ。

 私はテキパキと野菜を切っていく。


「米研げたか夕也?」

「っす!」


 ちらっと、男子の方を見る。

 うんうん、大丈夫そうだ。


「お前、火の番してろ この役立たずめ」

「しゃーす!」


 ちょっと夕ちゃんが可哀想だ。


「あーニンジンがほしかったなぁ」

「うぐ……亜美ちゃんあまり責めないでくれ」

「むぅー。 私のほっぺチュー返してよ」

「おう、宏太どういうことや? あん? ちと面貸せや。 あーん?」


 なんか夕ちゃんがどこかのヤンキーさんみたいなこと言ってるけど……。

 私が宏ちゃんにそういうことしたって聞いて怒ってる?

 やだ、嬉しい。


「夕ちゃん、そんなに怒らなくても……宏ちゃんは焚き木の代わりにすればいいよ」

「宏太、お前今から焚き木な。 役に立てて良かったじゃねーか」

「バカやってないで……」


 奈々ちゃんが呆れていた。

 特に大した問題も無く、カレー作りは進んでいる。

 後はカレールーを入れて完成というところまで来た。

 夕ちゃんは、お皿を持って来て待機している。

 気が早いよ。


「亜美、大盛りな!」

「人数分を均等にだよ」

「わ、私はそんなにいらないから、私の分を夕也くんに分けてあげる」


 希望ちゃんは少食だからなー。


「お、俺も大盛りで」

「佐々木君は白米抜きでいいですのよね?」

「ええ、ニンジンも貰えなかった奴なんて、それで十分よ」

「ま、まだ言うか。 な、なぁ、亜美ちゃん……?」


 助けを求めるような表情で私を見つめる。

 んー、私も冷たく行こうって決めたしねぇ。

 でもこの表情はズルいよ。


「し、知らないっ!」

「ガァン……」


 声付きで落ち込んでしまった。

 うーっ、ちょっと胸が痛むよぅ。

 私は胸を痛めながらも、カレールーを入れてかき混ぜる。

 各班からもカレーの良い匂いがしてきた。


「はーい出来たよー」


 我が班もカレーが完成したので皆に配っていく、希望ちゃんは少なめにして、その分を夕ちゃんに足して。

 宏ちゃんは白米抜きで。


「お、おい……・まじでこれなのか?」

「あはは、嘘だよ」


 私はちゃんと宏ちゃんのお皿にご飯をよそって上げた。

 いくら、冷たくって言ってもそんなことはしないよ。

 それはただのイジメだもんね。


「はい、宏ちゃん」

「あ、ありがとう」

「えへへ、私の愛情入りだよ」

「うおー!」


 これで元気になってくれるんだから安いもんだよね。

 こんなことしてるから宏ちゃんを勘違いさせちゃうのかなぁ?

 夕ちゃんの事言えないかもしれない。


「……」


 ん? 奈々ちゃんがこっちを見て何か言いたそうだけど……なんだろう?

 私が宏ちゃんと仲良くしてるのに嫉妬してる?

 だとしたら可愛いなぁ。


「わ、わわ、私の、あ、愛情も入って……」

「ど、どうした奈々美?」

「えーい、うっさーい!」


 顔を赤くして俯いてしまった奈々ちゃん。

 おー、珍しい!

 やっぱり夕ちゃんに宏ちゃんの事で何か相談したのかな?

 私じゃなくて夕ちゃんに相談したっていうのがちょっとジェラシーだけど、宏ちゃんの事なら私より夕ちゃんの方が適任だよね。

 私は宏ちゃんに告白された身だし。

 うーん、これは応援したくなる!


「どうしましたの奈々美? しおらしくなちゃって?」

「ベ、別に……」

「うふふ、可愛いですこと」

「なんか新鮮だよね、こんな奈々美ちゃん」


 皆にイジられている奈々ちゃん。

 紗希ちゃんがいたら、もっとヒートアップしてただろうなぁ。

 そう言えば向こうのクラスはどうだろう?

 楽しくできてるかなー?


「美味い美味い」

「そう?」

「さすがに我が班は優秀だなぁ」


 カレ―なんて誰が作っても同じな気はするけど……。

 うん、愛情入りだから美味しいって事にしておこう。


「希望ちゃんの愛情が入ってるからだねぇ」

「あ、亜美ちゃんっ?!」

「なるほどなるほど、美味いよ希望ちゃん」

「ゆ、夕也くん……」


 いいねいいね、希望ちゃん嬉しそう。

 二組のカップルを成立させようとするなんて、私って凄いね。


「亜美の愛情も入ってんだよな?」

「へっ? わ、私の愛情は夕ちゃんのには……」

「入ってないのか……」


 あ、落ち込んだ。

 もう、どうすればいいのこれ。

 仕方ないなもぅ!


「希望ちゃんの愛情の半分くらいは……入ってるかも?」

「そ、そうか……半分か……」


 んもぅ! それで十分でしょ!

 欲張りすぎだよ!


「亜美ちゃん、素直じゃないんだから」

「希望ちゃん……?」

「亜美ちゃんの愛情もたっぷりだよ、夕也くん」

「ちょっ!」

「なぁ、どっちなんだよ亜美?」

「……」


 最近は希望ちゃんも私に反撃してくるようになったなぁ……。

 向こうは向こうで、私と夕ちゃんをくっつけようとしてる?

 どうしてそんなことするかなぁ?

 もぅ、仕方ないなぁ……。


「た……たっぷり入ってるよ?」

「そか、サンキューな」


 夕ちゃんは微笑みながら頭をなでなでしてくる。

 うーなでなで嬉しい。


「亜美ちゃん、凄く幸せそうですわね」

「そ、そんなことは?!」


 顔に出てた?

 うー、恥ずかしいよぅ。


「で、実際のところ、2人はどこまで進んでるんです?」


 どこまでって……。

 私たち幼馴染だし。


「キスまでだな。 な?」

「な? って夕ちゃん!?」

「あらあら、意外と」


 夕ちゃんが皆にバラしちゃったよ!

 どうしてそう簡単にバタしちゃうかな!


「で、でも、お付き合いとかはしないよ!」

「はいはい」

「二回もしたぞ」

「ちょっと、夕ちゃん!?」

「え、それは初耳だよ、亜美ちゃん!」

「私もね。 一回目は夕也から聞いてるけど」

「おい、どういうことだ夕也! お前、俺が亜美ちゃんに告るって言った時そんなこと言ってなかったよなー」


 うわわわ、皆ヒートアップしちゃった……。

 夕ちゃん余計なこと言うからだよぅ。

 どうしよう。

 ちらっと夕ちゃんを見ると、夕ちゃんは何とも思ってないみたいだ。

 むぅ、私も堂々としてよう。

 別にお付き合いしてるわけじゃないし。


「そうだよ。 二回したよっ」

「え、いついつ?」

「この前の旅行で……その、観覧車の中で……」

「あー、あの時だ!」


 希望ちゃんは声を上げる。

 大体、希望ちゃんだってその時に夕ちゃんとしてるじゃん!

 とは、さすがに言えない。


「へぇ、亜美意外とガンガン行くのね」

「に、二回目は夕ちゃんからしてきたんだもん……」

「お前がしてほしいって……」

「それは違うー!」


 その後、皆からめちゃくちゃイジられた。

 もう顔が熱い。


 ◆◇◆◇◆◇


 食後は少し休憩してから、肝試し組と天体観測組に分かれる。

 奈々ちゃんは宏ちゃんを連れて肝試しへ向かった。

 これは良い傾向だ。

 残った私達四人は天体観測。

 天文部の数名が天体望遠鏡を持ち込んでいて、今それをセットしてくれていた。

 希望ちゃんと奈央ちゃんは、そのうちの一つに並んで順番待ちをしている。

 私は列に並ばず、ボーッと夜空を見上げている。


「よ、亜美は並ばないのか?」


 夕ちゃんが隣にやってきた。

 夕ちゃんこそ並ばないんだろうか?


「私は天体望遠鏡で見るより、こうやって星空見上げてる方が好きだから」

「この星空は街中じゃ見られないからなー」

「うん」 


 しばらく、二人で無言になり星空を見上げる。

 側から見れば、恋人同士にでも見えるかな?

 まあ、そう見られる分には別に構わないけれど。


「夕ちゃんは、望遠鏡覗かなくていいの?」

「この後で行くぞ? せっかくだから覗かないと勿体ないぞ?」


 うーん、確かにそれもそうだ。

 うん、よし、私も並ぼう。


「そうだね、夕ちゃん並ぼ?」

「あいよ」


 私達も希望ちゃん達が並ぶ列にお邪魔した。


「あ、亜美ちゃん、夕也くん」

「来ちゃった」


 私達に気付いた希望ちゃんが声を掛けてきた。

 希望ちゃんはもうすぐ順番が回って来るみたいで、終わったらそこら辺で待ってるらしい。


「遠目から見てたけど、良い雰囲気だったね?」

「どんな風に見えてた?」

「何年も付き合ってるような恋人同士かなぁ?」


 ふーん、そういう風に見えるんだ。

 何年も一緒にいるのは間違いないんだけど、恋人と幼馴染の違いかぁ。


「でも、希望ちゃんと夕ちゃんが並んで星を見てても、やっぱり同じように見られると思うよ?」

「そうかなぁ?」

「そうだよ」

「だと、いいけど」

「何の話だ?」

「別にー」

「女子の秘密の会話だよ」


 夕ちゃんは「あ、そう」と軽く流していた。


 ◆◇◆◇◆◇


 望遠鏡を覗き終えた私は、希望ちゃんと夕ちゃんの三人で、星を見ながら話をしている。


「ね、夕ちゃん」

「んー?」


 私は夕方の事がどうしても気になったので、聞いてみることにした。


「夕方、私達が散歩してる時なんだけど、奈々ちゃんに何か相談されたんじゃない?」

「そうなの夕也くん?」


 夕ちゃんは、しばらく黙って何か考えているようだったけど、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、宏太の事でな」


 やっぱりだ。

 泣いた後みたいに目が赤くなってたけど、どんな内容だったんだろう?

 聞いてもいいのかな?


「内容、聞いても?」

「俺からは何も言えないぞ。 あいつのプライバシーにも関わる」


 うん、やっぱりそうだよね。

 夕ちゃん、こういうとこはしっかりしてるよ。


「ただ、もう少し頑張るみたいだぜ」

「そうなんだ! 奈々美ちゃん、肝試しにも誘ったみたいだし何か進展あるかな?」


 希望ちゃんは目をキラキラ輝かせて興味津々だ。

 でも、確かに気になるなー。

 私の事を、本気で好きだって言ってくれた宏ちゃんが簡単に奈々ちゃんと上手くいくと、それはそれでショックだけど。

 でも、上手くいってほしいなぁ。

 あの二人は。

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