第25話 エリスの力

この街道は、いつもであれば王都とデボネアを繋ぐ要所の為、旅人は勿論の事、商人たちのキャラバンや旅芸人達が行き交う、とても賑やかな街道のはずだ。


しかし、今ここを通るのは殆どが冒険者達になっている。

そりゃそうだろう、だって今ここはスタンピードの危険性が高まっているのだから、わざわざ危険な道を通らずとも、遠回りだが安全な道を通るってもんだ。


今はそんな人通りが少なくなった街道を、俺達三人は道なりに進んでいる。

エリスに聞くと、魔力の力が段々強く感じてきているとのことなので、間違いなく近づいているのだろう。


「みんな、間違いなく大規模な戦闘をしていると思われる場所に近づいているから、各自周囲を警戒してくれ。そろそろ、ハグレ共が出てきてもおかしくないとからな!」


「了解だ!。ここまでくると、森の精霊たちも騒がしくなってきているようだ。殿は私に任せてくれ」


「頼むぞ、リオノーラ。エメルダー!、なにか感じるかー!?」


「ううん、まだ人もモンスターの気配も感じな・・・・あ、待って!。僅かだけど、生き物の気配がこの先から・・・だけど、人間なのかモンスターなのか今は分からない!」


「分かった!。エメルダ、戻ってこーい!。今は固まっていた方が安全かもしれない!」


斥候として少し前で警戒をしていたエメルダを呼び戻す。

そして、前衛を俺が担当し中衛にエメルダとエリス、そして殿にリオノーラと縦に長い隊列にして、慎重に歩みを進めた。


すると、どこからか爆発音の様な音がしてきているが、多分魔法だか魔術を使った時の衝撃音かもしれない。

それ程遠くなさそうだが・・・しかし、ここまで音が届くのだから、かなりの威力だろう。


「いいか、俺達はあくまで戦闘が目的じゃないから、危険だと思ったら撤退する。臆病と思われるかもしれないが、今の俺達じゃとてもじゃないが役に立てそうにない。ただ、逃げてきたモンスター達は俺達で出来る限り駆除していこうと思うが、どうだろう?」


「うん、それならあたし達の身の丈に合った戦い方だし良いんじゃない?、ふふ」


「そうだな、無茶をする者が冒険者じゃない、必ず戻ってくる者こそ冒険者なのだ。それに、臆病な者ほど状況判断が上手いしな」


「ふっ、リオノーラ・・・それ、名言だな」


「ふん、たまには私も良い事を言うのだぞ。見直したか?」


「ああ、そうだな」


流石にリオノーラだな、伊達に一番歳を食ってるわけじゃないか・・・


「アル・・・今、何か良からぬことを考えてるんじゃないか・・・?」


リオノーラは氷の様な瞳で、俺を睨んでくる。

危ない危ない・・・、なんでこういう時すぐに分かるんだ?。顔には出てないはずだが・・・これが、女の勘ってやつなのか?。これからは気を付けなきゃな。


「っと、こんな所で話し込んでる場合じゃないな!。さ!、気を引き締めて行こう!」


俺達は和んだ雰囲気をすぐさま切り変えて、警戒モードに引き上げた。

そして、それは直ぐに功を奏した。


大規模戦闘から逃れてきたのか、下位のモンスターがポツポツ見えだしてきたが、こちらにはまだ気付いていないようだ。それ程慌ててるのか・・・


ゴブリンぐらいなら、俺やエメルダでも倒せるぐらいにはなってきているので、エリスはリオノーラに任せて、近くまで逃げてきたゴブリン達を殲滅する。


エメルダはだいぶ動きが良くなって、俊敏な動きと隠形を併用して確実に屠っていく。

それを見ていた俺も発奮して、新しい刀を手に次々と切り伏せていく。


「すげーーな!、このかたなって奴は!。カミソリみたいにスッと切れてくわー!」


剣と違って細いし薄いから脆そうに見えるが、その実、鍔迫り合いをしてもヒビどころか欠ける事もない。ジョゼフ様が言っていた、ヒヒイなんたら?だったか、その素材が硬いんだろうな・・・。


さて、散発のモンスター達は大体終わったようだし、一旦お互いの状態を確認してから、再度みんなにこれからの確認を取ってみる。


「エメルダはどうする?。まだ進むか?」


「あたしは構わないよ~。まだまだ体力的にも余裕があるし~」


と、討伐したモンスターの部位を剥ぎながら答えた。

リオノーラもほぼ変わらない返答だった。エリスは何を考えてるか分からないが、概ね肯定のようだ。


それじゃ、再び進むか・・・と、その時


ドォォォォォォォォォォォーーーーーン・・・・・


一際大きい爆発が起こったのだ。さっきの衝撃音とは違い、爆発・・・ここから近い場所で大きな火柱が上がったのだ。ここから肉眼でも確認できた。


「うお!?、ビックリしたーーーーーーー!」


「た、確かに・・・今のは大きかったですね~・・・」


「今のは多分、火と雷属性の合わさった爆炎雷ファイヤボルト系の上位魔術辺りだと思うのです!」


「どんな魔術だったか分かるのか?」


「はい!、魔術であれば大体分かるのです!。これでも、Dランクの魔術師なのです!」


エリスは、意外と膨らみがある胸を張って自慢げに言った。

Dランクか・・・ん?、Dランク!?


「エ、エリスはDランクだったのか!?」


「あれ?今頃気づいたのですか?、アルさん」


「いや、気付いたというか言われなかったしな・・・ってか、エリスのキャラが強すぎて、聞くの忘れてたわ・・・」


「そういえば、聞かれなかったのです。そういう事なのです・・・」


「でも、そいつは心強いな!。性格や言動はまあアレだが、意外と頼れそうだな」


「・・・今、さりげなくディスられた気がするです・・・が、確かに私は皆さんよりランクが上なので色々と詳しいのです!。勿論、魔術にも!!。どんどん頼って欲しいんですの!」


エリスはそう言ってくれるが、しかし今あそこに近づくのは得策じゃないよな、どう考えてもさ・・・。

絶対足手纏いになるし、今までとは比べ物にならない程の強いモンスターがいるだろうし。


本物の戦いを見てみたくてここまで来たけど、あれ程の魔法を放つ戦闘だとな・・・

下手に近づいて巻き添え食らったら、たまったもんじゃない。


「これ以上進むと、俺達もタダじゃすまなくなるよな~どう考えても・・・」


「・・・ですね、あたし達とはランクも強さもケタ違いの人達ですから~」


「ああ、間違いなくA~Bランクの冒険者パーティがいるだろうなと呼ばれる様なパーティも来てるかもしれないな」


「だな。きっと彼らならこのスタンピードを止められるだろうよ」


「戻るか・・・」


俺は急に意気消沈し、みんなに確認を取ってから街へ戻る事にし、街道を戻り始めた。あんなのを見せつけられちゃ、気落ちもするさ・・・


ただ俺の我儘で、ここまでみんなを連れてきてしまった事を少し悔やんでいたら、俺の気持ちを察したかのようにリオノーラが話しかけてきた。


「気にするな、アル。このパーティのリーダーはお前なんだ。なら、これからも自信を持って指揮を取ってくれ。私達はお前に、どこまでも付いて行くぞ」


「ありがとう。頑張ってみるよ」


リオノーラの励ましに、俺は力なく笑って見せた。


「あぶない!!【大地の障壁アースウォール】!!!」


いきなり、俺のすぐ後ろにいたエリスが叫び、俺達が後ろを振り向くと同時に、目の前の地面が盛り上がり土の壁が出来ていた。

最初、何が起きたのか全く分からなかった。しかし、エリスを見ると土の壁の向こうを睨みつけている。


「今、魔法攻撃を受けたんですの!。皆さん、気を付けて下さい!!」


「何!?、全く気が付かながったぞ!!」


「魔法による遠距離攻撃ですの!。多分、炎の矢ファイヤアロー辺りだと思うのですが、遠くからだったので防ぐことが出来たのです!」


「私の気配察知では感知できなかったから、結構遠いかも・・・でも、危険ね」


俺達は土の壁に隠れて、敵の気配や様子を窺う。が、今は辺りには何も感じない。

じゃあ、さっきの攻撃をした者は俺達を追ってきているわけじゃないのか?

とにかく、今はここから離れた方がいいだろう・・・。


「エリス、攻撃してきた方向は分かるか?」


「はい、炎の矢が飛んできた方向が見えたので、大体分かるです!」


「よし!、じゃあ魔法でそっちの方向に何か魔法を打てるか?。別に威力が無くても良いから、派手なヤツを!」


「あるにはありますが、多分もうそこには居ないと思いますが・・・」


「分かってる。あくまで脅しで仕掛けるだけだ。こっちには強い魔術師がいるぞ!っていうね。で、それを放った後は即時撤退だ!」


「なるほど、分かったのです!。じゃあ、打ちますよ~!」


そう言うと、エリスはローブの中から小さな木の枝の様なものを取り出して、呪文を詠唱し始める。

俺はとっさに彼女の前に動いて、彼女を庇う態勢になる。詠唱時に攻撃されることを避けるためだ。


「我が力の根源たる魔力により ここに大河の如き龍の姿を顕現せよ! 【水龍の雄叫びドラゴニックロア!】」


その瞬間、目の前の土壁が大地に還り、代わりに目の前の空間に水で出来た龍の様なものが現れて、その口がクワッと開いたと思ったら、そこから物凄い勢いで水のブレスを吐き出した。


いや、もうどう表現していいのか分からない程、俺は呆気に取られてしまった。

まさしく、目が点になるってこういうことを言うのだな・・・


水龍から吐き出されたブレスは、街道沿いの森の木々をなぎ倒して道を作ってしまった。

い、いや、派手なのをお願いって言ったけど・・・これはやり過ぎだろ?。


驚きのあまり、撤退するのを忘れてしまった。

エリスって、もしかして凄い人だったりするのか・・・?

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