第23話 刀という剣
「え!?、おい、まさかこれを・・・?」
手に持っていた一振りの剣を、侍女達は俺の目の前に差し出した。
その剣は、少し反りがある艶消し黒の鞘に金の細工が最低限されているもので、装飾品というよりは実用に向いていそうな感じだ。
驚きのあまり俺の眼は、剣とフィオナを行ったり来たりしていた。そのフィオナは、何も言わずに笑みをたたえるだけである。
「あ、あのフィオナさん?、まさかプレゼントってこれ・・・なのか?」
「その通りよ。これを貴方に受け取って欲しいの」
「いや・・・いやいやいや・・・・・、いくらなんでも、これは受け取れないでしょう~!」
「アルなら、そういうと思ったわ。でもね、お願いだから受け取って!。これは私達からの気持ちでもあるのよ?」
「・・・・・・いや、しかし・・・」
「アルさん、ここは受け取っちゃいえばいいじゃないですか~!」
「そうだな、アル。でないと、ジョゼフ様とフィオナ様の好意を無にすることになるんだぞ?」
「エメルダ達はそう簡単に言うけどさぁ~・・・、やっぱ俺には勿体無いというか・・・宝の持ち腐れだよ」
「そんな事無いわ。これを使うことで、貴方に降りかかる危険が少しでも減るのなら、私達にとってこれ程嬉しい事は無いのよ」
「フィオナ・・・」
「ジョゼフ様もラインハルト様も、貴方を気に入ってくれてるの。それは、私にとってもこの上なく嬉しい事なのよ。だからお願い・・・私の大切な幼馴染のアルに受け取って欲しいの」
「・・・・・・・分かった。この剣はありがたく受け取らせてもらうよ。ありがとう。あとでジョゼフ様とラインハルト様にもお礼を言っておくよ」
「フフ、良かった・・・。あ、その剣は
「で、では・・・」
俺はそう言って、侍女達が俺の前に持ってきた刀を受け取った。見た目は先程見た通りに黒色の鞘と柄で、派手さは全くない。
そして、この刀というものは両刃の直剣と違い、一方向に緩やかな反りが見てとれる。最初の印象は、少し変わった剣だと思った。
早く見てみたいと思った俺は、鞘からゆっくり抜いてみる。最初、少しの抵抗があったそれは、とても美しい片刃の剣・・・いや、刀だった。
素人の俺が見ても、一目で業物だと分かる。
重さは俺が持っていたショートソードより多少軽く、特に違和感は無い。
長さは、三尺三寸と言っていたが・・・およそ1メートルぐらいでショートソートよりも長いが軽い為、取り回しは以前のショートソードよりも良さそうだ。
「こ、こんな良い業物を俺が貰っても良いのだろうか・・・?」
「もうー!、さっきから良いって言ってるじゃないー!」
フィオナはプーっと頬を膨らませながらも、肯定してきた。
俺はこの刀が一目で気に入ってしまった。そして子供が新しいおもちゃを買って貰った時の様な、ワクワクした気持ちになってしまう。
「フィオナ、直ぐにでもジョゼフ様にもお礼を言いたいので、会うことは出来るだろうか?。また、ここまでして頂いたシェラード辺境伯爵様にもお礼を言いたいのだが」
「ジョゼフ様なら自室にいるかも・・・。ただ、辺境伯爵様・・・お義父様は、今隣国に出向いているので、今はご不在なのよ」
「そうなのか、ではジョゼフ様だけにでも御礼を・・・あ、ちょっと待っててくれ。直ぐに着替えるから!」
そういうと、フィオナの侍女達は部屋から退室したが、彼女はここに居るのがさも当たり前のような顔をして、こっちを見ている。
「あの・・・、こっちを見ていられると着替えづらいんだが・・・?」
「はぁ!?、昔は二人で平気で着替えてたじゃない?。ってか、今更・・・?」
「あの時はまだ貴族じゃなかっただろ?。それに今とは歳も立場が違うし、俺らも大人になってきて・・・な?、分かるだろ?」
「全っっっ然!分かんないわ!。待ってるんだから、早く着替えなさいよ!」
「そうよそうよ!、早く着替えちゃってよ、アルさん!!」
「そうだな、フィオナ様を待たせるの良くない。男として最低だぞ!」
「おい・・・、お前達も頬を赤くして何こっちを凝視してるんだ・・・??」
「「「ジーーーーーーーーーーーーーー・・・」」」
仕方ないから着替えるが、フィオナ・・・お前だけは見てちゃダメだろう。
ま、気にするな。俺は今履いている下着を脱いで・・・後ろでキャーとかハァハァとか聞こえる気がするが、敢えて無視して新しい下着に履き替え、用意されていた服へ着替え終えた。
俺は先程の部屋着の様なものから、外に出てもおかしくない装いになっている。
これも、こちらで用意して貰ったものだ。もう、至れり尽くせりで・・・流石は貴族様だ。
俺はエメルダ達を引き連れて、フィオナ様の後をついていく。
部屋から出れば誰が見てるか分からないので、フィオナ様と呼んでいる。
そして、しばらく歩くとある部屋の前に通された。そしてフィオナ様がノックをする。
「ジョゼフ様、こちらにおられますか?」
「フィオナかな?。開いてるから、入っておいで」
「はい、ありがとうございます。では・・・今、アルさん達をお連れしました」
フィオナ様はまずドアを開け一言挨拶をし、俺達が居る旨を話す。
入室を許可されたので、俺達も緊張しながら入って行く。
「ジョゼフ様、改めて御礼を言わせていただきます。この度は、助けて頂きありがとうございました」
「いえ、こちらこそ貴方の力になれて、嬉しく思っていますよ」
「そして、この剣・・・刀まで頂いてしまって・・・。あの、本当によろしかったのでしょうか?」
「はい、勿論ですよ。気に入っていただけましたか?」
「は、はい!!、勿論です!」
「それは良かった。あの刀は東方から来られた貴族の方から贈られた品なのです。しかし、私達が携える儀礼的なものを兼ねる剣と違って、装備しずらいので宝物庫にずっとしまわれていた物なのです。だから、折角ならアルさんに使ってもらおうと・・・」
「そうだったんですか。あの・・・それでは、ありがたく使わせていただきます」
「その刀には希少なヒヒイロカネという硬い素材が使えれているとか・・・。殆ど刃こぼれしないと伺ってます。頂いてから一度も使っていないので、本当かどうかわかりませんが・・・」
「そ、そうなんですか?。本当に凄そうなものですね~。本当にありがとうございます!」
俺はそういって、何度もお辞儀をする。
この人になら素直に頭を下げることが出来る、そういう人は初めてだ。
「それはそうと、この街の近いところで
「ええ、勿論知っております。この街に危機が迫っているので、私達も今それに頭を悩ませているのです。実は父が不在なのは、隣国に支援をお願いをしに向かっているのです」
「そして、私達の挙式も延期になってしまっているのです・・・」
「ええ・・・?ジョゼフ様とフィオナ様、可哀そう・・・」
「アル、私達もこのスタンピードを早く終わらせてお二方に、早く結婚式を挙げさせてやろうではないか」
「そ、それは俺もそう思うが・・・しかし、俺の力じゃとても・・・」
「アルさん!!、何弱気になってるんですか!?。このお二方の落胆ぶりを見て、男として何も感じないのですか!」
「だから~~、力が無いから今回みたいになったんだろ・・・?」
「大丈夫!、あたし達なら出来ますよ!。アルさんは新しい武器を手に入れましたし!」
「いやいや、新しい武器を手に入れたって、使うのが俺じゃ・・・。せめて、あと一人ぐらいパーティにいてくれればなぁ」
「一人ですか・・・、私に思い当たる人がいるのですが・・・」
「え!、本当ですか!?。あ、でもうちらみたいな弱小パーティでは、入ってくれないでしょうけど・・・」
「いえ、そんな事無いと思いますよ。彼女はソロの冒険者なのですが、よくパーティに入りたいと言っていますよ。あ、ちなみに魔術師ですが大丈夫ですか?」
「魔術師ですか!?、あの、もし入って頂けるならとても助かります!」
「・・・アルさん、まさかとは思いますが女性だから入れたい、とか思ってないですよね?」
「やはり、アルはハーレム好きだったのか・・・」
「わーーーーわーーーーわーーーーわーーーー!!。お前等、ジョゼフ様の前で何てこと言ってるんだ!!」
「だって~~~~~」「す、すまん、だがしかし・・・」
二人はゴニョゴニョ何を言ってるが、敢えて無視をする。
「そんな訳ないだろ!。うちのパーティは前から、魔法を使える人が足りないと思っていたんだって!」
「あははは、皆さん仲良くて楽しそうですね」
「あ、すみません、騒がしてしまって・・・お恥ずかしい。あの、俺は決してハーレムを作りたいとかじゃないので・・・」
俺は赤くなって、頭をポリポリと掻いた。
しかし本当に魔術師がいてくれたら、リオノーラが前衛で中衛がエメルダ、そして魔術師が後衛、俺は前衛と中衛を担当できる。
バランスが今より良くなりそうだ。
一時的にでも良いから、仲間になってくれないだろうか・・・?
「ジョゼフ様、申し訳ありませんが、その方をご紹介頂けないでしょうか?」
「分かりました。近いうちにそちらに伺わせる様に、話をしておきましょう」
「あ、ありがとうございます。このスタンピードの間だけでも構いませんので!」
よし!、上手くいけば段々パーティらしくなってきそうだ!。
そして、俺達は翌日シェラード家を後にした。ジョゼフ様達はもっと居て構わないと引き留めてくれたのだが、さすがに何日も逗留するわけにもいかないし、宿代も勿体ないし。俺は貧乏性なのよね・・・
そして、宿に戻って2日後にその人はやってきた・・・
「頼もーーーーーーーーーなのです!!!」
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