第8話 黒ローブの正体

ギルドを出た二人は装備品を確認して、念の為、足りない下級ポーション等を購入してから、いよいよ街を後にした。



キノコ類と薬草類は植生が違うため、いつも行く場所ではなく普段あまり行かない場所に行くことにした。

薬草類は比較的日差しが入る明るい場所に生えるが、今回採取するキノコ類はジメジメした暗い場所に生えやすいためだ。


二人は背丈まであるような下草が生える場所をかき分けながら、エメルダを先頭に進む。彼女は一応盗賊シーフなので斥候としても活躍して貰えそうだし、シーフ技能である相手の気配を察知することが出来るそうだ。


こんな場所では敵が来てもすぐには分からない為、彼女の力が重要になってくる。


「どう・・・?、なにか感じる?」


「いえ、今のところ近くには誰もいないようです」


「そっか・・・、目的の場所はもう直ぐだから頑張って!」


「はい!、頑張ります!」


彼女は、こちらをチラッと振り向いて笑顔を作った。

自分が頼られてるのが、嬉しいのかもしれない。


今回のマヒ茸とカエン茸だが、マヒ茸はそのままでシビレ薬に使われる。これは、主に狩猟や捕獲依頼などに重宝される。カエン茸は、乾燥させて粉にすると刺激臭を出すため、目くらましなど撤退や逃走などの護身用に使われたりもする。


      


暫くすると、少し開けた場所に出た。

しかし、相変わらず薄暗い場所だ。しかし、間違いなくこの場所にあるのは直ぐに分かった。


「この少し刺激のある匂い、間違いなくココにあるよ」


「確かに、少し鼻が痛いですね・・・。これなら、他のモンスタ―は近づきづらいですね」


「そうなんだ。ゴブリンとかにも効くけど特にオークは鼻が良いから、ここにはまず近づかないよ」


「オークは、今の私達じゃ~さすがに手に負えませんからね」


「そうだね~、ランクE~Dぐらいになれば戦えるんだろうけどね・・・」


「まだまだ先ですね~」


二人は話をしながらも、周りを見渡しながらキノコの採取を始めた。

手には手袋をしている。これを直に持ったら手が荒れたり、最悪ヤケドのような症状が出る。


順調に採取していた二人だが、その時エメルダが鋭い声を発した。


「アルさん!、何かがこっちに近づいてきます!」


とっさにアルは手に持っていたキノコを捨てて、近くにあった大木の後ろに隠れて自分のショートソードに手を掛ける。

エメルダもアルの後ろに隠れながら、ダガーを握りしめ息を潜めている。


『相手はモンスターか?。数は?』


『分かりません・・・。ですが、殺気は感じられません。今のところ、一人・・・もしくは1匹です』


二人はお互いだけに聞こえる程度の声で、囁きあった。

しかし、こんな所に来る者などそうそう居ないだろうと思っていたのだが。


もし強盗や盗賊なら、今の俺達では太刀打ちできないだろう。

今はエメルダがいう、”敵は一人で敵意が無い”というのを信じるしかない・・・


ガサッ・・・


目線の先で下草が揺れ、何者かが現れた。

黒いローブを頭から被り、顔は全く分からない。


俺達は、木の陰に隠れ息を殺して気配を消す努力をした。

後ろにいるエメルダは、俺の背中に手を置いているが僅かに震えている。怖いのだろう・・・


俺だって怖い。相手は明らかに俺より強いだろう。

冒険者だろうか・・・?、盗賊には思えない。何故かというと、自分でも分からないが相手は女ではないか?と思ったからだ。


女の盗賊がいないわけではないが、かなり珍しいし男の仲間も見えない。

しかし、こいつは何の目的でここに来たんだ?。まさか、俺達と同じ採取を・・・?違うな、雰囲気が俺達と全く違う。


こいつは、危ない・・・危険な感じがする。絶対近づいちゃいけない、と俺の中の何かが警報を鳴らしている。

それは、エメルダも同じだったんだろう。だから震えが来ているのだ・・・


ヤツは、さっきから動こうとしていない。

その場に立って、こちらの方を見ている・・・気がする。顔は見えないが間違いなくこちらに気が付いてる。


なのに、何のアクションも起こしてこない。もしかしたら、上手く逃げられるかもしれない、そんな想像を起こさせる。


『どうする?、アイツの前に出て俺達に何の用件なのかを聞くか、それとも、このまま後ろに下がって逃げるか』


『・・・・・一つ、案があります。私が注意を引くの『却下だ!』・・・え?、しかし・・・』


『しかしも案山子も無い。リーダーの俺が駄目と言ったら駄目だ。アイツは強いよ。俺みたいやつでも、アイツの強さが分かる』


『多分、逃げられませんね』


『ああ、間違いなくな。なら、このまま大人しくしていよう。もしかしたら、可能性は低いがこのまま立ち去るかもしれない』


「おい!、いつまで隠れている!。私はお前達に危害を加えるつもりは無い。だから、そこから出てきて話を聞いてほしい」


相手は、俺達の囁きが聞こえていたのか絶妙なタイミングで声を掛けてきた。

その声は、女性の声だ。しかも、雰囲気が女騎士の様な凛とした良く通る声なのだ。


俺達は気を許したわけではないが、このままでは埒が明かないので俺達は大木の陰から姿を現した。しかし勿論、抜剣したままである。


「あんたは、何者だ?。何故、ここまでやってきた?」


「私の事か?。私の名はリオノーラ、しがない冒険者だ。ここに来たのは、お前達に頼みたいことがあったからだ」


「俺達に、頼み事?。あんたが知ってるか知らないか分からんが、俺達はランクFの最底辺だ。そんな俺らに頼み事なんて考えられない!。少なくとも、あんたは俺達よりもかなり強い。頼み事をしたいなら、もっと強いパーティに頼んだ方がいい」


「それも考えて色々探していたが、そんな時にお前達を見かけたのだ。ところで、一つ確認したいことがあるのだが・・・、お前は亜人に何か特別な感情はあるか?」


「その問いに答える前に、俺はお前ではない。俺はアル、彼女はエメルダだ。で、さっきの問いだが俺には亜人だろうと獣人だろうと、別に特別な感情は無い!」


「やはりな、それを聞いて安心したよ」


そう言って、その女は自分か被っていた黒いローブを脱いだ。

その姿を見て、俺は少し驚いた。彼女の肌は浅黒く、耳は少し尖っているのでダークエルフだろうか?。そして髪は美しい白銀色で腰近くまで伸ばしていた。


体はスレンダーでいて、しかしメリハリがある体つき。胸は・・・殆どのエルフがそうであるように、慎ましい。そして何と言っても目を引いたのが、その美しいとしか形容できない顔だった。


エルフは神に創造つくられし人々、と形容されるが、まさにそれを実感する容姿だった。


俺は、ポーッと見とれていると、誰かに袖を引かれた。

エメルダが、頬をプク~~っと膨らませて、こっちをジト目で睨んでいた。


「なに、見とれているんですか!」


「み、見とれていたわけじゃないよ・・・」


「ふん!だ。胸の大きさなら、私が勝ってます!!」


どうも、リオノーラに対抗しているようだ。お前はエルフじゃないんだから、張り合う基準が違うだろ!と思ったが、声には出さなかった。


「なるほど、確かにダークエルフは忌み子として扱われたりするね。で、俺のとこに来たのか」


「そうよ、貴方はその獣人の子を自分と対等に接していた。他のパーティなら奴隷のような扱われ方をされてもおかしくないのに・・・」


「俺はそんな事をするつもりは無い!。みな同じ人族だ、差別や偏見がある方がおかしいんだ。エメルダやあんた達から見れば、人間だって亜人だろう?」


「私もそう感じたのよ。だから少し貴方を観察させてもらった。もしかしたら、人がいないとこでは虐待でもしてるのだはないかと・・・」


「俺は合格したのか?」


「そうね、試験したわけじゃないけど、でも貴方は誰へも優しく接していた。例え亜人であろうとも」


「そうか・・・。で、頼み事とは?」


「私を貴方達のパーティに入れて欲しい。どうだろうか?」


「逆に俺達でいいのか?。さっきも言ったが、俺達は最底辺ランクだ。今も採取依頼をしているし、強くないぞ?」


「ああ、構わない。討伐物なら私が代わりにやる。私はランクCだ」


そういって、ギルドカードを見せてきた。このカードは、冒険者登録をした際に渡されるもので、偽造が出来ない魔術式が掛けられている。

そして、ギルドカードにはランク毎に色がついており、次の方になっている。


ランクF  白色

ランクE  黄色

ランクD  青色

ランクC  赤銅色

ランクB  銀色

ランクA  金色


俺達は、白色だ。

リオノーラは、確かに赤銅色のカードになっている。


「間違いない、ランクCだ!」


「すっご~~~い!」


「もう一度言うがホントに良いんだな? 俺達みたいなパーティで」


「貴方達のとこがいいのよ」


「分かった。リーダー権限で、リオノーラをメンバーとして迎え入れるよ。リオノーラが入ってくれれば、俺も心強い!」


「ありがとう、アル!。これから、よろしくお願いするわね。一緒に頑張りましょう!」


リオノーラがそう微笑むと、右手を出してきた。

俺たちも彼女の手を強く握ったのだ

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