第3話 酒場にて
今はまだ、黄昏時には少し早い時間帯・・・
ギルドを飛び出した俺は、人が行き交う街をある店目指して歩いていく。
ここは、この
この中を男の俺が一人で入るのか・・・?む、無理だ。
周りからの無言のプレッシャーに押しつぶされる、間違いなく・・・
い、いや、しかしこれを乗り越えなければ、いつまでもこのままだぞ!、そう心を決めて入店する。
「「「いらっしゃいませ―――!」」」
「ど、ども・・・」
店員が自分に向かって、一斉に声を張り上げた。
だが、幸いな事に店員に付きまとわれることなく、店内の商品を見て回ることができた。
な、なんだ、意外と平気じゃないか・・・
俺は、フィオナが好きな花を模したブローチがあるのを見つけて、値段を見た。
銀貨1枚銅貨5枚か、手頃だし見た目も可愛いし、コレにしようかな。
「じゃあこれ、お願いします」
「ありがとうございます。もしよろしければ、プレゼント用にお包みしますか?」
「あ、はい、お願いします」
「彼女さんへのプレゼントですか~・・・・ウラヤマシイデスネ」
ん?、店員の目からハイライトが消えてた気がするが・・・大丈夫か?
ま、いいか!と包装して貰ったプレゼントを持って、店を出た。
「「「ありがとうございました―――!」」」
その後、時間も早かったので一旦宿に戻って着替えてから、待ち合わせ場所に向かった。
少し早いが、そこは男。やはり女性を待たせるのは良くないよな~と、いくら女性への耐性がないとしても、これぐらいの気遣いは出来るのだ。
まもなく、シーナさんが小走りでやってきた。
その姿を見て、俺は言葉を失った。いつもギルドの制服と違い、今は私服なのか白のブラウスに薄ピンクのスカート姿になっている。か、可憐だ・・・
「お待たせしました!。遅くなってなってすみません」
「い、いえ、俺も今来たところなので・・・」
「そうですか、間に合って良かったです!」
「では、どこに行きます?。何処か行きたいところありますか?」
「ふふ、本当は男性にエスコートして欲しかったのですが、今回は私が強引にお願いしたので、私が時々行くお店でいいでしょうか?」
「あー、もう全然構いません!」
「では、行きましょう~」
俺はシーナさんと並んで、店に向かいながら通りを並んで歩いた。
こんな所を他のギルドの連中に見られたら、その内、後ろから刺されるな・・・。
だが、幸いな事に日も落ちており、薄暗い街中では顔も注意しないと分からない明るさだ。
これなら、おいそれと見つかる事はないか。
何の根拠もない自信で不安を押し込め、二人は店の前に到着した。
「ここなんですよ。安いし美味しいし清潔で、何より女性に優しいお店なんです」
なるほど、店内を見てみると小綺麗で明るい。そして客の半分近くが女性なのだ。
これなら酔客に女性が絡まれる事も少なそうだし、一番はギルドの男連中に合う確率が少ないと思った。
「このお店、良いですね~。シーナさん達もここなら安心して飲めそうですね」
「ええ、そうなんです。ギルドで飲む人達も良い人多いんですが、やはり酔うと絡まれるので・・・」
確かに、ギルド内の酒場はそういうトラブルを起こす冒険者もいる。
あまりトラブルを頻繁に起こす者は、出入り禁止や冒険者登録抹消になったりするので、皆もそこのところは気を付けているみたいだ。
「では、座りましょうか。アルカディア様」
「はい、そうですね。ここにしますか。あ、それと・・・」
アルは近くの席について座ると同時に、シーナに伝えた。
「あの、その呼び方は止めてもらえますか・・・?。それと、今は様付けもしなくていいですよー」
なるべく、嫌な言い方にならないよう気を付けて注意を促した。
シーナは少し狼狽して、
「す、すみません。嫌でしたか?」
「はい、その名前は居無くなった両親がつけた名前なので・・・」
アルの両親は、まだ自分が小さい頃に二人で村を出て行ったのだ。
どういう理由でアルを見捨てたのか、知る者は誰もいない。
ある日突然、まだ小さいアルを残して姿を消した。アルは、それが許せないのだ。だから、アルカディアと呼ばれるのを嫌う。
かといって、別の名前にするにしても既に村には知れ渡っていたので、いきなり全く違う名前にするのも・・・と考えた。それに両親を嫌ってはいても、心の何処かには多少の愛情が残っていたのかもしれない。それで、"アル"と呼んでもらうことにしたのだ。
「分かりました。では、アルさんと呼ばせて貰いますね。それとも、アル君が良い?。ふふ」
シーナは何か事情があると察し、敢えて何も問わずにアルの要求を素直に受け取った。
そして、自分がアルと少し距離を縮められたと感じ嬉しくなり、ちょっとイジワルな言い方をして微笑んだ。
「す、好きな呼び方でいいです!」
顔を赤くして、アルは答える。
(あぁ、やっぱシーナさん笑うと可愛いな)
心の中で、そうつぶやくアルであった。
それから、二人はお酒と料理を頼んだ後、お互いに世間話などをポツポツと話し出した。
「でもシーナさん、俺みたいなのと飲みにきて良かったんですか?。ほら、俺はランクFですし・・・。それに、ギルド職員ってあまり冒険者の人と関わること無いように思ってたから―――」
「そんな事ないわよ?。まあ確かに少ないと思うけど、私達だって人間だしこの人良いな~と思ったら、声掛けたりするよ?。それに、ランクの事なんか気にする必要無いわ」
この世界は、冒険者にはランクが必ず付くようになっている。
上から順に、
ランクA>ランクB>ランクC>ランクD>ランクE>ランクF
となっており、アルは一番下のランクFである。
アルが冒険者になったのは16歳だが、早い者だと同じに始めてもランクEぐらいになっている者もいる。アルが普通よりも遅いのは確かだが、かといって冒険者全体で見ると遅すぎる訳でもないらしい。
「そ、そうだったんですか。俺が知らないだけだったんですね。勉強になります」
「ふふ、そうですよ。勉強になりましたね~。では、授業料はここのお会計で~・・・」
「ええー!、マジですか!?。でも、まあ構わないですけど・・・」
「あー、ウソウソ!。ここはお姉さんが払っておくから心配しないで!」
俺が財布を覗くのを見て、慌ててフォローしてくれた。
確かにかなり厳しいが割り勘であれば、自分の分ぐらいは負担出来そうだったので、そう言ってみると、
「ここは私に払わせてね」
「し、しかし・・・」
「う~ん・・・そうだ!。じゃあ、次二人で飲みに行く時は、アル君にお願いしても良い?」
「はい!、その時は任せて下さい!」
俺は思わぬ約束を取り付けられて、心の中でガッツポーズを取った。
そんな事をしてる間に酒と料理が運ばれてきたので、この後二人は乾杯をして料理に舌鼓を打ったのだった。
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