A Scene
床町宇梨穂
A Scene
助手席に乗った彼女は急に黙り込んでしまった。
「どうしたの黙っちゃって?」
「別に・・・。」
冷たい返事しか返ってこない。
僕が何か彼女に言ってしまったのだろうか?
いや、そんなはずはない。
映画の話をしていただけだ。
まさか、僕がトム・クルーズの方がブラッド・ピットよりいい男だと思うって言ったのが気に入らないのか?
そんな事で急に不機嫌になるような子じゃない筈だ。
いったいなんなんだろう。
もう10分も黙ったままだ。
さっき信号が黄色だったのに行ってしまったから?
僕が煙草を吸い過ぎるから?
カーステから流れるシンディー・ローパーが嫌いなのか?
全く理由が分からない僕は助手席の彼女の方を見た。
彼女の足元になぜか煙草の吸殻が落ちている。
それも口紅付き。
ヤバイ・・・。
やられた・・・。
わざと吸殻を足元に落としていったらしい・・・。
僕の思考能力がフル回転する。
「ねぇ、もしその煙草の事疑ってるなら勘違いだよ」
「どう勘違いなのよ!」
やっぱりそれを気にしていたらしい・・・。
「会社の女の子が銀行に行く用があってちょうど通り道だから僕が乗せていってあげて、その子煙草を吸うんだけど会社じゃ上司の目とかあるから吸えないでしょ、そんで車の中で吸ったんだって!」
「ふ~ん・・・。」
まだいまいち信用してないみたいだ・・・。
「良く考えてみろよ、今時そんなピンクの口紅してるのなんてうちの会社の事務の子しかいないって!」
「まあね・・・」
お、ちょっと信用しかけてる。
「だから、君が疑うような事は全然ないって!」
「ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって・・・。」
ふ~、信じてもらえたみたいだ。
「浮気なんかする訳ないだろう!」
ちょっと自己嫌悪。
「まあ、信じてあげるわ」
良かった、完璧な嘘をついた。
自分でも上出来だ。
レストランについてから彼女が言った。
「あの吸殻の口紅ピンクじゃなくて赤だったよ・・・。」
え???うそ~???
「何で動揺するのよ・・・・・・馬鹿!」
A Scene 床町宇梨穂 @tokomachiuriho
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます