第26-2話『遊ばない』

 ふと白ウサギの言葉が頭の中を過ぎった。


『道草したらいけないよ』


 目眩がする程生温い心地良さを感じ、僕は嫌な予感がした。駄目だ、流されちゃいけない。


「や……やめろ!! 僕に触るな!!」


 僕は更に伸びてきた手を荒々しく振り解き、その場から逃げ出した。後ろから何かがついてくる気配を感じる。ぴったりと、僕の背中にくっ付いているような……


「振り向いちゃ……立ち止まっちゃ駄目だ」


 僕に注がれる誘惑の言葉の数々を耳に入れるまいと全力で走った。ただ前だけを見て、赤い扉を求めて。


「あった……!」


 この空間の中一際目立つ赤い扉。僕は雪崩れ込むように扉の内へ飛び込んだ。


「ハァッ……ハァッ……」


 呼吸を整える為に扉を背にずるずるとへたり込む。この部屋は……見覚えがある。女王の鏡の部屋だ。


「僕は……戻ってきたのか」


 僕は理解していた。この不思議な冒険はもうすぐ終わりを迎えるのだと。そして僕自身も……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る