第25話

 屋上の奥へ行っただけなのにいつの間にか知らない場所を走っていた。様々な色がぐにゃぐにゃと混じり合う不思議な空間。気でも狂ってしまいそうなそんな空間で僕はひたすらに白ウサギを追いかけた。白ウサギは一切振り返らずに駆けていく。


「ちょっ……そろそろ休ませろ……ッ!」


 運動不足が祟ってすぐに呼吸が乱れてきた。鏡の国に行ってから本当に走ってばかりだ。すると突然ぴたりと白ウサギが足を止めた。


「……この先の赤い扉を開ければもう少しだよ。 後は自分の力で進むんだ」

「だから何の話……」

「君の運命を決めるのさ。 さぁ……行きなよ。 道草したらいけないよ」


 僕の後ろへ回った白ウサギがポンと僕の背中を押す。僕は瞬間的に前のめりに数歩足を出す。


「宇佐美先ぱ……」


 振り返るとそこにはもう白ウサギ……宇佐美詩愛の姿はなかった。僕は暫く黙ってその場に立ち尽くして彼女がいたはずの場所を見つめていた。そして、空虚へ深々と一礼をし僕は再び前へと歩みを進める。僕の運命を決める……赤い扉の先にきっと契りの鏡があるんだ。


「まだ見えないけど……このまま真っ直ぐ進めばいいのか?」


 少し先の方で何やら楽しげな笑い声とゆらゆら揺れる白い影がいくつか蠢いていた。


「……子ども?」


 小さい子どものようなもやがかった白い影達が僕に気付き近付いてきた。


「アリスだ! アリスだ!」

「遊ぼう!」

「一緒に遊ぼ!」


 白い影達が僕の周りを取り囲み、手を引っ張ったりうろちょろしたりしている。僕は突然の事に戸惑っていた。


「ま……待て! 僕はそれどころじゃ……」

「遊ぼ遊ぼ!」

「楽しいよ!」


 影達は聞く耳を持たなさそうだ。どうしたものか……


choice


『一緒に遊ぶ』→ep.26-1

『遊ばない』→ep.26-2

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る