銀のナイフとアリスの鍵
seras
第1話 プロローグ
酷く、耳障りな音達。気持ちの悪い視線。いくら耳を塞ごうとも、瞼を閉じようとも、それらはまるで空気となって僕の体内へ侵入し、ぐちゃぐちゃに混ざり合う。吐き気がする。息が出来なくなっていく。この世界は、僕にとって酷く息苦しい。紅い日の光が僕に影を落とし、闇を生む。
さようならくそったれな世界。お前らのみっともない駒になんてなるもんか、ざまあみろ。僕は錆び付いた柵からゆっくりと手を離し一歩前へ足を踏み出した。
数時間前
次は体育だ。僕は着替えようと机の横にかけていた体操服入れに手をかけた。が、あるはずのものが無かった。嫌な汗が噴き出す。まさか……
辺りを見回す。とそこに青い掃除用バケツの隣に僕の袋らしきものが落ちていた。中にはジャージは入っていないようだ。代わりにバケツの中から汚れた布が見えていた。バケツを覗き込んだ。ジャージが切り刻まれて泥水でびしょびしょになっている。微かにくすくす笑いが聞こえる。この前は靴を隠された。その前は教科書に油性ペンで落書きされたりびりびりに破かれていた。お弁当の中身を捨てられたり虫を入れられる事も多い。でもこれくらいならまだマシな方。毎度毎度よく飽きないものだ。だけど、相手をするだけ無駄、あいつらは僕がどんな反応を示したって手を叩いて喜ぶだけなんだ。僕はいつものように後片付けをした。
下らない1日はもうすぐ終わる。チャイムが鳴ると同時に僕は早々と教室を出た。
「やあ! 待っていたよ!」
よりによってめんどくさい人物に捕まった。カチューシャについた白いリボンをひょこひょこ揺らしながら駆け寄ってきた女の子。この子は宇佐美 詩愛(うさみ しいな)。僕より1つ上の先輩にあたる。
「今日こそは演劇部にきてくれるよね~?」
この人は1週間前からずっと僕に付き纏い、演劇部に誘おうとしている。理由は僕の声だそうだ。演劇部は部員数が少なく、辛うじて部活として成り立っているのでどうしても人が欲しいのだろう。だけど演劇部なんて目立つようなものに入る気なんかさらさらないし、面倒臭いので断り続けている。
「絶対楽しいって! 見学だけでいいから遊びに来なよ! ねっ?」
僕の肩に触れようと伸ばしてきた手を払い除ける。
「これから用事があるので」
「……そ、そっか! また誘いにくるから!」
次なんて一生ない。もう二度と会う事はない。そう、僕はこの世界から消える事にしたんだ。
だから……僕は屋上から飛び降りた。
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