仲直りまであと5分

つきの

栞の気持ち

 ケンカしたかった訳じゃないのに……。


 しおりは一人で勉強机に頬杖をついて、そう思いながら、まだ怒っていた。

「文くんが鈍感すぎるんだもん」

 声に出して呟く。


 幼なじみの文哉ふみやとは、ずっと仲の良い友達だったけど、いつの間にかお互いに意識し合うようになり……。

 彼氏、彼女として付き合いだしたのは、つい1ヶ月ほど前のこと。


 幼なじみの友達なら、普通に流してしまえることでも、恋人同士になれば違ってくる。


 文哉は穏やかで優しいけれど、反面、優柔不断だったり、女のコの気持ちに疎いところがある。

 そして……意外にも意地っ張りなのだ。


 文哉はわかってないと思っているようだけど、機嫌が悪くなった時には無口になるし、LINEの文面では、いつも最後につけている笑顔の顔文字が無くなる。


 ケンカをしたことがなかったわけではないけど、恋人同士になってからのケンカは初めてで、何だかこれまでとは勝手が違う。


 原因は1ヶ月記念日のことだ。


 栞は特別記念日好きと言うわけじゃないし、だから、文哉が1ヶ月記念日のことを言い出してくれなくても、それはそれで自分から話してみるつもりだった(確かに、ちょっぴり寂しくはあるけど)


 そこまではいい。

 だけど、学校からの帰り道に何気なく話をしたら、不思議そうな顔で

「そんなのまで記念日にしなきゃいけないわけ?」

 は、さすがに無神経過ぎない?


 それでもめげずに

「別に、特別なことしたいとかじゃないけど、ちょっとしたプレゼント交換とか、さ」

 って、言ったのに……。


「うーん、それはいいけど、僕、どんな物がいいのかわからないよ。栞ちゃんに任せるから、何か選んでみてから教えて」

 は、無いんじゃない?


 ムッとした栞が

「二人のことなのに、あたしに丸投げなんだ……」

 と、言うと

「別に丸投げなんてしてないだろ。わかんないから、教えてって言ってるだけだし…─」

 と、そこからは無口になってしまった。


 別れて家に帰りついてからのLINEでも、やっぱり反応が良くない。

 文章って不思議に気持ちが無意識に出てくる。


 普通に会話しているようで、文哉の文面からは苛立ちが滲み出ている。


 栞は自分はワガママな方じゃないと思う。

 ほんの小さな、そう、記念日の印が欲しかっただけだし、ひと言「一緒に選んでみようね」と言って貰えたら良かっただけなのに。


 それなのに、なんで彼は変に機嫌を悪くしちゃうんだろうと思う。

 腹を立てていたはずなのに、栞は何だか泣きたくなってきてしまった。


 ぽとり、と机に一粒涙が落ちる。


 LINEの文面の冷たさに悲しくなる。


「文くんには、どうでもいい事なの?」

「あたしのことなんて簡単に考えてるの?」


「文くんの……バカ……」

「こんなことなら、友達のまんまでいた方が良かったのかなぁ……」


 栞はスマホの画面を見つめたまま、ボンヤリと考えつづけるのだった。




>>>『文哉の気持ち』に続く

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