第53話 魔術はご内密に

 王都の中の限られた空間というのは、やはり情報が伝達するのが早いのか。


 朝方、窓を開けるとスッと青い小鳥が飛んできた。

 ジェリスの小鳥と似てるなぁ、なんて思っていたら、リオの肩にちょこんと止まった。


「ちょっと!!リオちゃん!イマール伯爵の所へ行くんですってーー?!なんてこと!あそこはね、牛の名産地でイマール牛っていう牛!知ってる?!その牛はエールを飲ませてるから贅沢な肉となって、それで作るハンバーグが美味しくって、ってそんな事を思ったら、もうそろそろハンバーグ祭が…」

 と、ジェリスの声で耳元で叫ばれ、朝っぱらからひっくり返るほど驚く事となった。


 えー!伝令って、こんな風にリアルな声で吹き込まれる感じなの?

 ボイスレコーダー的なー?!それにしても…一体、どんなテンションで吹き込んだのよ。


 たった昨日よ。昨日、そーかなぁ?どーしよーかなー?なんて話していたのに、閉鎖空間恐るべし。

 その情報が瞬く間に網羅するところ、まるで社宅のようだわ。


 ひとしきり鳥がジェリスの声で「ワーワー」何かを言った後、飛んで行った。

 ごめんね、ジェリスの声が衝撃的過ぎて、ハンバーグがどうのこうので、内容覚えてないよう。


 身支度をして、個研へ向かう。

 

 着くとすでにマイヤー、シャイン、リンク、ルーカス、リンカが揃っていた。

「リオちゃんは、1週間後、イマール伯爵家に行くことことになります」

 そのことはマイヤーから告げられた。

 シャインを除いても反応が薄いという事は、みんな何処かしらから話や事情を聞いていたのだろう。


 沈黙が重く、リオは何か挨拶すべきかどうか考えたが、結局、何も言えずに目を伏せていた。


「リオちゃんが将来、ここに戻って来るために行くんだから」

 口火を切ったのはシャイン。

「そうですよね、養子縁組に関する手続き書類はイマール伯爵家の執事様に送付しましたので、時期に手続きが完了すると思います」

 リンカは書類などの手続きをしていてくれていたようだ。


「リオちゃんはこの1週間の間に、研究員となるための過去問を写すことと、出発の用意をすること」

「はい」


 しばらく雑談…この前の戦闘について感想を述べた後、リンクは演習場へ、リンカは事務室へ戻っていった。


-------------⭐︎-------------


「実は、リオちゃんが『魔族の宝石』で魔術が出せるのは、ここだけの話にしたいと思うんだ」

 シャインは2人が出て行った後、残ったマイヤー、ルーカス、リオに言った。

「私達と後、お兄様ね。お兄様は言わないように口止めしとくわ。知っているのは5人だけだから」

 シャインとマイヤーの考えに、ルーカスが、ハイと手をあげた。

「リオちゃんがあの宝石を使えるとして、何か問題でも?」

「大有りよ。実験するから、自分の目で確かめてから、よく考えてみてねルーカスさん。そしてリオちゃんも」

 リオとルーカスは、お互いに目を合わせてから頷いた。


 シャインはローブのポケットから茶色い箱を取り出す。

「あ、それはオレが作った…」

「うん、ルーカスが作った魔術測定器の試作品だよね、だけどよく出来ている」

 中を開けると、電圧測定器のような小型のアナログテスターが入っていた。

 テスターから2つのコードが出ており、先に指輪が付けられている。

「例えば、マイヤー先生が土壁を作ろうとすると魔力はどれくらい使うのか」

 シャインがマイヤーに指輪を渡した。見ててね、そんな感じでリオの方を向く。

 下にあるダイヤルを『土』に合わせた。


 左右の人差し指に指輪を装着し、魔術の態勢を整えて、ハッという声と共に、アナログメーターが動く。

「マイヤー先生の土壁で、32」

「完璧に魔力を使い果たすのが100として、32じゃ、最大3回ってことね」

「でも、魔力を使い過ぎればフラフラになるからね。大技2回、小技1回が普通の魔力の人だよね」


「さて、そこで」

 とリオに指輪を渡すシャイン。マイヤーから亀夫を受け取る。

 ルーカスは、下のダイヤルを『その他』に合わせた。


 リオは亀夫を手の中に納め、鉄砲の形を取り、木を倒すイメージで、撃ち放った。

 メーターが僅かにしか動かず、みんながいっせいにその数字を読み取る。

「5?!」

 マイヤーが大きな声を出す。

「え?リオちゃん、ちゃんと木を倒すイメージのを出した?」

「はい」

 シャイン、マイヤーがルーカスを見る。

「いやいや、オレはちゃんと作ったし、さっきマイヤー先生が証明したじゃないですか」


「だわね…ってことは、リオちゃんはあれが最大20回出せるってことよね。予測では魔力は15くらいだったんだけど…うーん」

 マイヤーは亀夫を手の中に取り、中の顔の模様を天井に向け、透かして見ていた。

「うん…リオちゃんの魔力は測定機で普通だったから、魔族の宝石が消費エネルギーを抑える構造をしているんだろうね」


「はい、じゃあ次は髪飾りね」

 リオは同じようにぴん子を装着し、鉄砲の形でテントを飛ばしたような竜巻を想像して放った。

 アナログメーターの針が少しだけ動き、8を指す。

「8?!」

「あれが?60あってもおかしくないでしょう」

 その場に居た全員が黙り込む。


「だとしたら、副部長、怖くないですか?リオちゃんだけがこれを使えて…」

 と、考えが行き着いたのかルーカスが口を噤む。

「怖いだろ、ルーカス。僕もはじめ聞いた時は、この力を国のために…と思ったんだけど、強すぎるんだ。例えば、今リンクが演習場で実戦練習しているでしょ?あれにリオちゃんが12回、攻撃すると騎士団はどうなる?」

「盾を持っても…立て直す間もなく、壊滅ですよね…」

「1人で何軍率いているんだ…っていう強さだよね」

 鳥と対決した時に飛ばされたテントの近くにいたのだ。ルーカスが畏怖の目でチラリとリオを見る。

 ああ、そんな、三国志最強戦士の呂布を見るような目で見ないで下さい。リオもどうして良いか分からず、そっと目を伏せた。

「私達はただ魔族の研究したいだけだけど、この力は軍用的に悪用されないとも限らないしね。それで、私たちの秘密にしようかと」

 マイヤーは亀夫とぴん子を、オルゴールのような綺麗に装飾された箱の中に入れて鍵をかけた。


「リオちゃんとこの宝石が組み合わされなければ発動しないから、リオちゃんに善悪が判断できる力と、身を守れる力がつくまで保管しておくわ」

「そうだね、このままだと利用されるだけだし、だから秘密だよルーカス」

「はい…」


 なんかすみません…。言葉にならなくて、頭だけ下げた。

「気にすることはないのよ。こうなったのは、リオちゃんのせいではないし、守るのが大人の役目だからね」

「そうね。カイル隊長は鳥が髪飾りに変化したのを見ただけで、これが使えることを知らないし…」

 あの時、マイヤーとカイルはちょっとした言い合いをした。

 その時、リオについて何かを言ったわけではないが…。と、その時のことを想像する。


 見つめ合う2人、大人って感じだった…。どちらもイケメンイケジョだし、あの夜空とたいまつの灯りの元で見た光景は、職場ラブストーリー的な?

 あぁ、いかんいかん、自分の事を考えないと。


 とにかく、魔術については秘密だ。そして、リオは研究員になるための入試の過去問の書き写し、荷物の整理、お世話になった人への挨拶!

 これだけは、きちんとしておこうと心に決めたのだった。

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