第37話 毒可視考察 byマイヤー

 毒の検証はそこそこ上手くいっていた。

 リオ…ラーンクラン国ソール村の薬師は思っていたより低年齢だったが思慮深く、説明もそつがなかった。マナーに対しても、一般人としては問題がない。


 特にエスメラルダ公爵令嬢と邂逅時の対応については、公爵家ともあろう方が捨て置けば良い者に話しかける、という異質なものだったのに、難なく切り抜けられた。


 人のことは、とやかく言えないが、あの公爵令嬢も変わり者だと聞く。

 我が公爵家諜報部隊によると、先を見越せる力の持ち主との事。

 そして末恐ろしいことに、あの同盟破棄回避の立役者とも聞く。もしそれが本当の話なら、彼女は2歳か3歳という年齢での出来事だ。

 恐ろしい能力、もしくは幻のギフトではないか、と思う。


 その彼女がリオに興味を持ったのだ。


 あの子は何か伏せられたものがあるのでないかとは思っていたのだけど、事実は小説より奇なりかしら…?


 リオの言動に関しては、リンクやルーカスよりたまに大人っぽいところが笑える。

 男子2人のお姉さんやお母さんの立場で物を見ているようで、一歩引いているのだ。

 

 でも、彼女の環境を考慮すれば少し見えてくるものがある。

 生来、母親と2人暮らしで、その母が亡くなったのが2年前。リオは10歳で自立しているのだから、たくましくもなる。


 たくさんの従者と暮らすマイヤーとしては、全てを1人でこなしてきたリオには決して頭が上がらない。

 母親…というよりも少し冷めた感じになるのは仕方ないことなのかも知れない。

 だけど、問いを突き詰めると子供っぽい、少し変わった見方をするので、良い意味の非常識で面白い。


 うーん、とマイヤーは伸びをして椅子の背へもたれかかる。


 彼女の人となりを知り、解決しなければならない問題がある。

 まず、紫の煙と言っている毒のことだ。

 煙自身が毒かどうかは分からないが、便宜上『毒』とする。

 その毒の可視としては、検証の結果、リオ、ルーカス、リンクの順に良く見えるようだ。


 リオ本人は気付いていないかも知れないが、毒を見破る能力は人体に影響するものだけを考えれば素晴らしい。


 新しい属性として登録されるのではないかと思う。


『毒系』という名前になるのかしら?


 しかし毒を見破れることにより、王族の毒味要員のみとして徴用するのを、断固阻止したいとは考えている。


 彼女によって得られる研究成果は、計り知れないものになると感じるからだ。


 毒を持つ生物や植物は、普通の人たちが考えるよりもはるかに多い。


 例えば草刈りを下働きの者がしていて、弾けた小さい種子が目に入ったとする。目から種子を取り出したとしても弾けた際の汁により、目が赤くなり腫れるのだ。

 それは汁に毒があるのか、種子自体に毒があるのか、軽い毒なので検証してはいない。軽い時は点眼薬、酷い時は回復魔術を施してもらい、はい治りました、となる。


 それでは良くないと、考える。

 何が毒で何が問題だったのか考えなくてはいけない。なぜなら逆に、その毒の成分が薬になることもあるからだ。

 回復魔術を持つ回復系術者は多くないし、お金もかかる。

 しかし、現在、信仰心を高めるための教団保守派が回復魔術者を加護している以上、薬剤研究の進歩には予算は下りにくい。

 そういう研究に携われば、薬剤・医療の進歩に繋がるのではないかと思うのに…。


 そのようなことから王家の加護を賜り、至宝の玉として扱われること…言い換えれば、新種としてカゴの鳥にし、神官職として神にのみ奉仕することは、科学技術の後退に繋がるということで避けたいところだ。

 さて、その辺りの事務手続きはどうしようかな…と思う。


 リンカと事務手続きについての協議。と、メモに書き入れる。

 1人、王家の息のかかった者もリオに纏わりついているし、上手く立ち回らないと取り込まれてしまうわね。


 ま、彼女自身も薬師で、子供にしては葉の種類などの知識はあるし、やる気もある。希望するならそういう道に進ませたい。アテはある…って、親のようかしら?


 それに、リオの能力はそれだけではない。毒を受けたものに対して、消せる能力もあるようだった。


 土系のラットの動作が緩慢になった時、素早くガラスケースに手を入れ救出した。無意識に助けたそうだが、それが良かったのかも知れない。

 リオが測定機に入っている時の聞き取り調査では、リンク、ルーカスの2人から詠唱なしで毒の煙を消したということだった。

 これはルーカスが本人から、なんとなく聞き出していた。

 ルーカスグッジョブ。


 …あの2人を毒物研究としてコンビにさせるのはどうかな?…後でシャイン副部長に聞いてみるか…と、いうこともメモする。


 ラット5匹の毒を消せる力と少し足りない体力。そのようなことから推測する。


 石と呼んでいる宿屋から見つかったエネルギー物体の毒を、おそらくリオは消せるだろう。しかし、小さい身体への負担を考えると、それをする事は現時点では難しいと考える。


 消せる能力…例えば濁った水を綺麗にするなら、純化?

 毒を消せる能力なら、浄化?


 ふむ…マイヤーは『浄化』とメモする。


 そして、リオが石の中に見えた人影?あれは何?

 なんて言っていたかしら…、メモを見返す。


『宿屋のご主人の苦労した風景と、誰かに騙されて悔しがってたり、悲しがってたり、感情のようなものが入り込んできた』

 ふむふむと聞いていたけど、人の感情が入り込むって、なんだか凄く嫌だわ…。


 騙される、悔しい、悲しい。全部負の感情よね。騙されるって、人と人が起こす闇の部分…。闇が見え…闇が見える?


 毒が見えると言うと、分かりやすい。みんなが毒で苦労しているし、万年毒味係は募集中だ。だから毒が見えるをアピールすれば、イコール毒味係で王族に使われる確率アップ。


 でも、闇が見えるなら?

 まずは彼女の使いようを考えるところから始めるわよね。闇系なんて今まで居なかったから。

 それにはまず謎を解明して、報告書を提出する。一応、来年度予算に盛り込んでみて、予算が下りるかどうかの会議、上手く組まれれば、『闇が見える』で研究室に配属できるわよね。毒のことは二の次にして…。あ、でも、毒のことを進めるならお兄様のところが良いかもね。


 あー、考える事がいっぱいありすぎて!


 実は幸せ。うふふ。


 この予算関係もリンカと協議、と。『闇系予算(リンカ)』『毒説明、お兄様』と記載した。


 そうだ、もう一つ魔族系で考えないといけない事がある。


 今、三団が調査しているラーンクラン国国境周辺の沼地での鳥の生捕り作戦。


 残念ながら、三団は未だ鳥とは会えていない。もしかしたら、この毒素を持ったままの石を持たずして会うことはできないのではないか?という予測が頭をよぎる。

 鳥は石を守っていたのではないか…と。石から出る毒を頼りに飛来して来ていたとしたら?


 1つは持ち帰った『宿屋主人の石』、もう1つは沼地に埋まっているかも知れない『宿屋息子の石』。

 失踪順に考えると、息子はまだ水系動物の状態で魔物化したままかも知れないけれど。

 魔物化…?魔物化か、ひょんなことからこの言葉が出てきたけど、便利な言葉ね。人間が何らかの力で魔物化する…。奥さんは風系の『魔物化』。


 なかなか、便利ね。『浄化』『魔物化』『闇系』。

 

 マイヤーは思っていたことをつらつらとメモした。

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