第24話 石の検証 その1/5

 翌朝、個研に揃った4名、リオ、マイヤー、リンク、ルーカスが1枚の絵に顔をしかめている。


「この…独特の技法を用いた絵は、昨日言っていた宿屋の奥さんだと思われる、その…鳥ですか?」

 マイヤーが無理して微笑む。

「こんな…おぞましい…世の中にあって良いものでしょうか?」

「俺、調査中にこんな気持ち悪いのに遭ったら、カイル隊長呼ぶわ」

 人が真剣に描いたものをおぞましいとか、気持ち悪い絵とか、どういうことよ。ちょっと某恐怖漫画家風に顔に縦線、ドロドロとした煙を点々技法で描いただけではないか。


 でも!実際こんな感じだったし、言うならもっとボインだった。絵にするのはどうかなぁと思ったので、そっちはマネキンっぽく誤魔化したけど。

 ここで、この鳥、もっとおっぱい大きかったですよ〜!?とか無邪気に言っても、マイヤー先生に何となく視線が集まっちゃうでしょ。だから言わないけど。


「この鳥は調査が整い次第、騎士団と共に見学に行きます」

「先生、退治じゃなくてですか?」

 ルーカスがリオの絵を見て、眉を挟めながら言った。その顔を見てリンクが大笑いする。

「そりゃ、この絵を見てたら退治しなきゃいけない感じに駆られるけど。実際は捕獲したいようだよ」


 リオは昨日用意されてなかった紅茶セットを渡され、何となく入れる係になった。みんな貴族だし、こういうことは慣れていないらしい。


 キッチンに立つと隣の窓の外に防風林が見える。お湯が沸くまでの間、外を見ていた。足元までガラスの嵌め殺しタイプなので、防風林の下はコケが生えていることが分かった。

 コケの間にキノコが所々生えており、日が当たりにくいのか、カビか何かで黒くなっているのもあった。

 そこにゴロンと寝転んだカピバラ。


 カピバラ!

 目が合うとバチっと弾かれたように立ち上がって、お得意のツーンをされる。

 あの子だ!

 ちょっと前足で土を掘って、何故か得意げな顔をした後、走って何処かへ行ってしまった。


「リオちゃん、ポット持とうか」

 振り返るとルーカスが立っており、トレイに乗せたセットを渡した。リオはルーカスの持つトレイから、それぞれにお茶を配る。

「あー、美味しい。上手に入れるのね、リオちゃん。これなら侍女にもなれるわよ」

 こちらの世界でのお茶の入れ方は母に聞いていた。ほぼ、前世と同じだったので、要領が良いと褒められた。


 一息ついたところで、鳥を捕獲するための条件を話し合う。


 と、言うのは、鳥がガラス瓶に入っている石と同じ紫の煙を出しているなら、鳥を捕まえた時に雷に打たれたように痺れるのではないか、という予想が成り立ったからだ。

 大きい護符布を使えば良いと考えられるが、切り裂かれる可能性が高い。そのため、一旦捕獲し、バンドで固定し、護符布を巻き付けることが騎士団会で提案された。


 吹き矢か何かで睡眠性薬品を射ることも検討されたようだが、高級魔族には無効なものも多かったため却下された。


 その、一旦捕獲する方法を各方面にて模索しているところである。

「このガラス瓶にはトングで入れたのよね」

 マイヤーがメモを見ながら確認する。

「そうですね。もうすでに布とバンドで巻いてありましたから」

「これを持っていた方は腹痛を訴えていた」


 なんだか取調べのようになっている。


「そうです。石が原因だったようですが、石をテーブルに置いた後も、腹部に紫の濃い色が残っていました」

「腹部に残っていた?」

「はい。それで触診しましたが、腹部には問題ありませんでした。ただ、整腸草のリータを混ぜたハーブティーを飲んでもらいました。次の朝、5時間後には治ってましたし、煙も見えませんでした。」


 フムフムとマイヤーがメモを取る。ルーカスとリンクは目をパチクリさせて、本当の薬師みたい、と言った。


「報告から、護符布を巻いて石をポーチに入れてから、恐らく2時間から3時間以内で影響が出たってことね。そのくらいで支障が出るのは怖いわね」

 コンコンと机をペンで突き、続ける。

「しかも、煙の要因である石を取り払った後も、お腹に残留したということね。…では、リオちゃん?もし、という仮定で聞くけど」

「はい」

「リオちゃんが彼に整腸剤を出さずにいたらどうなっていたかしら?」

 リオは顎に手を当て、下を向いて考えてみる。

「そのまま煙はお腹に留まり、下痢や吐き気を起こします。体力があれば回復しますが、なければ軽くて脱水症状、重くて脱水症状に加え、目眩や手足の痺れですね…たぶん」


「じゃあ、村の子供達や高齢者が触っていたら?」

「乳幼児や高齢者などの弱者なら、死に至ることもあるかも知れませんね…」


 リンクが眉をしかめながら、仮定の話に乗る。

「じゃあ街に、もしこの石が落ちていたら、近付いたみんなの具合が悪くなるってことですよね?知らないうちに。」

「そうなるわね、しかもこの石、相当綺麗な石らしいから、落ちていたら子供達が拾うかも知れないわね」

「そしたら、家の人の具合が知らないうちに悪くなって、一家全滅?」

 リンクとルーカスが顔を見合わせる。

「と、思うけど、宿屋のご家族はそうはならなかった。だから、具合が悪くなるまでは正解だけど、その後が少し違うようね」

「その後は、この鳥に?」

 リオが絵を差し出す。

「「これ、気持ち悪いって!」」

 ハモったので2人が苦笑いした。


 話し合いをしていたら昼になっていた。

「昼からこの護符布の開封許可が下りそうなの。開封場所は研究棟の防魔実験室。このガラス瓶の成分と同じガラスの箱をシャイン副部長が作られたので、その中で開封します。隣の部屋の測定機でリオちゃんのタイプを測るのにちょうど良いでしょ?」

 とマイヤーから説明を受けたので、食堂で昼食にした後、研究棟へ向かうことになった。




 

 

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