空を翔る

Stitch君

第1話【絶望】

ジーーーーーーー深夜0時ーーーーーー……。


カーテンの隙間からは月明かりが入り、

外には虫の鳴き声が響いていた。

その傍にあるベットには、少年が寝ていた。


バサッ!!!


『くっそ!全然寝れねぇ…明日は中学の入学式だってのに、子供みたいだな俺は…』

と、嘆いていた。

少年の名前は、

空野 翔 (そらの かける)

身長160センチ 体重43キロ。

名前の由来は、物心付く前に亡くなってしまった父が、《空の》彼方へ《翔》べるくらい、大きく強く育って欲しいと言った、その一言で決まったそうだ。


チュンチュンチュンチュンチュン、

いつの間にか、少年は寝付き、外は明るくなり、小鳥の囀りが聞こえるようになっていた。


ダッダッダッダッダ!!!ガシャッ!!


勢い良く部屋の扉が開く音がしたと同時に、

高くて強めな口調の声が響く。


『いい加減、起きなさい!!遅刻するわよ!お母さんは、仕事へ行くからね!朝ごはんは用意してあるから、早く食べて行くのよ!』


ガシャン!ダッダッダッダッダ……、

数秒後…………バサッ!!!


『やっべっ!

入学式まであと1時間30分しかないじゃん…』


入学式まで1時間30分しか…と言っても、

普通の人からすれば、1時間30分もある。

だが、翔が焦っているのには理由があった。


それは、

隣町の中学校にしか、バスケ部が無く。

母にお願いして何とか入学が決まったが、

翔の家は、母子家庭のため、母には、負担をかけたくないと言う思いもあり、自力で隣町の中学校へ歩いて行くと決めていたのだ。


そして、

急いで準備を済ませ、玄関を出ようとしたが、何かを思い出し、リビングの端にある仏壇の前に座って、手を合わせた。


『今日から、中学生です。そんなことより俺は、まず、父さんが中学校で出来なかった全国制覇をしてくるよ!行ってきます!!』

…………タッタッタ、ガシャン。カチャカチャ。

仏壇の父の写真が笑ってるようにも見えた。


翔は、慌てて学校へ走り出そうとすると、


『もー!翔!いつまで待たせんのよ!』


と、綺麗な声が聞こえた。

しかし、翔は聞こえない振りをして、そのまま走り出した。


『ちょっと!!無視しないでよーーっ!』


後ろから、自転車に乗って、全力で追いかけてくる幼馴染の橋本 ミアの影が、チラッと見えた。

そして、信号に捕まった翔の元へ、ミアが追いついてきた。

『なんで私のこと無視するのよ!』と、息を切らしながら問い詰めてきた。

それを聞いた翔は、

『なら、なんで俺と同じ学校にわざわざ来るんだよ。』と、面倒くさそうに言い返した。


ミアも負けずと言い返す、

『別に翔が行くからじゃないもん!バスケ部のマネージャーをしたいから行くんだもん!』


翔『なら、1人で行けばいいじゃんか』

ミア『女の子1人でこの距離を通学させるつもり?』

翔『なら、校門までな!勘違いされたら困るだろ!』

ミアは、ボソッと小声で『べ、別に勘違いされても…い…よ。』と言って、1人で赤くなった。


翔『え?なんか言った?』

ミア『なんでもないっ!チビのくせに!』

翔『2センチしか変わんねーだろ!!』

この言葉と共に、2人は楽しそうに笑いながら、いつもの雰囲気に戻った。


翔『もうすぐ着くな。また後でな!』

ミア『うん!部活動見学の時ね!』


そう言って2人は距離を取って歩き、入学式の会場へと足を進めた。


何事もなく入学式が終わり、

部活動紹介が始まった。


『ざわざわざわざわざわざわ』


ピキィーーーーン!!!

『あ、あ、あ!

今から部活動紹介を始める!!!』

体育教師っぽい強面の先生が、場を一言で静めた。

『本校には部活動が沢山有るため、自らがやりたい、やってみたい、興味がある部活動を、思う存分に考え、選んでくれ!以上!』


そして、目次通りに行事が進んでいき、野球部の紹介から始まり、部活動紹介が順序良く進んでいった。

そして、バスケ部の紹介がついに始まった!


『新入生の皆さんこんにちは!』

とても明るく、ハキハキした、優しい声が響いた。

『バスケ部キャプテンの、

滝澤 圭吾(たきざわ けいご)です!

まず、初めに部員が今5人しか居ません!

しかし、全員やる気が有り、日々努力して練習試合や大会にチャレンジしています!初心者、経験者関係無く、やる気のある方は是非!バスケ部に来てください!』


バスケ部の紹介やアピールは続いていたが、

翔は、周りで何人かが、ヒソヒソと喋っている中に、バスケ部に来そうな人を探していた。

言葉には出さなかったが、こう捉えていた。

1人目は、身長190手前くらいの優しそうな人

2人目は、身長は同じくらいでお調子者っぽい人

3人目は、あれ?!さっき、バスケ部入るぞ!って、呟いてたのこの眼鏡かけた小さい人か、案外良いシューターだったりして。

楽しみだな。


そんな事を考えているうちに、全ての部活動紹介が終わった。


『ざわざわざわざわざわざわざわざわ』


ピキィーーーーン!!

また、強面の先生がマイクを取り、場を静めた。

『解散後は各自自由に部活動見学をしてくれ!以上部活動紹介と新入生歓迎会を終了する!解散!』

翔『あの強面の先生がバスケ部の顧問じゃ無くて良かったぁ…あはは。』


その後翔は、バスケ部の紹介をしていたバスケ部キャプテンを探していた。


翔『人がごちゃごちゃしててどこだか分かんないな。ひとまず開けたとこに行くか…』


するとそこへ、

『いたいた!翔〜!』ミアの声がした。


ミア『バスケ部5人しか居ないんだね!同級生で何人か入って来てくれるかな?』


翔『あの紹介してる時に、俺の周りに来そうな人が何人か居たけど、来てくれることを祈るしか無いな』


ミア『え!どんな人がいた?』

気になっているミアの声をかき消すかのように後ろから声がした。


『そこのおふたりさん!うちの部に来ないか?』


翔は振り返りながら答えた、

『すみません、俺たちは……』

言葉が詰まった。


『バ、バスケ部キャプテンの滝澤先輩!!』

2人は口を揃えて言った。


滝澤『おや!僕の名前を、覚えてくれたんだね!とても嬉しいよ!てことは…』


翔『はい!入部希望です!』

ミア『私もマネージャーとして入部希望です!』


滝澤『おお!それは助かるよ!君みたいなマネージャーが来てくれるなら、もっと部員が増えそうだよ!

では、さっそく付いてきてくれるかい?

バスケ部に案内するよ!』


ダムダムッダムダムッ

キュッ!キキュッ!!キュッキュッ!!!

シュパッ!!


翔は、鋭い目付きをした先輩の、低くて速いドリブルからの素早いジャンプシュートを前に、目を輝かせていた。

その周りには部活動紹介中に見掛けた3人の姿があった。


『集合ッ!!』

キャプテンの声で、全員すぐに集まった。


滝澤『バスケ部へようこそ!気難しいことはめんどくさいから、3年から順番に簡単に自己紹介をしようか!』


『3年の滝澤 圭吾(たきざわ けいご)

身長は178で体重は65㌔。

ポジションはパワーフォワード

この部のキャプテンだ!改めてよろしくな!』


キャプテンの優しい口ぶりに1年生がホッとする。

かと思いきや次に、


『同じく3年の藤岡 一希(ふじおか かずき)

身長は170。体重は57㌔。

ポジションはスモールフォワード。

実力試したいやつは言ってきや!』


鋭い目付きに1年生が少し同様した。


滝澤『ゴメンなみんな。口が悪い奴やけど、根は良い奴やし実力は本物やから、聞きたいことあれば聞いたってな!』

1年『は、はい!』


『チッ、余計なこと言うんじゃねぇよ。』

滝澤の発言に、藤岡がボソッと呟いた。


滝澤『なら、次は涼さんの番や』


『うっす!2年の伊田 涼(いだ りょう)です

ポジションはセンターです。

身長は185センチです。体重は76キロです!

1年生にもでかい人来てるからお互いに負けないよう頑張りましょう!』

でかい涼にざわつく1年。


すると滝澤が笑いながら言った

『涼さんお前なぁ!いっつもセリフが真面目すぎなんだよ!』

涼も笑いながら謝った。

それを見ていた1年生も、少し緊張の糸が解けた。


滝澤『次は、1年生紹介してくれるか?やる気のある奴からで構わんぞ!』


1人だけ、すぐに手を挙げて名乗り出た。

滝澤『おぉ!じゃあ君から!』


『はい!マネージャー希望で来ました!

橋本 ミアです!

身長は162で、体重は想像にお任せします!

バスケの監督になるのが夢で、観察眼に自信があります!こう見えて、ドリブルも得意です!』


そう言うとボールを手にして、滝澤に、にこっと笑顔を見せ、滝澤を一瞬にしてドリブルで交わしたのだ。


それには、全員が驚きを隠せない半面少し恐怖すら覚えた。なぜなら、ミアは細い上にハーフの美女で、運動をしている風には見えないからだった。

しかし、

そのドリブルを翔が、一瞬で奪い去った。

それを見て全員が固まった。


ミア『もう翔!!なんでいつも手加減しないのよ!!』

翔『手加減はしてるけど、負けたくないだけ!』


そして翔が自己紹介を始める。


『空野 翔です!この部活で全国制覇をするために入部希望して来ました!身長は160センチで体重は43キロ』(周りがざわつく)

『チビのくせに!って思うかもしれませんが自信はあります!藤岡先輩!さっき先輩が紹介の時に言ってたので、相手をお願いしていいですか?』

翔が丁寧に誘ったが、藤岡は怒って答えた。

『お前舐めてんのか?上等だ。』

さっそく1VS1が始まろうとした。


『ゴホンッ!!まだ他の1年が自己紹介終わってないから、自己紹介を続けてもいいかな?』

と藤岡と翔にキャプテンの滝澤が睨みを効かせた。そして、全員が察した、

キャプテンを怒らせると怖い。


藤岡『チッ。』

翔『すみませんでした!』


滝澤『よし!他の1年生も自己紹介済ませてね』


ようやく1年生の自己紹介が始まった。


『大森 誠也(おおもり せいや)です!

身長は187の体重は75キロです!

ポジションはセンター希望です!』


翔『大森君でかっ!ダンクとか出来ちゃうの?』


誠也『誠也でいいよ!出来るけど中学校じゃダンクは禁止だから意味ないよ。ははは』


『おいおい!

俺にも自己紹介させてくれよお二人さん!』


翔と誠也は、笑いながら謝った。


『川野 大雅(かわの たいが)です!

身長は161で体重は40キロです!

ポジションはミドルシュートが得意なのでそれを活かせればどこでも大丈夫です!』


大雅は、ボールを手にして、ここぞとばかりにミドルレンジからジャンプシュートを放った。


ガンッ…


全員が笑いを堪えれずに、クスクスと小さく笑った。


滝澤『まぁ、今回は入らなかったけど本番で、チャンスの時は決めてくれよ!』

『はい!』大雅は顔を赤くしていた。


滝澤『じゃあ最後に眼鏡を掛けた君!』


『は、はい!

や、山部 勉(やまべ つとむ)です!

身長は155で体重が38キロです。

ぽ、ポジションはシューター希望です!

3Pのクイックリリースが得意です!』


滝澤『クイックリリースかぁ、1本見せてくれる?』


ボールを渡された勉は、3Pラインの少し後ろから、3Pラインの付近へボールを軽くなげて、そのボールを取りに走り込んだ。


それを見ていた全員が驚いた。


勉がシュートを構えるのを、全員が一瞬気付かなかったのだ。

それほど、素早いモーションを、勉は持っていたからだ。


『お前いつの間にそんな練習したんだよ!』

大雅が悔しそうに言った。

そしてまた、みんなが笑っていた。


滝澤『よし、一通り終わったね。何か質問とかあれば今のうちに聞いてくれ!』


翔がここぞとばかりに質問した、

『あの!部活動紹介の時にメンバーは5人居るって、言ってませんでしたか?』


滝澤『あぁ、その事なんだが...実はな...』


そこへ、呼び出しの放送が流れた。

『バスケ部の滝澤くん!今すぐ職員室へ来てください!繰り返します。バスケ部の……』


滝澤が驚きながら言った、

『え?俺何かしたかな?悪いが少し行ってくる!話の続きは藤岡に聞いてくれ!』と言いながら、走り出して行った。


藤岡が慌てて呼び止めようとしたが、間に合わなかった。


翔『藤岡先輩!続きを聞かせてください!』


藤岡はあっさりと答えた。

『やる気ねぇから、逃げ出したんだろどうせ...。お前らもやる気がねぇなら今すぐ辞めていいからな。チッ、つまんねーから今日は帰るわ!じゃぁな。』

と言って帰っていった。


ちょうど藤岡と入れ替わりで、部活動紹介で話していたバスケ部の顧問が来た。

『やぁ!部活動紹介でも見たと思うが、バスケ部顧問の、畠中 透(はたなか とおる)です。いきなり、すまないねぇ。僕がバスケの経験が無いばっかりに、ろくにバスケ部が活動出来ていなくてこのざまだよ。まぁせっかくだから、今日は自由に練習してくれて構わないよ!僕はこのあと、職員会議とかがあるからこれで失礼するよ!』

そう言うとすぐに去っていった。


全員が、少し絶望していた。

しかし、翔とミアだけは、最高と言わんばかりにワクワクしていた。


そして全員が軽いシュート練習や会話をしている所へ、滝澤先輩が帰ってきた。


翔『滝澤先輩!藤岡先輩が話をしてくれたけど、帰っちゃいました。』

滝澤『そうか、みんな入ったばかりですまないな。しかし、もっと重要な話がある。』


全員を座らせ、深刻な表情をして悔しそうに話を始めた。


滝澤『実は、さっきの呼び出しに行くと校長がいて、校長から聞かされたんだ。担当直入に言うと...』


全員が息を飲んだ。


滝澤『この部は、廃部になるそうだ...』






つづく…

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