空の警句

1話完結 空の警句

拝啓、過去へ。

これは、息が詰まる未来の話だ。



世界は、環境保全だの大気汚染だの少子化対策だの動物愛護などぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ言ってるだろうな。政府は常々こう言っているだろう。「今やってます。頑張ってます。大事ですよね分かります。」



未来に来てみればそんなもんは一目瞭然だが、その努力とやらがあったようには思えなかった。

木は減りビルが増え、子供が減りロボットが増え、脳は退化してAIは進化して、



空は、淀んだ。



人々は口々に言う。

技術の恩恵を受け、子供を産まなくなった人々が、言うのだ。

「私たちの美しい空を返せ」と。


未来の政府は何を勘違いしたのか、無駄に進んでしまった技術で、淀んだ空の上に美しい空を投影する計画を立てた。

さらにおかしなことは、国民がそれで納得して大人しくなったのだった。全く、世界が狂っているとしか思えない。



失礼、話が逸れかけたな。


そして、その計画を実行に移そうとした政府は、1つの問題に直面する。

過去の空を思い出せる人間が、いなかったのだ。



政府は大量の金と労力をかけ、過去の空を覚えている人間を血眼になって世界の隅々を探し、ついに1人の青年を見つけた。彼は、何年も前に地下牢へ投獄された犯罪者だった。その青年は、技術革新や都市開発に対し絵や文を通して過度な反対運動を繰り返した結果、永い間地下に投獄されていたのだという。



青年は一時釈放された後に政府直々に呼び出され、空を書く依頼を受けさせられた。



青年の絵は、とにかく繊細だった。その繊細さに心を動かされ、反対運動に賛同する人間が増えたことも、彼の投獄の原因だったのだろう。


政府に依頼され彼の書いた空は、青天井という言葉がふさわしい、どこまでも澄んだ空だった。


しかし、いざ空を書いて投影してみると、人々からは不満げな声が漏れた。


「私たちの空は、もっと華やかだったはずだ。」



青年は困惑した。自分の持てる技術を全て使った空が、地味だと言われてしまった。



政府から文句を言われた青年は、その絵に華やかさを書き足した。

今度は少し赤みがかった夕暮れのような色で、スパンコールのような星が遠くに見える幻想的な情景だった。



しかし、それでも人々は口々にこう言った。


「私たちの空は、もっと感動するような空だった気がする」



また書き直しになり、書き足した。今度は白い鳥が羽ばたく華やかな情景に、大きくそびえる山も書き足した。

しかし、それでも人々は満足しなかった。



そうしたやり取りが続くこと、半年。

ついこの間、その青年が自殺したというニュースが流れてきた。

彼は、両手いっぱいの下書きを抱いて、高層ビルから飛び降りたそうだ。

空に舞う、下書きの数々。重力に逆らって見える大粒の涙。その情景は、目が痛くなるほど絢爛豪華な空には、あまりにシンプルで、そして美しかったのだろう。


ちなみに今の空は、絵師が死んだことにより計画も破綻し、暗く澱んでくすんで、見るも無残な状態だ。



これが君らの言う未来だが、いかがだろうか?

まあせいぜい、長生きしてくれ。



敬具 未来より


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