仮面夫婦

美月 純

仮面夫婦

僕はなぜこの女といるのだろう。

しかも子どもまで作って、もう8年も一緒にいる。

美人でもない、気が利くわけでもない、見た目も性格も人並みか、それ以下なところもある。

例えば、片付けができない。

だらしないおっさんのように、仕事から帰ると、歩きながら服を脱ぎ、放置する。

それを拾い集めるのは、もっぱら僕の役目だ。(最近は子どもが面白がって拾い集めているが)

共働きなので食事も交互に作るが、僕より料理がうまいわけではない。

つまり、この女といるメリットはなく、5歳の息子のことで繋がっているに過ぎない。


「あ、そこの洗濯物取ってくれる」

「あ?あぁ、これね、ホイ」


投げるなバカ、まったく私はなんでこんな男と一緒に暮らしてるんだろう。

結婚した時、思えばアラサーで焦っていた。

ちょうどそこにこいつがいて、可もないが不可もないからいいかと、結婚した。

しかし、生活すると、どんどん嫌なところが見えてきた。

共働きなので平日はお互い食事を作るが、休日は全く何もしない。

今だって洗濯物を畳んでいる私を見ても、言わなきゃ自分の近くの服を取りもしない。

子どもとも、気が向いた時だけ遊んで、私が忙しい肝心な時にはヘラヘラ独りでお笑い番組とか観てる。


「そろそろ、飯にしようか」

「そうね、お腹空いてきたし、インスタントラーメンでいい?」

「あぁ、いいよ」


出た!インスタントラーメン、休日の昼飯くらいまともに作れよ。

先週の日曜もインスタントラーメンだったの忘れてないからな。

ってか子どもの栄養とか考えろよ。

具も、もやしと生たまごのみだし。


「はーい、できたわよー」

「あー腹減った」

「あーはらへっちゃ」


「うふふ、パパのマネすんの?」

「ははは、いい子だ、さっ、食べよう」


なーにがいい子だ。

おまえが一番いい子じゃないんだよ。

ほら、また……食べる時、くちゃくちゃと音立てて。

口閉じて食え! 

子どもがマネしたらどうすんのよ。

ほんと、下品。


「あーうまかった」

「お粗末さま、丼は流しに持っていってね」


「はーい」

「あら、ター君、えらいわねー、パパもお願いね」

「もちろん!」


って子どもかぁ!

ほんとお粗末だよ、もやしインスタントラーメン。

何の栄養もないくせに、偉そうに片付けろだと。

子どもに合わせてるけど、マジ腹立つ。


「あ、洗い物やるから、ママはたー君と遊んであげて」

「わぁ、パパ優しいねー、ター君と遊んでいいって」

「わーい、あちょぼーママ!」


ったく、自分が満腹で、あまり動きたくないから、洗い物を選んだな。

恩着せがましく言うけど、洗うのは丼と鍋だけだから、ちょー楽だし。 

ズル賢いやつ。



「洗い物終わったよ。あっ、この洗濯物もタンスにしまうね」

「ありがとーパパ、気が利くよねー」

「ねー」


なーにが気が利くだ。

飯の前にタンスにしまうくらいできただろ。手抜きもここまでくると、感心して腹も立たないわ。


「片付け完了!じゃあパパもたー君と遊ぼうかなぁ」

「わーい、あちょぶ、あちょぶー」


出た、必殺ご機嫌取り!いざ離婚になったら、親権取るつもりかしら。

ありえない。

親権は絶対渡さないから。


「わー、パパも一緒だと楽しいねー。ほら、この電車ママ動かすから、ター君は車掌さんね」


かーっ!

わざとらしい。

これっぽっちも楽しいとか思ってないくせに。


「おっ、じゃあパパは、駅長さんになってたー君列車を待とう」

「はーい、ちゅっぱちゅ、ちんこー」

「あはは、ちんこーって、下ネタじゃん」


お下劣。

息子になにセクハラしてんのよ。

これはりっぱな虐待だわ。

可愛い息子に何してくれてるのよ。


「あははは、ター君車掌さんは上手に言えたねー。すごいなぁ!」


まただ、自分だけはたー君の味方作戦。

俺が息子に恥かかしたみたいな空気作って、自分は常に味方だよ、アピール。


「あ、間も無くたー君号が3番線に入線しまーす。黄色い線の内側でお待ちくださーい」


キモ!

何が「しまーす。くださーい」だ。

そんな語尾伸ばす駅長おらんわ。


「ター君上手に駅に止まったねーすごーい!拍手〜」

「すごいなー」

パチパチパチパチ


キタァ、ほめ殺し、まだチビだと思って息子を舐めきったもてはやし。

もはや人権無視だな。


「ほんとター君は天才車掌さんだね」

「うんうん、たー君は天才だ、イェイ!」


あ、出たハイタッチ、おまえはイェイとか似合わないんだよ、まん丸な顔して。


「ター君すごーい、ママ、ター君だーい好き!ぎゅー」


出た出た、過剰なスキンシップ。

ま、今のうちだけどな。

今に息子のほうから避けられるのに。

可哀想。

まぁ、そう考えると母親は哀れな存在だな。


「たー君、パパも、ぎゅー!」


マジキモ。

でも息子が成長したら、クソ親父とか言われて口も聞いてもらえなくなるんだろうなぁ。

そう考えるとなんか惨めね。


「よし、三人でぎゅー」

「あはは、パパ、ママ大ちゅきぃ、ん?」


「たー君どうした?マジマジとこっちみて」

「ママの顔になんか付いてる?」


「パパとママって…」

「うん」

「うん?」


「顔似てるね」



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仮面夫婦 美月 純 @arumaziro0808

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