第十七話「少年も魔法少女に恋をした」
「実は僕、君が魔法少女――マジカル☆リリィだと知ってるんだ」
修司の言葉は思いもよらないものだったのか、政宗は口元を両手で覆って受け止めた。
中間テストの結果発表が行われた日、その放課後。変身に使う路地へついてきた修司は約束どおり結人に中間試験で勝ったことをきっかけとして告白を行おうとしていた。
「い、いつから知ってたの……?」
「ゴールデンウィークに入る前かな。リリィの変身を解いて政宗くんの姿に戻るところを見かけたんだ」
「そうなの? ……え、でも待って! 魔法少女のことって基本的には覚えていられないはずなんだけど――もしかして?」
一度は納得しかけた政宗だったが驚愕に表情を染め、結人を見る。政宗の視線に結人は首肯する。
「俺と同じなんだよ。リリィさんを前から知ってて、ずっと覚えてたみたいだ」
「結人くんと同じ……!? ……そっか、そうなんだ」
政宗は目を丸くし、顔を赤くして結人の言葉以上を理解する。
結人と同じ――それだけで修司の内心は語られたようなもの。強い想いがなければ魔法少女を記憶できない。だから、修司が向けている感情は政宗へと瞬時に伝わる。
「じゃあ、もしかして……ボクは昔、修司くんを助けたのかな?」
「あぁ、助けてもらった。そしてずっと言いたかったんだ」
修司は腰から折れて、
「――ありがとう。今の僕があるのはリリィ、君のおかげだ」
いつものクールな雰囲気には似合わない、熱情的な物言いでお礼を述べた。
「か、顔を上げてよ! ボクはマナ回収のために行動したんであって、修司くんを助けたのはついでになっちゃうんだ。あ、マナ回収っていうのは――」
「――いいんだ。魔法少女としてそういう仕事があるのは何となく分かってる。でも、僕が助けられたのは事実だ。本当に感謝してる」
「……そっか。ボクが助けたこと、結人くん以外にも覚えていてくれていた人がいたんだ。……嬉しいな。こっちこそありがとね」
頬を掻いて恥ずかしそうな政宗――だったが、すぐにその表情を曇らせる。
政宗には今というシチュエーションがあの時と重なって見えたのだ。魔法少女の記憶を保持するほどの想いを持っているのだから、それは打ち明けられるべき。
ならこれから、修司は――何を語るのか?
それを思ってか、政宗は助けを求めるみたいに結人の方へ視線を送る。その行方を見つめて修司は深く息を吐き出し、人差し指を突き立てて口を開く。
「政宗くん。一つ頼みがあるんだけど、いいかな?」
「え!? あ、うん……何だろう?」
「今日一日、君の魔法少女としての仕事を見せて欲しいんだ。普段は佐渡山くんと一緒に行動してるんだろう? なら、それを僕にも見せて欲しい」
修司はどこか物悲しい表情と口調で語り、政宗は彼の表情を伺いながら間を置いて首肯した。
結人は自分が邪魔になるのではないかと思い、今からの立ち振る舞いを迷っていたが、
「佐渡山くん、君も一緒に来て欲しい。構わないかな?」
どういう意図か誘われてしまい、断ることができなかった。
結局――この日、リリィはいつぞや結人と瑠璃を抱えたように二人を連れて移動し、三人がそれぞれ落ち着きのない気持ちを抱えながらマナ回収のため街を駆けることになった。
○
「……修司くんはさ。ボクがどうして男の子なのに魔法少女やってるのか聞かないの?」
「何となく察してるよ。僕の中にある予想はそれほど間違ってないんじゃないかな」
躊躇いがちな表情で問いかけたリリィに、修司は爽やかな微笑で返した。
夜七時、いつもの公園――修司が憧れに瞳を震わせながらリリィの活動を見つめる時間を経て、回収したマナは十分な量に。今日はこのまま解散の流れとなった。
つまり、結人との戦いに勝った修司が告白するのは――このタイミングしかない。
(政宗の事情まで察してたのかよ。……やっぱりイケメンは一挙手一投足がカッコいいな。ホント、俺じゃ勝てないよ)
結人は談笑する二人から少し距離を置いた場所にいた。公園の鉄棒にもたれて遠巻きから二人を見つめる。
しかし、彼の表情には憂鬱など浮かんでいなかった。自分の想いを伝え、アプローチを繰り返した日々を経て――政宗から返ってくる想いを感じた結人。
彼は政宗の気持ちが自分に向いていると感じ、今日までの日々が報われることを信じた。言ってみれば、もう手は尽くしたので結果を見守るしかない。なので清々しい気持ちだった。
ちなみにローズには修司の告白を邪魔しないよう、今日は公園に寄らず直帰してもらう連絡を結人が行った。
もしかするとこの場にローズを呼べば修司の告白を邪魔できる可能性はあった。しかし、それはあくまで先送りにしかならないし、結人の中に邪魔したい気持ちがなくなっていたのも大きい。
(俺と同じなんだって、改めて確認させられた。なら長年抱えてきた想いを口にしたい……そういう気持ちは分かる。俺だからこそ)
それに加えて、政宗は修司から告白される権利があるとも考えていた。
結人は修司の想いも知った上で、自分を選んで欲しくて。修司と自分の想いを政宗という天秤にかける――それもまた想いをはかる試験だった。
だから二人の戦いが今、終わる。
修司の告白によって――。
「リリィ、君に伝えたいことがあったんだ。ずっと、内に秘めていた想いがあったんだ。それを伝えたくて……今日まで君の姿を夢見て過ごしてきた」
二人の会話はいつの間にか談笑を終えて、本題へと進んでいた。修司は真剣なトーンで語り始め、リリィは今からの全てを察して手をギュッと胸の前で握る。
始まった、と結人は思った。
そして――、
(あぁ、全部、全部全部、全部――嘘だ。俺、どれだけ政宗の――リリィさんの気持ちを信じたって怖い。自分から気持ちが離れるんじゃないかって予感は拭えない。政宗もあの時、こんな気持ちを抱えていたんだ)
結人は強がっていた自分に気付き、打ち勝ったと思っていた恐怖心と再会した。それは政宗が結人の強い気持ちを知りながら信じられず、瑠璃の存在に抱いた不安と同じ。
強く想うほど影のように付きまとう予感は、同じ大きさで忍び寄る。だからこそ、結人は祈るような気持ちで修司の告白の終わりを待つしかない。
そして、修司が告白のため口を開く。
その時だった――、
「やっと見つけたぜ、メリッサの魔法少女! ……って、あれー? おかしいなぁ。ローズのやつは一緒じゃねーのかぁ?」
「どうやらマジカル☆リリィ一人のようですね。でも、都合がいいのでは? 相手は魔法少女ですから――イジメるなら断然、多対一でしょう」
――地面に降り立つ音、聞こえてくる声。
ぶっきらぼうな口調と、嘲笑気味な物言い。
鬱蒼とした森のような緑色と、人へ危険を警告するような黄色。
それぞれが緊迫した心境を抱える最悪のタイミングで現れたそれは、魔女ジギタリスからの刺客――魔法少女マジカル☆クラブと、マジカル☆カルネだった。
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