第六話「魔法少女の使命、マナ回収」

「ボクが契約を結んだ相手はメリッサっていう魔女なんだ。魔法の国から来たらしくて、メリッサのおかげでボクは魔法少女になったんだよ」


「魔女? まぁ、魔法少女がいるんだからそういう存在がいてもおかしくないのか。しかし、俺からすれば魔女ってのは結構物騒な響きなんだが……」


「そうなの? メリッサはいい人だよ。確かにおとぎ話とかで魔女って不気味なイメージがあるかも知れないけど、きっと会えばそんなの吹き飛ぶんじゃないかな?」


 本物の魔法少女に会ったせいでアニメの物語も現実にある話なのではないかとヒヤヒヤしていた結人。


(いずれ政宗が絶望して行き着く成れの果てとかだったらどうしようかと思ったぞ……)


 とりあえず安堵に胸を撫で下ろす。


「で、その魔法の国からきたメリッサさんは政宗をどうして魔法少女にするんだよ?」


「メリッサは魔法少女にやらせたいことがあるんだよ。その仕事の報酬が願いを叶える魔法ってわけ」


「つまり、その……あれだ、前金として男の子としての成長をカットしてくれた。それもメリッサさんからの報酬ってわけか」


 口元に手を添え小さな声で語った結人に、政宗は「そうだよ」と首肯する。


(つまり、魔女が魔法少女に依頼する仕事が昨日みたいな人助けってわけか)


 ふんふんと頷き、納得しかけた結人。しかしその認識は間違っているようで――、


「魔法少女の仕事なんだけどね、他人の悪意や怒りを集めるのが目的なんだ」


 物騒な響きの仕事内容を聞かされ、結人は表情をしかめる。


「悪意? よく分からないけどつまり人助けはついでなのか?」


「そうなっちゃうね。悪事を働く人の所へ行ってその感情を回収するのが仕事だから」


「魔法少女は人間の感情を回収するのが目的だったのか。となると、それを魔法の国のエネルギーにしたりするのか?」


「うわぁ、すごい! よく分かったね!」


「本当にエネルギー回収なのかよ!?」


 魔法少女アニメの設定を適当に当てはめたら正解してしまった結人。その流れだと結人的にはかなり不安だったりする。


「大丈夫か、政宗! 訳が分からない営業マンに騙されてないか!?」


「ん、んんー? 大丈夫だと思うよ……? あとその営業マンって何? メリッサはそんな感じじゃなかったけど」 


「そ、そうか……? ならいいんだけど」


 取り乱した結人は咳払いし、深く息を吐き出した。


「とはいえ、人間の感情ってエネルギーになるのか?」


「もの凄いエネルギーになるみたい。実は魔法の国が深刻なエネルギー不足を問題にしてるらしくてね。魔女はこれを解決するためこっちで感情を回収してるんだって」


「なるほど。つまり、魔女は魔法の国が抱えるエネルギー問題を解決すべく、回収業務をやってくれる魔法少女をこっちの世界で雇ってるわけか」


「そういうことみたい。こっちの世界としても感情を回収して悪い人の気持ちが落ち着けば平和になるからウィンウィンってやつなのかな」


 結人は政宗の話を聞き、昨日のある光景を思い出していた。


 昨日の銀行強盗事件。リリィに蹴飛ばされた犯人はその後、不自然なほど抵抗せずあっさり警察に捕まったが、あれはマナを回収されて犯罪の意欲を削がれたせいだったのだ。


「しかし、魔女はわざわざこっちの人間を使うのか。マナを集めるのはメリッサさんが自らやってもいいんじゃないのか?」


「魔女は自分達でマナ回収する手間を嫌ってるんじゃないかな。願いを叶える報酬を出せば人手には困らないもんね」


「そりゃあ魔法がない国でそんなエサをぶら下げられたら、みんなやりたがるよな。なんか聞いてる感じ魔女は何人もいるみたいだけど、じゃあ魔法少女も結構な人数がいるわけか?」


「この街はボクしかいないけど、都会だと結構多くてマナ回収の縄張り争いもあるみたい」


 縄張り争いと聞き、結人は見てきた魔法少女アニメを連想する。最近はどれも残酷なシナリオばかりで気が滅入ってしまう。


「ちょっと話が逸れちゃったけど、とりあえずメリッサさんの依頼を政宗がこなしたら報酬として願いが叶えてもらえる。そういう契約で魔法少女をやってるってことだな」


「そんな感じだね。契約の完了は定められたノルマの分だけマナを回収すること。ボクの願いを叶える対価は高くつくみたいで、ノルマは他の魔法少女より多いからちょっと大変だけどね」


「でも、政宗は結構前から魔法少女をやってるはずだよな。あとどれくらいで達成するのかは分からないのか?」


「実は今年一年活動したら達成かなってくらいには回収できててね。もうすぐ願いが叶うんだ」


「本当か!? そりゃ楽しみだな!」


「うん! やっと本当の自分になれるって気がして嬉しい!」


 政宗は無邪気に笑い、結人はそんな表情に見惚れる。しかし、同時に政宗の笑顔から切なさも感じてしまう。


 政宗の願いは正しい性で生まれたなら本来、必要なかったはず。プラスマイナスがゼロの状態から生まれて幸福に向かっていく他の人間に対し、政宗はマイナスからのスタート。


 ようやくゼロに戻れるのを幸福と感じている政宗に結人は同情してしまう。だからこそ、彼は政宗に対して滾る衝動を抱いていた。


「その魔法少女の活動ってさ、俺にも何かできないかな? 力になれたらって思うんだけど」


 政宗は困った笑みを浮かべて考え込む。


「結人くんは優しいね。……でも、この仕事は魔法少女の力で解決する部分が多いし、難しいかも」


「そっか。まぁ、そうだよな……」


 ガクッと首を折り、目に見えて落胆する結人。行き場のない優しさを前に、政宗は再び思案顔を浮かべる。そして――。


「あ、でも一緒にいてくれるだけで結構心強いかも。よかったら今日さ――魔法少女としての活動についてこない?」

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