第26話 2人目


 「まずはナイフおいたら?」


 身構えるフードの人物に小次郎はゆっくりと近づいていく。


 「・・・・・・・」

 

 「女かな、君は? 異能を使ってもいいけど、使っても意味ないよ?」


 「うるさい!」


 フードの女は手に持っていたナイフを腰だめにして、突っ込んできた。ナイフには赤い炎が纏われている。


 (手で受け止めるわけにはいかない、か)


 小次郎は体を開きながら、小指の第二関節を曲げ、スイッチを入れた。横をすり抜けながら振り向いた女に、刃を突き出した。


 「え?」


 パキン!


 刃で炎とともにナイフを弾き飛ばされ、女は立ち尽くした。その一瞬の膠着に小次郎は間合いをつめ、襟をつかみ、刃を突きつけた。


 「・・・・なによ、それ」


 女が観念したかのような声でつぶやいた。


 小次郎はそれに答えず、刃でフードを持ち上げた。


 「・・・確か、望月香耶だったっけ?」


 フードの中から現れた顔はまぎれもなく、学園一位の望月香耶だった。彼女は悔しそうに小次郎をにらみながら、答えた。


 「そうよ。私の名前知ってたのね」


 「ああ、ついさっき知った。・・・意外だな」


 「え?」


 小次郎は襟から手をはなし、ベットに腰かけた。その挙動にはまったく警戒心がない。


 「てっきりA組の誰かかと思ってた」


 「・・・そう」


 「帰れ」


 シャキン


 小次郎は刃をしまい、そういった。やはり警戒心はない。それどころか香耶のほうを見ようともしない。


 「なによ。理由とか聞かないの?」


 「・・・別にどうでもいいかな。君が俺をどう思っていようが」


 「へえ~、そんなこと言っていいの?」


 香耶が頬をゆがめた。


 「私が連れ込まれたっていえば、あなたはここにいられなくなるわよ?」


 「お好きにどうぞ。俺はまた前線に戻るだけだ。お前らは一生日本かごの中に居ればいい」


 「・・・・いつもそうよ」


 「は?」


 「あんたは私たちと同い年くらいでしょう? それなのになんでそうなの? なんでばかにするの?」


 香耶はなぜか泣きそうになっている。小次郎にはそれがなぜかわからなかった。


 「なにが言いたい?」


 「あなたにって私たちの努力はちっぽけなものかもしれない。でも、それでも頑張ってる人はいるんだよ?」


 (今日はよく人と話すな・・・・)


 「傷つけていたのならあやまる。それはすまなかった」


 「・・へ?」


 小次郎が素直に謝ったのが意外だったのか、香耶は目を見開いた。


 「だが、俺の考え方だと君たちのやってることは意味がないんだ。人を倒す手段を訓練しながら、なぜ実践を想定しないんだ?」


 ※次回更新 3月24日 火曜日 0:00

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