第8話 過去1
「一つ、いいでしょうか?」
「なにかな」
「今後、その授業形態を変更する予定などはありますか?」
「は? あるわけないだろう」
(じゃあいいや)
「わかりました」
(別にここの生徒が強くなろうが、弱くなろうが俺の知ったことじゃない。ここは、この国は俺を殺したのだから)
小次郎が日本人をやめた理由は7年前にさかのぼる。
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「仁~、はやくご飯済ませなさい」
「は~い、今行く」
7年前、ある夏の日の夜、狩谷家も他の一般家庭と同じように食事をとっていた。
狩谷家は父狩谷正仁、母狩谷正美、そして一人息子の狩谷仁の三人家族だった。
「それにしても仁が異能者だったとは、父さん驚いたよ」
「えへへ」
仁は照れたように頭をかいた。先日に受けた健康診断で、仁は異能者であることが判明し、自動的に進学先が決まっていた。
「でも、仁ひとりで大丈夫かしら」
「大丈夫だよ、母さん。別に会えないわけじゃないんだし、こいつは案外度胸がある」
そういって、正仁は仁の頭をなでた。そんな団らんのさなか、テレビが速報を告げた。
『え~、今入った情報によりますと、中東傭兵集団«ニサキ»が日本に不法入国し、異能者を拉致しているとのことです。該当地区の皆さんは戸締りをしっかりし、お休みください』
「あ、あなた・・・・」
「お前は上のシャッターを閉めてきてくれ。私は下の戸締りをしてくる。仁は、そうだな」
正仁はクローゼットを開き、その中に仁を入れた。
「パパ? なんで僕だけこんなとこに入んなきゃいけないの?」
「大丈夫だぞ、仁。すぐに出してやるからな」
そして、クローゼットは閉じられた。中からは外はまったく見えず、音しか聞こえない。
正仁と正美が走り回っているようだ。戸締りに必死な様子が伝わってくる。
バキャッ!
突如、金属製のシャッターが割れる音が響き、複数の重々しい足音が聞こえてきた。
「な、なんだ。君たちは」
正仁がかろうじて訪ねているが、声が震えている。
「悪いがな、」
流暢な日本語で、覆面を被ったひとりが口を開いた。
「あんたらには死んでもらう」
バババババババババババ!
打ち上げ花火をすぐそばで上げたような音が鳴り仁は思わずクローゼットの中でうずくまった。
「さてと、迷える子羊ちゃんはどこかな?」
侵入者たちが歩き回る音が仁の耳には怖いほどはっきり聞こえてきた。
(ど、どうしよう、どうしよう)
無理もない、まだ10歳の少年だ。パニックになるなんて言うほうが、どうかしてる。
※次回更新 1月24日 金曜日 0:00
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