3-3
「ッてぇー」
苦悶の声を上げながら、後頭部を擦りつつ英二は身体を起こす。人を転ばすしか能がないたかが低級妖怪、それが彼のすねこすりに対する認識だった。しかしその認識は間違っていたと、たった今彼は身をもって知った。
「……ん?」
その視界に映るのはグラウンドの風景ではなくベージュ色をしたナニか。瞬時に身体の状態を確認する。幸い何処も痛めてはいないようだ。しいて言うなら尻と後頭部が痛いくらいか。自分を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出し、英二は視線を徐々に上げていく。目が合った。トマトのように顔を真っ赤にした
「バカぁぁぁぁぁ!」
ずれ落ちたジャージを引き上げ、逃げるように校舎に向かい走り出す木下とその後を追う山下と中島。「サイテー」と「グッジョブ!」すれ違うときに彼女たちから投げかけられた言葉。一人おかしな事を言ったが気にしない。鼻から赤い液体が垂れていたような気がするがきっと見間違いだろう。
気を取り直した彼はポケットから携帯を取り出すとハンズフリーイヤホンを装着し、相談所に電話をかける。まるで犬のように後ろ足で耳の辺りを掻いているすねこすりを視界に捉えたまま、その場で屈伸運動。
「はい、東雲怪異相談所です」
「ああ、ヒバリさん? 俺、英二」
「……英二君? ちゃんと授業受ける気は無いんですか?」
「いやぁー、あるっちゃあるんだけどさ。理事長から直々に妖怪退治の依頼受けちゃってー。ってわけで、フォローお願い」
「了解しました。……
ヒバリの言葉に英二は口元を歪ませる。ただならぬ雰囲気を察したのか、すねこすりは身を翻し校舎に向かい走り出した。落としていた虫取り網を拾い上げ、地面を引き摺りながら歩き出す。
「さあ、鬼ごっこの始まりだ……」
電話の向こうで彼の呟きを聞いていたヒバリがドン引きしていたのは言うまでも無い。
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