禁書庫


「禁書庫に立ち入る許可をください」


 俺のお願いを聞いた王様は一瞬絶句し、怪訝そうな顔で問いかけてきた。


「お前…何故そのことを知っている?どこで聞いた?」


 禁書庫の存在は国の機密事項に関わることなのだろう。情報源は何処なのかと問い詰めてくる。しかし、俺の答えは呆気なかった。


「自分で見つけました」

「ふむ…。はぁ?!」


 一転して驚きの表情を浮かべ、身を乗り出してくる。


「少し前に扉の奥から不思議な感覚がしまして、その部屋に入ってみたら隠し扉を発見してしまったのでちょっと探検したら禁書庫を見つけました」


 これには少し嘘が混じっている。不思議な感覚がしたのは本当だが、その後はアドバイスの支持に従って進んで行った。城の中のはずなのだが、迷路のように複雑だった。アドバイスまじ有能。


「いやしかし、あそこには封印が施されていたはず…。まさか、封印を…?」

「えっと…こう、ちょこちょこっと」


 俺の軽い発言に対し頭を抱え、ボソボソと嘆いている。


「しまった…。ツェルトの奴にあそこの管理は放りっぱなしだった…」


 何やら深く考え込んでしまった。あれー?俺のお願いは?


「あの、それで禁書庫の立ち入り許可を…」

「お、おう。そうだったな。うむ…」


 再び沈黙してしまった王様。


 やはり一人で決断するのは難しく、宰相や大臣などと相談しなければいけないことなのだろうか?

 俺が今すぐでなくても良い、と口を開こうとすると王様はそうだなと呟き、


「わかった。一通りの調査が終わり次第、お前さんには禁書庫の管理を任せる」

「はい…。はい?」


 一体何を言われたのかわからなかった。管理を、任せるだって?


「いや、あの、俺はただ立ち入る許可を頂ければと…」


 俺は確かにそういったはずだ。管理なんて言われても急すぎる。


「現状、あそこを管理しているものはおらん。だからといって今の大臣らの仕事を増やすわけにはいかんのだ。信用できるかどうかを含めて…な」


 なるほど、と頷く。様々な問題が起こっている中、これ以上の負担はかけることができない。それならば、ということで禁書庫を見つけた俺を抜擢したのだろう。


 しかし、そう考えると一つ疑問がでてくる。


 それは何故、新参者の俺を信用しているのかと言う点だ。


 禁書庫には国の重要な秘密や隠された魔導の書などがあるはずだ。そんなものがある場所を俺に任せるなんてどうかしてる…いや、もとはと言えば俺はその場所の立ち入る許可を求めていたんだ。


 許可をもらえることには変わりない、と思うことにして納得した。


「わかりました。管理をするということは好きにしていいんですよね?」

「あ、あぁ。だが、くれぐれも情報漏えいには気をつけてくれよ?」


 少し心配になってきたのか、釘を刺してくる。


「そこらへんは大丈夫です。ちょっと覗いたときに面白い魔法をみつけたので」

「そうか。頼むから城をふっ飛ばすような魔法は撃たないでくれ」


口元には笑みを浮かべているが、目が笑っていない。禁書庫にはそんな強烈な魔導の書があるのか…。


「ハハハ、そんなことできませんよ」


 ちょっと探してみよう。


「それでは、俺は午後の鍛錬に戻ります」


 こうして俺は禁書庫の管理を任され、地獄のジョギングへと戻っていった。


 部屋に残った王様は、


「あいつ…。私が言い出さなきゃ勝手に自分のものにしてただろ…」


と一人呟いていた。



 部屋を出た俺はこれからどうするかと考えていた。


 鍛錬に戻るといったけどまだ日は落ちそうにないし…。今日は入学の準備があったから勉強の予定もはいっていない。


 歩きながら考えていると、前から歩いてくる人に気がついた。


「あっ、メディくん!もうお話は終わったのですか?」


 なんと運のいいことにアリシアさんだった。


「はい、終わりましたよ。アリシア…さんはどうしてここに?」


 近くを執事が通ったので慌ててさんをつける。


「私は今日のレッスンが無かったのでメディくんの様子でも見に行こうと思っていましたが…」

「僕も今日の勉強は無いんですよ」


 俺がそう言うとアリシアさんはパァっと顔を明るくして、


「そうなんですね!ではまたお散歩しませんか?」


 とても魅力的な提案をしてきた。もちろん断ることはない。


「喜んでお供させていただきます。と言いたいところだけど、もしよかったら秘密の部屋に行きませんか?」


 ちょっと怪しげな誘い文句になってしまったが、俺には考えがあった。


「秘密の部屋…ですか?このお城にそんな場所が?」


 長い間この城に住んでいるがそんな場所は知らない、といった顔で首をかしげる。


「偶然みつけたんだよね。それで…どうかな?」


 嫌、と言われればそれまでだが俺はできればアリシアさんにも知っておいてほしいと思った。早速、王様の忠告を無視してしまったがまぁ大丈夫だろう。


「楽しそうですね!私も行ってみたいです‼」


 興奮したように、無邪気な笑顔を浮かべる。全く疑わないアリシアさんを少し心配に思った。


「じゃあ早速行こうか」

「はい!どこに入り口があるんでしょうか?」


 すぐに行きたいという感情が伝わってくる。俺も鍛錬があるので長くはいられない。ということで時間を貴重に使うことにした。


「少し、お手を拝借いたします」


 そういってアリシアさんの手を握る。手を握っていれば何かあったときに安全ということで別に他意はない。


「え?あ、はい…」


 て、手を握るくらいならセーフだよな…?我ながら大胆な行動をしたと、かなり恥ずかしくなる。


「では行きます」


 ひと呼吸置いて心の中で呪文を唱える。


【転移】


 次の瞬間、視界が一気に変化し薄暗くジメッとした場所に立っていた。


「も、もう!転移するなら言ってくださいよ〜!」


 立っている場所が変わったことで、俺が転移魔法を使用したことがわかったのだろう。アリシアさんは違う意味で顔を赤くしていた。


「あっ、ごめん」


 いつも一人で練習していたので、声をかけるのを忘れていた。今度から気をつけよう。


「びっくりしましたよ。詠唱も無しに転移を使えるようになったんですね!」


 詠唱は魔法や魔術を安定させるために使用するものなのだが、唱えないと魔法が発動しない人が多いので勘違いする人が出てきているようだ。


 まぁ俺も心の中で言ってるんだけどね。そこは見栄をはろう。


「うん。アリシアもコツをつかめばすぐ出来るようになるよ」

「本当ですか?!頑張ります!えっとそれで、ここは…?」


 アリシアさんにつられて周りを見渡す。


「ここは禁書庫だよ」

「禁書庫ですか?あの、それって…封印されてる?」

「正確にはされてた、だけどね」


 封印されていたものを、アドバイスに従って解いてしまったのだ。


 その後のアリシアさんの反応はご想像にお任せします。


 こうして時間が空いたときには、アリシアさんと一緒に魔法の練習を始めたのだ。

 正直、魔法に関してはアリシアさんの方がセンスがあった。元々俺は魔法等が無かった世界から来たので、魔法の感覚を掴むのが難しく何度も練習した。


 あっ、そういえば謎の光に連絡をとろうと思いアドバイスに頼んだのだが、今は忙しいとアドバイスが言うので結局連絡はとれていない。


 なんだかアドバイスに頼り過ぎな気もするな…。使用を控えようと思ってはいるのだが、アドバイスが勝手に教えてくれるのだ。仕方ない。


 こうしてあっという間に日々は過ぎていき、いよいよ入学まであと少しのところまで来た。

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