ステータス測定

 城の中に入り、アリシアさんに案内されるまま講堂に向かっていた。

 二週間お城に住んでいるとはいえ、まだ全体を把握できていない。

 今来た講堂だって城の中を案内されたときに紹介されたくらいだ。


 そんな講堂で今日は一体何をするのか。


 簡潔に述べると、入学するための準備だ。


 準備といっても試験とか何か手続きをするわけではない。

 制服のサイズを採寸したり自身の能力値、つまりステータスを測定するのだ。


 ステータスを測定するためにはとある魔具を使用しなければいけないのだが、その所有権を全てギルドという組織が持っているそうだ。


 ギルドにも種類があり、裁縫、商人、鍛冶といったものや冒険者ギルドというものもある。

 ギルドは一部地域を除き、全ての国に配置されており世界最大規模の組織と言っていいだろう。


 俺が想像していたより少し規模が大きい気もするが、冒険者ギルドの他に様々なギルドが存在しているのは少々驚いた。


 この世界に来るときに冒険者になればいいと聞いていたが…。あっ、

 そういえば俺がこの世界に来た元凶の、謎の光と連絡を取るのを忘れていた。

 少しの間は連絡が取れるようにすると言っていたが、どうなんだろうか?


【現在でもパスは繋がっています。連絡をとりますか?】


 疑問に思っているとアドバイスが答えてくれた。この突然の回答にもだいぶ慣れてきたもんだ。


(いいや、また後にするよ。)


 心の中でそう答えるとアドバイスは、そうですか、と言ってまた喋らなくなった。


 最初の頃は気が付かなかったが、時々アドバイスは普通の人間のような反応を返してくることがある。

 もしかしたら本当に自我を持っているのかもしれない。


 そのことも含めて後であの光と連絡をとってみようと思う。


 そんなことを考えていると、いつの間にか講堂の目の前に来ていた。


「メディくんのいた世界は魔法とかなかったのですよね?」


 唐突にアリシアさんがそんなことを聞いてくる。


「うん、だからステータス測定とか言われてもあまりピンときてないんだ」


 ネット小説などではよく見かけたが、この世界のステータスというものがどういったものかわからないため無駄なことは言わないでおく。


「そうなんですね!実は私も今回が初めてで…。お互いに良い結果がでるといいですね!」


「うん、そうだといいね」


 アリシアさんと話しながら扉の前まで来ると、ゆっくりと扉が開き始めた。

 中に足を踏み入れると、外の空気とは違いヒンヤリとした静かな雰囲気に包まれる。そんな中、俺たちを出迎える人影が現れた。


「こんにちは、アリシア様。私は冒険者ギルドカルスニア国本部職員のイーラと申します」


深々と頭を下げたイーラさんは、自己紹介を終えるとすぐにステータス測定について説明を始めた。


「これからステータスを測定させていただきますが、方法は簡単です。こちらにある水晶に手を置いていただくだけでステータス値が用紙に書き込まれていく仕組みになっております。そして今回は学園に提出する用ですので、私が拝見するようなことはございませんのでご安心ください。なにかわからない事などございますか?」


「はい」


 前々からステータスに関して疑問があったので手を上げてアピールする。


「えぇと、どうぞ」


 基本的にアリシアさんに向けて話していたので、後ろで待っていた金魚のフン程度の俺は眼中になかったのだろう。一瞬、困惑をみせるもすぐに営業スマイルに戻った。


「ステータスって、具体的にどんな項目を測定できるんてすか?」


 別に測定すればわかることなのだがなんとなく気になったので、聞いてみた。


 するとイーラさんは、


「こちらは簡易版ですから…そうだ!それじゃあ一回、私のステータスを出してみますね」


 そう言って水晶に手をかざし、水晶を乗せてある台のボタンを色々と押していった。その手付きは慣れたもので、俺がいる場所からでは何をしているのかさっぱりだった。


 数十秒後、台についている取り出し口から一枚の羊皮紙がでてきた。

 イーラさんはその紙を拾い、俺達に渡してきた。そこには、



    イーラ  

    年齢:ヒ・ミ・ツ

    職業:冒険者ギルド職員

 特殊スキル:無し

    属性: 火


   能力値:(A〜F)

      筋力:B

      敏捷:C

      魔力:D

      効率:D



 こちらの世界の文字で書いてあったが、勉強のおかげでなんとか読むことができた。かなり簡易的だが、四つの項目について評価されるようだ。


「この効率というのは何ですか?」


 項目の一番下にある効率という評価がいまいち分からなかった。


「その効率とは魔力変換時の魔力変換効率を表しています」


 ああ、そういえばそんな勉強もしたような気がする。確か魔法や魔術を発動させる時に、効率の悪い人だと、十の魔力を使っても五の威力の魔術しか行使できない。という場合があるらしい。


「わぁ、凄いですね。私も測定してよろしいですか?」


 アリシアさんが興味津々で尋ねる。


「はい。勿論でございます。では、水晶の上に手を置いてください」


 イーラさんの案内で水晶に手を置くアリシアさん。イーラさんがボタンで少し何かを打ち込むと突然、水晶が光を放ち始めた。


「なんだ?」


 何か異常が起きたのかと身構えてしまうが、イーラさんが驚きつつも感心するような表情を浮かべていたので警戒を解いた。


 そして取り出し口から一枚の羊皮紙が現れた。

 アリシアさんはそれを手に取り、ジッとみつめる。


 結果はどうなのだろうか。固唾を飲んで見守っていると、


「やりました!メディくん!」



 アリシアさんは満面の笑みを俺に向け、その羊皮紙をみせてきた。


    カルザス・ホーン・アリシア

    年齢:十六

    職業:姫

 特殊スキル:精霊加護  魔法行使

    属性: 光 無


   能力値:(A〜F)

      筋力:D

      敏捷:D

      魔力:A

      効率:A



 なかなかにインパクトのあるステータスだった。運動神経はそれほどでもないが、魔力関係がずば抜けており特殊スキルが二つも存在していた。


「凄いですね!アリシアさん」


 俺は率直に褒めた。その言葉にアリシアさんも嬉しさを増していく。


「ありがとうございますっ。メディくんも早速測ってみたらどうですか?」


 アリシアさんに促され、水晶の前で止まる。水晶に手を置こうとするとイーラさんが、


「メディ様は何歳になられますか?」


 と、年齢を聞いてきた。


「十七になりますけど…」


 向こうの世界では高校三年生の春だったので誕生日は遠く、まだ十七のはずだ。

 俺が答えるとイーラさんは、


「承知しました。突然すみません。この装置は年齢毎の平均の値から評価をだしているため、確認させていただきました」


 なるほど、そういうことか。それじゃあさっき、アリシアさんの時にボタンを押していたのは年齢を入力していたのか。


 イーラさんはボタンで入力を済ませ、手を乗せるように促してきた。


 ふぅ、と一息つき心の準備を整える。

 アリシアさんが注目する中、意を決して水晶に手を置いた。次の瞬間




バリーーーン!!!!





 大きな風と共にガラスが割れる音が聞こえた。

 音の大きさに、咄嗟に耳だけではなく目も閉じてしまった。


 しかし、音が聞こえたのは一瞬ですぐに目を開ける。


 音の正体を確認しようと水晶をみるが何故か水晶は割れていなかった。

 確かにガラスが割れる音が聞こえたのだが、てっきり水晶を割ってしまったのかと思っていた。だが、水晶は割れておらずその形をとどめている。


「イーラさん…。一体何が……?」


 尋ねてみるも、イーラさんは真っ青な顔をして一生懸命に水晶台のボタンを押していた。そこには、出来る女風だった彼女の姿はもうなかった。


 イーラさんがボタンを押している音だけが響き、数分経った。

 有無を言わせないイーラさんの連打が終わると同時に、羊皮紙が一枚現れた。


 ぜぇぜぇと肩で息をしているイーラさんを横目に、その羊皮紙を確認する。


    メディ

    年齢:十七

    職業:使用人

 特殊スキル:無し

    属性: 火 


   能力値:(A〜F)

    筋力:C

    俊敏:B

    魔力:C

    効率:C


 あっれぇ〜?!おかしいな?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る