お城と父親
「はぁ、はぁ、焦ったぁー!まさかこっちに来るなんて…」
飛び出しそうだった心臓を抑え、呼吸を整える。
あいつは戦闘中じゃなかったのか?まさかあの人達は全員…
だ、大丈夫だよな、結構な人数いたから負けるはず無い…よな。
そんなことよりも、俺達はちゃんと目的地に飛べたのだろうか。顔を上げるとそこには、綺麗に手入れされた花壇に美しい花たちが咲いていた。
「か、帰ってこれました~」
その場にへたり込む彼女。どうやらしっかりとたどり着けたみたいだ。俺も一緒になって座り込む。あぁ、ひんやりとした石畳が俺を迎えてくれる。
ん?何やら視線を感じる…。
「お、おい!貴様、何者だ!」
フルプレートに身を包んだ、声は男らしい人物が近づいてくる。
そしてその手には鋭い槍が握られていた。
「一緒に居られるのはアリシア様じゃないか?」
「本当だ!まさかこいつが…?」
な、なんでこんなところに兵隊みたいな奴がいるんだ?
そういえばアリシアさんとリンクした時、城の中に入ったような…。
ま さ か
「えーっと、アリシアさん?貴女は何者なんでしょうか…?」
「あの…私は…」
【その場を離れて下さい!】
アドバイスの発動と同時に悪寒に襲われた俺は前転し、回避をとって即座に立ち上がる。
次から次へと…今度はなんだ!?
振り返ると先程まで俺が立っていた場所、アリシアさんの隣にガチっとしたガタイの良い中年の男性が立っていた。
やがて口を開き、
「おいおい避けるなよ?お前じゃなく地面を殴ったら破片が飛んで俺の娘に傷がついてしまうだろう?」
そう言い放ち、指をバキバキと鳴らしている。
「か、カルザス様、どうかお下がりください。ここは我々が対処致します」
いつの間にか集まってきていたフルプレート達がなだめる様に話しかける。
「いいや、今ので分かった通りお前たちじゃ取り逃がしちまう。それに…ケジメはつけさせねぇとなぁ‼」
勢いよく地面を蹴り出し、見た目からは想像できない速さで迫ってくる。
何故、と問うことも出来ないまま右の拳が飛んでくるが、俺の体は思っていたよりも素早く反応していた。
流れるように拳を避ける。運よくタイミングが合い続け、避けることが出来ているがそれもいつかは……
カタッ
しまっー!
花壇の端に足を引っかけてしまい体勢が崩れてしまう。
当然、相手がその隙を見逃すわけがなく、目の前に拳が近づき——―
「お父様!お止め下さい!」
当たると思ったが、誰かの静止する声で後数センチの所で逃れることが出来た。
あ、危なかった…。
急に襲い掛かってきたこの人の拳にはオークの拳よりヤバイ香りがして、もし当たっていたらと思うと…
心臓の鼓動が早く重く動き、その危険性を伝えている。
「私
・
の
・
恩人様に何てことするのですか!」
「いや、その…恩人?しかし、お前が居なくなったと聞いて私は…」
「そんなの知りません!大体、お父様は人の話を——――」
そんな俺とは逆に、元気に喧嘩をしている二人。
止めてくれたのはアリシアさんだったか。しかし、このままでは話が進まないな。俺の事はガン無視してるし…フルプレートの人たちの目線が痛い。
「一体何が起こっているんですかね!」
無理やり話に加わった。彼女はしまった、という顔。一方、アリシアさんにお父様と呼ばれている男はしかめっ面で睨んできた。
「ごめんなさい、私の父が失礼致しました。こんな人放っておいて私の部屋へどうぞ」
ニコニコしながら俺の手を取り、城の方へと歩いていく。彼女の手は小さく、ヒンヤリとしていて自ら離そうとは思わなかった。
「ちょっと待てアリシアよ。そ、その男は誰だ?それに何処へ行っていたんだ?お父さん、逢瀬なんて認めないよ?」
「そんなのじゃありません!…私達は部屋へ行きましょ?」
お父さん?に呼び止められるも無視をして城の中へと進んでいく。流石に可哀そうだし、事情を説明しないと不味いだろう。ここは一つ、恩を売っておくとしよう。
「アリシアさん、凄く心配してくれてるみたいだし、事情ぐらいは話しておいた方がいいんじゃないかな?」
俺の言葉に反応し、立ち止まる。
「分かりました。私の部屋ではなく客間でお話することにします。少々お父様に話してきますね。……案内をよろしくね、ポムちゃん」
ポムちゃん…?そこで彼女の視線が俺の後ろに向いていることに気が付いた。
反射的に振り返るとそこには——―
「わふ」
犬がいた。正確には犬のぬいぐるみがあったと言うのが正しいだろう。
いやでも…今鳴いてたしな。呼吸もしてるみたいだけど所々縫い目があって身体も布で出来てるし…。
どうなっているんだ…?人工物であることは明らかだが…
「わんわふ」
その犬は彼女の言葉を聞き、城へと向かっていく。その後ろ姿はついて来いと言わんばかりに自信に満ちている様だった。
「あ、アリシアさんっ、これって…」
質問を投げかけようとするも、すでに彼女は事情を説明しに行ってしまった。一人になった俺は仕方なく―――
「何だと!転移の通路が!?それは大変だ、ツェルトはどこにいる!?」
アリシアさんの言う通り、ポムちゃんについて行くことにした。
——―――――――――――――――――――――――――――
流されるまま客間らしきドアの前までやってきた。
ここに来るまでに人に会うことは無かったが、天井やドアの隙間等至る所からチリチリとした視線を感じた。監視されてたのかな?
「わふー?」
一方、ポムちゃんはそんな視線など気にしていないようにどんどんと歩いていた。
どうやら褒めて欲しいらしく、足に擦り寄ってくる。こうしてると犬じゃなくて猫みたいだな。
よぉーしよし
「わふーん」
どうやらお気に召してもらえたようだ。
いつまでもドアの前に立っている訳にはいかないので部屋の中に入ることにする。
ドアを開けると、派手な絨毯や置物、ソファーに机など豪華と言える調度品が清潔さを保って置かれていた。使用された形跡が全くない。
この部屋で待っててと言われたけど…こんな高級そうなソファーに座っていいのだろうか?
立っていることにした。ポムちゃん?部屋に入った時からいなくなってたよ。報告でもしにいったんじゃないか?
さて、一人になった俺はゆっくりと考える時間が生まれた。
まずは俺は謎の光に元いた世界とは違う世界に飛ばされた。そこで貰ったのが、特異体質とテクニシャン。それと身体能力も強化されているみたいだ。オークに殴られても痛くはなかったからな。
しかしそうなると、アリシアさんのお父さんの拳はとんでもなくヤバイものだったことになる。
そういえば耐性っていうものを貰えたんだよな。スキルとは違うのか?ステータス画面を確認するも特に追加されていない。
まぁ確認できないならそれでもいいか。
それにしてもこちらに来て初めて話したのがアリシアさんで良かった。変な人だったら面倒なことに巻き込まれていただろうからな。アリシアさんで良かった。
アリシアさん…ねぇ。彼女は何歳なのだろう。十六…いやそれよりも下か?失礼だが、時折言葉の節々に幼さがみえる。だが俺よりも頭が良さそうに思えるのは何故だろう。
彼女への興味が深まり次々に知りたいことが出てくる。どんな食べ物が好きなのか、何色が好きなのか、好きな動物は?好きな男性のタイプは?婚約者とかいるのだろうか。
彼女の傍にいることは出来るだろうか。
ガチャ
「お待たせしました…。何故立っておられるのですか?」
「ん?あぁ、気にしないで」
「そうですか、ではこちらにお座りください」
そういって入ってきたアリシアさんと、
「おい小僧、何も壊してないだろうな?」
襲い掛かってきた父親だった。
「もう!お父様も突っかからないでこちらに来てください!」
彼女の指す場所はあの高級そうなソファーだ。戸惑いながらも、案内されたソファーに腰を掛けた。
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