実力差

戻ってきた。

まるで誘導されるように一本道になっていた通路を行き、一樹の元へとやってきた。

牢屋の中で頭を抱える姿を目撃すると、まだ戦っているのではないかと思えるが、七機は臨戦態勢を崩すことなく俺に力を使うことを要求してくる。


言葉ではなく手で指示してくるのは、俯いている一樹に悟らせないためだろう。思考会話すら読まれる可能性を考慮しているようだ。


それほど慎重にならなければならない相手ということか。


「うっ!?」


未来の映像が、うねる。うねる。まるで生き物であるかのように無数の映像がぐにゃぐにゃと視界に飛び込んでくる。


気持ち悪い。


脳が処理しきれず、口を抑えて膝をついた。一樹から視線を外せば収まったその現象。収まったことは分かるのに荒い息が止められない。


「大丈夫。お兄ちゃん!?」

「お前、あの映像……」

「分かってる。でも、必要なことだよ」


相手がどれだけ強大であるか、七機たちには分かっているのだ。長い付き合いだからこそ、この行為がどれだけ無謀なことなのか承知しているはず。それでも、俺の願いを聞こうとして立ち向かってくれたのだ。


ここで膝をついていいわけがない。俺だけが、キツいからと下を向いていていいわけがない。


立ち上がり、一樹を見つめる。


ぐにゃりと歪んだ視界。いくつかには、俺たちの死を含まれている。だけど、それは訪れていない。三秒たっても、その未来が確定しない。


「まだ、未来が決まってないんだな?」

「うん。確定させよう。僕たちで」


武器を取る。


戦闘準備は整った。いつでも仕掛けることは出来る。

頬を叩いて気合いを入れた。何がなんでもこの右目だけは守りきる。そうすれば、七機は戦える。俺たちの役割を全力でこなすのだ。


「いくよ!」

「おう。ちゃんと見とく」


七機が駆け出す。

何も無かった場所から突然木が生える。それは、意志を持っているかのように動き、七機を串刺しにしようと襲い来る。


戦闘領域があるのだろう。そこに入ったからこそ、攻撃が開始された。


その木や地面に対しては、未来を確定出来た。一樹から少し視線を外すと歪みはマシになる。


ちゃんと見る。


それこそが、観測者である俺の戦いだ。少し先の未来で勝ちを拾いに行くのだ。


七機は流麗な動きで攻撃を仕掛ける木を避けていく。最初はすれ違いざまに斬ろうとしていたが、刀の方が壊れる。それほどの強度を持つ木に打つ手がなく。避けていくしかなかった。


「近づかせないってことか」


一樹は顔を上げない。


高速で動く木を制御しているのは一機であることは間違いないが、何も見ないで操れるセンスは舌を巻くしかない。

五行で言えば相剋で有利に働くはずなのに、力の差なのか完全に押されている。

未来を知ることで避ける道が分かるだけであって、高速戦闘において現状は厳しいとしか言いようがない。

何せ、未来の映像すら早送りで見ているような感覚なのだ。

俺が単身突撃したら体中穴だらけである。


俺たちの考えた策が実行できるまで悟られないように時間を稼ぐ。


不安はある。それでも、やるしかないのだ。

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